短い旅の長いお話 〜ShortStay LongLyric〜

2026年11月3日火曜日

#宿 #旅

t f B! P L

 宿を探し続けていました。

 明日、泊まれる宿を探し続けていました。泊まれるならどこでもよかったけれど、なるべくならそんなに遠くなくて、なるべくならそこそこでいいから快適そうで、なるべくなら無料朝食バイキングとか混んでいない大浴場とかがあったらいいなと思っていました。

 なるべくなら。

なるべくなら旅にでて 

焼き鳥屋にて

 はい。

 始まりました。始まってますよ。ねー。

 その、短めの旅に行ってきました。どっかに行けるタイミングがもう、ここしかないかなっていうことで。

 もうね、身体を休める気がない。一日寝てたいと思うよ、思うけれども寝てていいんですかと。そんなんでいいんですかと。

 いや、いいんだよ。休息したほうがいいに決まってんだ。いいに決まってんのにさ。

 病気だよね。レアなクランケだよ。クラーケンだよ。味噌蔵 健の5歳の頃からのあだ名だよ。義理のお父さんがクラーケンだからだよ。昔っからのクラーケンだからだよ。愛すべきクラーケンだからだよ。

 で。

 旅に出る前の日の夜。

 違うな。正確には旅に出ようと思った日の夜って感じ。一切、なんにも計画とかはなかったんだから。なーんにも。

 きっかけのひとつは、いつも使ってる、じゃらんって旅行サイトっていうか宿の予約サイトから、今月限定で千円分として使えるポイントが降ってきてたのをすっかり忘れてまして。

 きっと忘れてるだろうなっていうか、降ってきたのは当月の半ばくらいでさ。メールが届いて。ポイントあげます的なメールが届いてて。

 普通、そんなの詐欺メールとかだと思ったほうがいいよね。このご時世、そういうのは簡単に信じないほうがいいじゃん。

 だってそんなことあります?

 急に知らないおじさんが千円くれるようなもんだぜ。ホテル代の足しにしなさいって千円くれるおじさんなんてあれだろ、町工場の社長かなんかのクラーケンみてぇな髪型のあいつ以外にいないだろ。

 え? この人が新しいお父さん⋯!?

 そりゃあグレるよ。健くんもグレる。ちゃんとグレるよ。

 で。

 逸れなくていい横道には逸れなくていいんだよ。読者様が読みづらいだろうよ。

千円あったら 

 で。

 急に千円、そりゃその、じゃらんでしか使えないやつですよ。ましてやその限定ポイントだけじゃ、泊まれるわけもねぇけどさ。

 でも、ホテル代千円引きだよ。

 ドミトリーとかさ。下手すりゃ曜日によっては一泊3千円切るようなところだったら、大幅値引きになるわけですよ。

 ヒルトンなら一泊10万円が9万9千円でいいんだよ。

 そりゃあ使うよ。ありがたく使いますよ。

 でも、それが降ってきた日に即、じゃあここで、っていうほどスケジュール的にも行きたい街的にもちょっと決められなくて。

 とりあえず、保留しましょうと。その限定ポイントの消費期限ギリギリまで、いったん保留してたのを思い出しまして。

 もったいないしどっか行くか、ってことになったんです。

 そのポイントは、今月中に宿を決めて予約する際に限定ポイントを使いさえすれば、行くのは来月以降でもいいよという感じでして。

 だったらこの土日、今は金曜の夜なんだけど、明日土曜日は午前中だけ出社するものの、さすがにその日の午後からは休みだってわかってるから。

 いやね。

 こんなこと書いてもアレなんだけどさ。仕事的には緊急対応みたいなことも、あたしの範疇にありましてね。万が一、なにかしらのトラブルがあると、対応しないとならないんです。

 それはまあもう、仕方がないよね。なんにもなけりゃいいんだけど、不可抗力ってもんが世の中にはあるし、困ってんならどうにかしますよっていう、ただそれだけの話でね。

 そういう、突発的なやつがなければ家で怠惰の精霊が乗り移ったかのような、ぐーたら妖精へにょでれんが、たれぱんだのコスプレしたぐでたまを田舎の農機具が入ってる小屋のシャッターに当然無許可で描いちゃってる絵みてぇなさ、絶妙な下手さのへにょでれんが乗り移ったようなダメさ加減で家にいたっていいわけですよ。

 ⋯うん。

 …あのね。

 今出てきたやつを、たった今脳から出てきたぐーたら妖精へにょでれんを、みなさんご存知くらいの勢いで例えとして出しちゃダメじゃない?

