旅とコインランドリーと少女と

2017年7月30日日曜日

#雑記 #旅

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 洗濯って面倒なもので、なんとかならないかといつも思うのです。
 一泊以上の旅に出る時、荷物の中で一番スペースを取るのが着替えでしょう。服ってのはただでさえかさばるくせに、下着に外着に靴下に寝間着に、まあ色々必要になるわけです。
 でもなければ困るのも事実。
 ですから仕方なく持ち運ぶことになるわけですが、どこかで洗わないといけません。旅先ではコインランドリーに頼ることになるわけですが、今日はそのコインランドリーにまつわるお話を。


 
 最近じゃコインランドリーも洗剤が自動投入されます、ってタイプが主流になったんじゃないでしょうか。
 ちょっと前までは、家で使うような箱入りの粉末洗剤を車に積んでおいて、旅先の洗濯に使っていた記憶があります。
 出張では小分けになっている洗剤が重宝したりしてね。ビジネスホテルに備え付けのコインランドリーって洗剤が必要だったりしますから、今でも小分けタイプのものはいくつかストックしてあります。
 
 洗濯って待ち時間がどうしても発生するもんですから、旅先ではその時間を上手く活用したくなります。
 ただ待ってるってのも悪くはないんですが、近所に食堂なんかがあれば、洗濯中にちょっと腹を満たして帰ってくるとちょうど良かったりしてね。
 最近じゃ洗濯乾燥一体型のやつも置いてあったりするので、それに洗濯物をぶち込んで飯を食いに行くってのはよくやります。
 そういうのを狙ってるせいか、ショッピングモール内にコインランドリーがあったりしますよね。上手いこと考えてるもんです。
 
 
 旅先でコインランドリーを見つけるのって、ちょっとコツがいるなと感じることがあります。ネットで調べても、店舗が無人で電話を引いてないせいなのか、検索結果がイマイチなんです。
 クリーニング店が検索結果に出てきたりしてコインランドリーかどうか見分けがつきにくいのと、クリーニング店併設コインランドリーなんてものもあるもんですから、「○○市 コインランドリー」とかで検索すると、出てきた結果を見て判断に迷うことがあるんですよね。
 
 そういう時は先程書いたように、ショッピングモール付近かどうかをチェックしたり、大手のチェーン店の名前で検索するなど工夫して見つけるのですが、いざ行ってみるとそういう立地のせいか洗濯料金が少々お高かったりしてね。
 さっきの時間潰しの事も含めて、旅先で「いい感じの」コインランドリーを見つけるのは意外と手こずるなという印象です。
 ですから、何日か滞在するとか、あるいはそろそろ洗濯しないと着るものがないってな時には、移動中にコインランドリーがどこにあるかを無意識のうちにチェックする癖がついています。
 
 
 この日も出先で痛感したのです。
 いよいよヤバいと。
 夏なんて嫌いだと。
 汗びっしょりのシャツを鬱陶しいとばかりにエイヤっと脱ぎ捨てながら、洗濯しなくちゃマズいなと思ったのが、午後三時くらい。
 幸い何度か来たことのある地域だったので、コインランドリーの場所を把握していましたから、そこに行くことにしました。洗濯物を詰め込んである、いい具合に膨れ上がったカバンの重いことったら。
 
 そのコインランドリー、利用するのは初めてでしてね。大きなスーパーマーケットと敷地が一緒で、スーパーのほうは何回か立ち寄ったことがありました。
 地域性なのか業界内の競争が厳しいのかわかりませんが、このあたりのコインランドリーは低価格で利用できるお店が多くて助かります。
 この店も「洗濯400円〜」という謳い文句が窓に貼ってあるので、一番小さな洗濯機がその値段なんでしょうね。
 
 今日は世間の皆様的には休日とあって、スーパーのお客さんがコインランドリー側にも車を停めているのか、店内に人影は見当たりませんが駐車スペースはそこそこ埋まっています。
 近くには前から気になっていたラーメン屋さんもあることですし、遅い昼ご飯にはもってこいだなんて思いながら、空いている駐車スペースに車を停めて入店です。
 
 設備的には古い感じのする洗濯機が10台くらい並んでまして、奥の壁沿いには乾燥機がその倍くらいはあったと思います。
 コインランドリーも店舗によっては店員さんが常駐してるところもあるのですが、ここは無人。乾燥機がいくつか回ってますし、設備は古くても利用者がいるなら問題ないでしょうってことで、溜まった洗濯物をやっつける戦いを始めることとなりました。
 
 今回は洗濯物が多いので中型の洗濯機をチョイス。600円で、かつ洗剤が必要なタイプです。
 最近は洗剤不要のコインランドリーばかりだったので洗剤なんてないぞ、と思ったのですが、要洗剤な洗濯機があるところでは洗剤も自販機などで売ってることがほとんどですからね。それを利用すればいいかと自販機に向かって歩き出した時に、いや待てよと。車内に小分けの洗剤がなかったっけ?
 