 わかんねぇから。こっちの頭ん中にいるやつ「みたいな」とか言われましても。読んでる人たちにはわかんねぇから。背中の羽とかしわっしわだとか目が赤いとか伝わらねぇから。

 で。

 なんの話してたっけ。もうなんか千円くれる知らねぇ町工場のおっさんとかぐーたら妖精とか、出てこなくていい奴らのせいで色々どっかいっちゃったよね。

泊まれる宿は何処に在る 

 ここまで書いといて、まだ旅に出てないんだよ。早く行けっていうさ。

 で、金曜日の夜のことです。

 仕事から帰ってきまして。バカみたいに残業するハメになってようやく家に辿り着いたってのに、明日も仕事っていう仕打ちにあってんのね。

 メシを食べながらスマホを見てたら、時期が来たらメール受信箱のトップに出てくるようにしてた、じゃらんからのポイントあげますメールを見つけましてね。

 どうにかして今月中にそのポイントを遣おうということになり。

 ついては明日だと。土曜日の夜に空いてるホテルを探そうってことになりまして。

 あたしのよくあるやつ。ホテルが取れた街に行くっていう。なんだかよくわからないやつですよ。

 で、土曜日は午前中だけ仕事ですから、終わってからそんなに長距離を移動するってのも大変だと。

 じゃあ近場でどっかないのってことになりまして。

 別に県境を越えなくたっていいじゃないですか。

 例えば隣の市でもいいから、どっかの街の駅前の宿とかでさ、早めにチェックインして駅前の大通りから三回曲がった先の路地裏にあるであろう、赤ちょうちんが今どきぶら下がってるような、寡黙なご主人とチャキチャキした感じの奥さんとで切り盛りしてるようなさ。

 サッポロの瓶ビールとメンマとハムカツあたりを卓に並べて、サンマも焼いてもらって。

 そんな夜にしたっていいわけですよ。千円ぶん浮いたのをそういうのに回して、その日を暮らしたっていいわけです。

 でもねぇ、ないんだよ。

 ないっていうか両極端なの。

 カプセルホテルが苦手で。あの狭い空間がどうやらちょっと苦手なんです。

 カプセルホテル系とかドミトリーとかは、空きが見つかったりするんです。ただし、評判がよさそうなのは当然埋まってて、明日泊まれるって条件で検索しても出てこないわけ。

 そんな状況なのに空いてるってことは、なにかちょっとあるから空いてるんじゃないの、っていう想像ができちゃうじゃないですか。わかりませんよ、わかりませんけど、ちょっと不安は残るわけです。

 ホテル選びを予約サイトでする場合、ハズレを引きたくないのであれば、金曜土曜とかの休前日なのに安くて空きがあるのは、やっぱりちょっと注意した方がいいわけで。

 バストイレどころか壁がない可能性もあるからさ。あってもベニヤ板とか。

 訳あり激安寝るだけならOK! みたいな部屋は、ゆっくり休める夜をお求めならばやっぱり警戒したほうがいいんです。

 じゃらんの検索結果の一覧を安い順でソートして見ていくと、たいていはその地域のカプセルホテル系とかドミトリー的な3、4千円台の宿が最初に出てくるんだけど、そこをスルーしていくと急に1万円のアパとか東横になる感じなんです。

 その間はないの。

 6〜8千円前後の、いわゆるビジネスホテル的なやつはおそらく埋まっちゃってて、ビジネスホテルなんだけど休日価格になっちゃってて1万円を超えるような価格帯、だけど設備とかグレード的には普通のビジネスっていう。

 そうなってくると割高感はどうしてもあるんですよね。

 それは過去にこの値段でこのグレードのホテルに泊まれた、みたいな経験が自分の中の相場としてできちゃってるからなんだと思うんです。

 でもそれは、時代背景の変化でアップデートしてかなきゃいけないんですけど、そういうのは意識してないとなかなか変わらないものだったりしますしね。

 あと、予算だってあるわけ。いくら実質千円引きになるとしても、さすがに一泊2万のビジネスホテルにわざわざ行って泊まるってのもなんだなぁっていう。

 いやそりゃあ、温泉メインで豪華二食付みたいなのをご所望なら、そういうお金の遣い方もありでしょう。

 うーん。そうね。

 ごしょもってないね。

 いやいや、嫌いじゃないですよ。温泉サイコーですよ。豪華夕食もいいじゃないですか。

 でもこちとら、そのへんのスーパーの半額惣菜で生きてきてるわけ。旅先でスーパーマーケット巡っちゃうようなやつなわけです。最近あんまり行ってないけど、人の少ない入湯料500円とかの日帰り温泉で我ながらビックリするくらい満足しちゃうようなやつなわけ。

 源泉かけ流し加水加温なし腰痛肩こり万病に効く上に、お肌ツルスベまるで20代のような卵肌をあなたに! 的なインスタにアップすると今ならもれなくバズっちゃうようなデザイナーズリゾート高級旅館にはね、足が向かないの。

 どう言えばいいかな、淡水はちょっとっていうか。

 こちとら海の底の底にある悪いものが堆積して沈殿した、そこじゃないとダメっていうか。急に濾過された純水100%の水槽に入れられましてもっていう。

 で、近隣はどこもそんな感じなわけ。

 これも、不便とまでは言わないんですけど、てゆーかそんな検索の仕方をするやつなんかいないだろって話なんですけど。

 その、地域はどこでもいいからいい感じの宿があったらそこに行きたい、みたいなことじゃないですか、あたしがやってることって。

 そういう検索手段がない。ソートのかけ方がないの。

 だからこの地域を見てダメだったら、いちいち地域を選択し直さなきゃいけない。普通って宿を探す時は行き先が決まってるんだろうね、たぶんきっとウワサによるとそうなんだろうね。

 だから近隣からスタートして近くの都道府県を、ほぼしらみ潰しに探して回ることになるんです。

ホテル・ニューミラージュ

 そんな中で一軒、富山にね。

 この値段でこんな感じなら泊まってもいいなっていう宿があって。

 じゃあですよ。

 仮にそこで予約したとしたら、なにかすることってあるかなって。

 あたしの場合は、興味があるお店とかスポットみたいなのを見つけたらとりあえずグーグルマップに目印を付けておくってのをやってまして。今回みたいに、よくわからない理由で急に行くこともあるからさ。

 で、その周辺をマップで見ると、ちょっと離れてるけどいくつかその目印が付いてる場所があって。

 じゃあ、行けばなにかしら目的になりそうなものはあるなと。

 それぐらい、うっすいのでいいんです。明確にどうのこうのみたいなのは、行く前からあれこれやっちゃうと行った後の楽しみが減るっていう考え方なので。

 んで、じゃあもうここにしよう。そうすればあのお店にも行けるし、ここにも寄れるかもしれない。

 その情報だけで、あたしなんか訓練されてますから。もう富山湾でホタルイカとたわむれてる自分を想像しちゃってますから。ボンヤリ発光しちゃってますからね。だから綿密な事前リサーチとかいらないの。もう発光してんだもん。

 で、予約を進めていくんだけど、ホテルを決めて予約しますって段階になるととりあえずログインしろってなるのね。

 しますよ。慣れたもんでパスワードもソラで入れられますしね。

 そしたら、この予約は現在お取り扱いできませんって出るの。

 ん?