 ありましたありました。余計な出費をするところでした。車を停めて間もないのにもう温度が上がりつつある車内から、無事洗剤を発掘して一見落着。洗濯時間は35分ですから、ラーメンタイムに突入すればいい塩梅でしょう。
 
 
 回り始めた洗濯機をボンヤリと眺めているのも嫌いじゃありませんが、ラーメンラーメンと脳内で唱えながら店を出たんですよ。
 世の中何があるかわからないものです。外に出たら出会いが待っていました。
 駐車場に停まってる車の、ある1台の運転席に座ってる女の子と目があったのです。残念ながら恋の始まりじゃありません。相手はおそらく5歳くらいですから。
 
 ちっちゃい手でハンドルを握りしめ、というか掴まってるような感じでこっちを見ているその子は、おそらく普通自動車第一種運転免許を取得していないばかりか、補助輪付きの自転車もまだ乗ったことがないんじゃないでしょうか。
 
 すぐに「炎天下の子供の車内放置」なんて新聞記事の見出しが浮かびましてね。
 ですがエンジンはかかっているようですし、敷地内にスーパーがありますから親御さんもすぐ戻ってくるんでしょうと、思い直します。
 最近はホラ、ちょっとお節介するとやれ不審者だ通報だなんだというご時世ですからね。一旦忘れてラーメンタイムにしようと、その場を離れたのでございます。
 
 
 件のラーメン屋で頼んだつけ麺は、ひと口目がこの世のものとは思えない美味さだったのですが、食べ終わる頃には値段相応だなという感想に落ち着いておりました。
 なんだかんだ言ってもお腹は満たされましたし、ちょっとお高いだけで美味いのには違いありませんからそれなりに満足したんだと思います。
 洗濯はもう終わった頃だろうなと思いながらラーメン屋を後にした時は、その満足感もあって完全に忘れていたんですがね、コインランドリーの駐車場に着いて思い出しました。
 例の女の子の車がまだ停まっているんです。
 
 いよいよこれは、ちょっとよろしくないなと思いつつ、とりあえずは洗い終えた服を乾燥機へ移動させます。この季節なら乾燥時間が20分は長いかなと思いながら、10分100円なので投入口に100円玉2枚を入れて乾燥スタート。
 乾燥させすぎると生地が痛みますし熱によって汚れが落ちにくくなるので、季節によって乾燥時間は変えたほうがいいんですよね。
 服に付く汚れを大別すると、汗や皮膚からのタンパク質によるものと、あとは食べこぼしや泥なんかがほとんど。このうちタンパク質ってのは熱で布地に固着してしまうので、乾燥機を使う場合に乾かし過ぎは良くないんです。
 
 そんな小話の間に、大きなクラクションが鳴りましてね。
 コインランドリーの店内にいますからハッキリしませんが、おそらくあの女の子がいたずら、というか触っちゃってクラクションが鳴ったんだろうとピンときました。

 炎天下に子供を車内放置するのは良くないって話になると、エアコンを付けておけばいいなんて意見を聞くこともありますが、子供、特に男の子って後部座席に座らせておいてもヒョイヒョイと運転席へよじ登るくらいは朝飯前。
 男の子なんて乗り物の運転に憧れるものですし、どうやって動かしているかも見ていれば覚えちゃったりするんですよね。
 背が小さいとはいえ、ハンド(フット)ブレーキを解除したり運転席の足元に潜り込んでアクセルを踏むことだってあり得るわけで、状況的に施錠されているであろう車を外から止めることなんて無理でしょう。
 
 
 少なくとも知る限りでも一時間近く経っていますし、さすがに黙っているわけにもいかないでしょう。
 警察に電話かななどと思いながら、コインランドリーを出てその女の子の様子を見ようと乗っている乗用車に近づいてみたんです。
 そしたらね。
 おそらくお父さんと思しきおじさんが、運転席のシートを倒して仰向けで明らかに爆睡していらっしゃるのが見えたんです。女の子はその膝の上に乗っかって、楽しそうに車を運転しているような感じで遊んでいます。
 
 離れて見た時には、寝ているお父さんがちょうど車の窓から下になっていて、車内には子供ひとりのように見えたんですね・・・
 冷静に考えれば、5歳くらいの女の子が運転席のシートに座っているにしては、窓から無邪気な顔が見えるってのも位置的に変ですよね。
 そういうことであればまあ問題ないでしょうから、踵を返してまたコインランドリーの中へ戻りました。もうちょっとで乾燥も終わるでしょう。


 結局、乾いた洗濯物を畳み終えて、えっちらおっちらと車に戻っても、例の車はその場に居ました。
 そんなだったらもう帰ればいいじゃんと思ったものの、事情があって帰れないとしたらどうなんだろうとも考えてみたりするのです。
 
 些細なことでケンカして奥さんが実家に帰っちゃったから、食事作ったり掃除洗濯して大変で、それがもとで仕事でミスして怒られるけど「こういうのもいいもんだな!」なんて強がり言ってみたりとか。
 
 身代金目的で連れ去ったけど、二、三日一緒にいる間に「おじさんはいい人よ?」なんて言われて懐かれて、こっちもちょっと情が移っちゃって、これからどうしようか途方に暮れてる誘拐犯じゃないかとか
 
 はたまた平成の子連れ狼的な親子で、二人旅の途中で洗濯するために立ち寄ったんじゃないかとか。あの爆睡父ちゃんは公儀隠密の刺客で、車内のボタンを押すとボンネットから機関銃が出てきてダダダダダっ、とか。
 
 もう会うこともない女の子とお父さん、無事どこかへ帰り着いてるといいのですが。

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