 いやいや、さっき見たんですよ。部屋だってあと2部屋とかにはなってたけど、空いてたよね。

 それともアレですか、あたしがホタルイカだからですか。ボンヤリ光ってるからですか。住所を富山湾に移してないからですか。クレカが富山ホタルイカ銀行のじゃないからですか。

 違うの。

 日付変わってるの。

 ド残業してメシ食って横になって部屋の灯りを消して、この街でもないあの街でもないって宿を探してるうちに、0時を回ってて。

 金曜の夜のうちに出てた翌日土曜日の宿泊プランは、0時を過ぎて日付変わって土曜日当日ってなるともう予約できないみたいで。

 あらためてその宿のプランを見に行くと、同じ部屋の同じサービスでも3千円以上高いんです。

 3千円っすよ。つい15分前までの価格から3千円っすよ。

 何度も言うけど、こっちはさ、半額で299円のお弁当と250円のお弁当だったら、ノーシンキングノータイムで250円のをカゴに入れちゃう暮らしぶりなわけです。

 そりゃあダメだよ。さすがに。そんなセレブな旅は無理だって。

0時50分

 ボンヤリ光ってたのに。

 ホタルイカ銀行に口座も作ったのに。

 そこまでいってたのに、もう富山には泊まれないの。泊まれる宿がなくなったの。まぼろしのように、いや富山だけに蜃気楼のように消えちゃったの。

 お値段と色んなことのバランスがいいなと思って、ここなら泊まれるかなっていうその宿のバランスが崩れちゃってさ。

 あの、口がカレーになったらもうカレー食べたいじゃないですか。カレーは売り切れどころかこの世からカレーそのものがなかったことにされたって、カレー食べたいってなるじゃないですか。

 さっきまでホタルイカだったんだぞ。富山湾を泳いでたんだぞ。それが急に無理ですってなってもさ、軌道修正なんかそう簡単にできるもんでもないって。

 とやま…

 あーあ、とやま…

 そこから検索にヒットする富山中の宿を見ていくんですけど、ないんです。

 いやね、別に2万円くらい出せますよ。千円分のポイントだってありますしね。食事はそのへんの草でも食っときゃさ、なんとかなんだよ。

 でも、そういうことじゃないっていうか。わかりますかね。やっぱりこう、ここならって思ったところに行きたいわけ。

 別にホテルにどうしても泊まりたくてやってることじゃないっていうか。そもそもからして違うの。

 行きたいなって思ったところに行きたいわけ。仕方なく行くってのは、やっぱりなんか違うんです。

 それでまた、イチから探し直しですよ。

 北陸もない。東北の南側もない。

 そうなると信州北関東あたりか。

 そんな感じで見ていったら、この前行った栃木の旅で泊まったコンテナホテルの同じ系列店がありまして。

 前回までのブログで話してますけど、一週間連泊でそのコンテナホテルに泊まったんです。ホテル周辺の街の空気感がよかったってのもあるけど、快適に過ごせたよなっていうのを思い出しまして。

 値段も休日価格になってこれなのかわかりませんけど、普通のビジネスホテルと同等。アクセスだって良さげですし、もうここでいいだろうとなりましてね。

 明日、いや明けて今日の土曜日は仕事が終わったら、群馬県に向かうことに決まりました。今決まりました。0時50分ですがたった今、決定いたしました。

霧の赤城 

 旅のブログってのは、世の中にたくさんあるんでしょ? あたしゃ他人様のはほとんど見ないからよく知らないけど、色々あるんでしょ?

 動画とかまで範囲を広げれば、旅関連のそういうのはもう山ほどあるんでしょ?

 でもさすがにないと思うんですよ。ウチみたいに、旅の目的地が決まるまでに6千文字使ってるブログ。

 あるよね。あるよ。そりゃあるよ。世の中広いんだぞ。そりゃああるって。あってしかるべきだよ。ここにもあるんだから。ないわけないよ、なに言ってんだって話ですよ。

 で。

 それでその、午前中は仕事してさ。

 他にも出勤になっちゃった同僚の何人かと、昼飯でも行く? って話になったんだけど、すいませんと。

 ちょっとこれから群馬まで行きますんでと。なぜ? とかはないんです。決まりなので。決まりですので。

 んで、家に帰って支度して、転がるように街を出てったのがお昼を回って少し経ったころだったと思います。

 長距離移動の前に給油したり、ちょっとした用を足したりしてたせいなのか、それとも最近サービス終了のアナウンスがあったカーナビアプリから乗り換える先を探すべく、違うナビアプリでルート案内させたせいなのかわかりませんけれど。

 けっこう下道を走らされまして。

 ルート検索したその地点から、高速道路の料金とか時間とか諸々あわせてベストってことだったんでしょうけど、土地勘的には少し遠回りだけど最寄りに思えたインターチェンジには向かわず、しばらく下道を走ってからやっと高速道路に乗るような道行きでしてね。

 いや、別にいいんですよ。よくよく考えたら、急いでいく意味もないの。

 そもそも意味なんてないんだから。なんで群馬に行くことになったのかもよくわかってねぇんだから。

 で、後で考えると料金的に安く行くルートを通ったっぽくて。たぶんそういう検索をしたんだと思うけど、使い慣れてないスマホアプリだったせいなのか、意図せずそうなったみたいで。

 群馬に入ったら、早々に高速道路から降りろって言われまして。

 なんかさ、しっかりした土地勘があれば、ナビはこう言ってるけどこっちの方がいいとかあるのかもしれないけど。

 元々の予定が、最終的に着けばいいっていうやつだから。急いでない。もっと言うとこの時点ではもうすでに、予約しちゃったから行くっていうか。本末なんかとっくに転倒しちゃってんの。

 だから、ナビがそういうんなら仰せのままにって感じで、赤城の山のふもと辺りだと思うんだけど知らねぇ道を延々と走ってさ。

 また霧がすごくて。

 天気もあんまりよくない感じなんです。山だからさ。赤城山のどっかそのへんだから。確かに出かける前に見た天気予報でも、今夜までは時々雨で明日の日曜日はくもり、みたいなのだったんだけど。

 小雨と霧の中からうすく見えてくる見知らぬ道をかき分けるように車を走らせて、たまに家が集まって建ってる小さな小さな町に行き着いて。

 腰の曲がったおばあちゃんが、傘もささずにゆっくり歩いていくのとすれ違ったりすると、この人の一生ってどんなだろうとかさ。

 周りになーんにもない、近くのコンビニって言ったって車でしばらく走らないと行けないであろう、でも誰かが住んでいるのは間違いない家がポツンと見えたりすると、ここで暮らす誰かってなんなんだろうって。

 向こうから見れば、あたしもそう見えるんだろうか。こんな所を通る車なんて近所の見知った人しか普段いないってのに、なんだろうあの人って見えるんだろうか。

 まったく知らない、行くつもりさえなかった場所にたまたま来たっていうのもあるからか、なおそういう気持ちになっていくんです。

そばにいてくれるだけで 

 いやね、そりゃわかりますよ。

 12時間前までホタルイカだったやつが、なにを言ってんだってのはわかりますよ。茹でて酢味噌で食べられるがいいさ、ってのはわかります。

 でもこういうのが好きっていうか。

 予定調和でわかりきったスポットに行ってくるのも、別に否定したりしませんけども、そういうのよりこっちっていう。

 で、だんだん家もお店も増えてきて。

 夕方には予約したコンテナホテルに入れたんです。受付には男性の方がいて、初めてですかなんて言われましてね。

 いえ、前にも別のところでっていう。あーそうですか、なんつって。スムースにチェックインできまして。

 そのコンテナホテルに来る道すがら、前もどっか旅先で入ったチェーン店の焼き鳥屋が見えたんです。

 ホテルから歩いて行けそうだってことになりまして。

 今は雨も止んでるけど、雨雲レーダー的なものを見るとあと2時間くらいでパラパラっと降りそうだなという感じ。

 車の中に折りたたみ傘を準備してますからそれを持って、チェックイン早々に部屋を出まして徒歩で、その焼き鳥屋に向かいました。

 予約もせずに入っていくと、カウンター席なら空いてますと。じゃあそこで、ってんで居場所を確保しましてね。

 店の中は、昭和後期〜平成初期くらいの歌謡曲が流れてまして。この感じ、栃木でもそうだったよなと思って。

 なんなの、あたしが悪いの? あたしが自覚はないけどそういうのを流せって言ってるの?

 念なの? 念じてるの? もしくは有線にリクエストしてるの?

 ちょっとこれから行くんでお店のBGMをですね、80年代後半から90年代の、ああええ、そんなで工藤静香の恋一夜を、次はフランク永井を、ああそうですかええええちょっと外れてる気がしますけど、はぁ。

 ってこと?

 知らねぇよ。読んでるみなさんも知らねぇよって思ってるでしょうけど、あたしも知らねぇから。脳内有線のリクエストがどうなってるとか、知りませんから。

 てゆーか、そうなってくると幻聴ってことになるじゃん。この焼き鳥屋のBGMが幻聴ってことになるじゃん。

 だとすると、この生ビールも串焼き5点盛りも、まつ毛のエクステが熊手みてぇになってる店のねぇさんも、まぼろしってことになるじゃん。

 ちゃんとビールも美味かったよ。そりゃそうですよ、こっちは午前中仕事だったんだから。月曜日から連続で土曜まで働いてんだぞ。そっから何時間も運転してきてんだぞ。美味いよ。ビールはどうやったって美味いよね。

 で、途中で瓶ビールにして、アテになりそうな浅漬けとか頼んでさ。単品で焼鳥も追加して。

 カウンターのカド、入口側に案内されたんですけど、隣の席はなくて。店の造りのせいか柱が立ってて、柱をまたいで向こうにはカウンター席が続いてる感じで。

 そこには先客がいて、柱で顔は見えないんですけどキャップをかぶったオジサンらしき人がひとり、黙って飲んでるんです。

 逆側、入口付近には2人掛けのテーブル席があって、最初は空いてたんですけど、頼んだ焼鳥が並ぶころには、予約だったのか近所のママ友同士って感じの二人連れが来て。

 そのさらに隣というかあたしから見て後ろ側には、同伴じゃなさそうだけど夫婦っていうにはちょっと気配の違う、これも二人連れがいて。

 店員さんが途中からひとり増えて。デカい図体のお兄さんが仕切ってるらしく、さっきの熊手ねぇさんと今来たもうひとりの若い女性に、手短に指示を出したりしてて。

 だーれも知らないよ。ひとりも。

 初めましての人ばかり。

 そもそも、ここに来るつもりがなかったんだから。群馬に行くって決まったのが今日の0時過ぎなんだから。この店があるって知ったのなんて、ついさっきだよ。

 なんでここに居るんだろう。

 柱の向こうのオジサン、スポーツ新聞とか広げちゃってさ。ママ友たちはホッピーとか頼んじゃってさ。テイクアウトのお客さんが来て、厨房の奥が慌ただしくなってる気配がしてきてさ。

 なんで、ここに居るんだろう。

 ビールを追加しようかどうか、枝豆をどうしようか。なんでそんなことを、決めあぐねてる時間がなんで自分に訪れてるんだろう。

 こういう気持ちになれるから、こんな旅をしてるんだなって。ここまでずっとそうしてきたくせに、いまさら、なんかいいよなって。

 そう思ったんです。

学びある旅

 その夜は、予報通り小雨になって、折りたたみ傘に肩をすぼめるようにして収まりながら部屋に戻りましてね。

 そのまま寝ちゃいまして。

 次の日になったんです。

 別に予定もないし、朝早くから出かけるようなアテもないし、なんなら朝飯は昨日の焼き鳥屋から帰る途中にあったスーパーで買った半額お弁当で済ませちゃったし、チェックアウトの時間までホテルにいようという感じで。

 まったりしてから、シャワーを浴びて荷物をまとめて出発しようと思ってましたから、8時すぎくらいにようやくのそのそと動き出したんです。

 ベッドの枕元に置いたスマホの充電ケーブルとかを片付けて、部屋のデスクに並べた身の回りの品をまとめて、着替えを準備してユニットバスに向かったんですけどね。

 浴槽の中に立って、シャワーカーテンを閉めて。

 シャワーを出すじゃないですか。

 それがずっと冷たいままなの。

 お湯が出ない。

 出しっぱなしでしばらく待ってもお湯にならない。

 コンテナホテルですから、部屋というかコンテナは独立してて、そのコンテナごとに給湯設備が付いてる感じになってるのは、前回栃木で同じ系列のコンテナホテルに泊まった時に確認してますから。

 そうすると要は給湯器が壊れてるか、もしくはエラーが出てて復旧が必要なのかってことだなと。

 いずれにしても、いったん外に出なきゃいけないよね。

 これはちょっと確証がないんですけど、普通のビジネスホテルなら部屋に内線があって、なにかしらのトラブルがあっても電話すればとりあえずは状況は伝えられるじゃないですか。

 確か内線みたいなものは部屋にはなかったと記憶しています。そもそもフロントの人は深夜から朝まではいなくて、それを承知で泊まってくださいねってことだったと思います。

 夜が明けて今の時間はフロントのかたがいる時間帯ではあるんですけど、チェックアウトギリギリまでまったりしてたもんですから、いったん服を着て外に出て歩いて受付のある建屋まで行って事情を説明して、仮に給湯設備が直ったとして。

 シャワーを浴びてるような時間がなさそうだなと。

 いやそりゃあ、こっちに不手際はないと思うの。もしも直ったなら、チェックアウトの時間は少々過ぎますけど、シャワーだけでも浴びさせてもらえませんか的なことを言ってもいいと思うの。

 よくよく考えたら、夜中にトイレに行って手を洗った時に、あれお湯じゃないなと一瞬思ったなってのを、水しか出ないシャワーがワンチャンお湯になるんじゃないかと待ってる間に思い出したんですけど。

 さすがにその時は寝ぼけてたしそのまま寝直しちゃってて。

 てゆーか、その時気がついたとしても、夜中でホテルの人はいないわけだし、真っ暗な中で給湯設備がどうなってるかとかやりようもないんだけど。

 それで、仕方ないから水で髪だけ洗ってさ。

 温暖化とかで気温の高い日が多くなったって言ったって、この時はもう秋だよ。さすがに寒いって。

 で、どうにか終わらせて荷物をまとめまして。

 別に文句を言おうみたいな気持ちにはなってなくて。あたしは、あんまりそういうふうにならないんです。確かに困ったけどさ、言うほどでもっていうか。

 でも、そのままチェックアウトして、仮に部屋の清掃でも気が付かなかったとしたら、それはよくないかなと思って。

 フロントっていうか受付に、これこれこうで給湯器を見た方がいいですよってのは伝えに行ったのね。

 そしたら、受付の人が外国の人で。

 言葉もなんとか通じるかなくらいの感じで。もしかしたら、急にこんな要件だからビックリしてしどろもどろになってただけかもしれないけど。

 たぶんチェックアウトも簡易化してるし、追加料金とかも発生しない仕組みだし、トラブルとかもほとんどないっていうことなんだと思うんですけど。

 とにかく自分の泊まった部屋の番号を伝えて、お湯が出ないから調べておいたほうがいいよという旨だけ伝えて、チェックアウトしたんです。

 いや、そのさ、誰が悪いとかは一切思っちゃいないんですけどね。

 ちゃんとあるよね。

 あたしがどっかに出かけると、ちゃんとあるよね。こういうのがちゃんとありますよね。

 なくていいやつだよ。これはなくていいやつなんですよ。求めてないやつなんですよ。

 そりゃあネタにしますよ。浮かばれねぇから。あたしが浮かばれねぇから。水シャワー浴びっぱなしは浮かばれないでしょうよ、さすがに。

 むしろ、あたしが泊まったから給湯器が壊れた説まであるよね。

 そうでなきゃあんだけ部屋数がある宿で、ピンポイントであたしの部屋だけお湯が出ないとかある?

 そうだよね、他の部屋もなってたらさすがにもっと騒ぎになってるはずだもんね。別に他のお客さんとか、普通にチェックアウトしてったよ。

 ⋯そんなだよ。チェックインしたら焼き鳥屋に行く前にまずお湯を出すよ。今度から。学んだよ。

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