ここ最近は意図的に歩くようにしています。といってもウォーキングというほど目標があったり、キビキビと歩いてるわけじゃありません。ダラダラとのんびり、ただただ歩くだけです。
そんな散歩の途中では、時に奇妙な人と出会ってしまうことがあります。今回はそんな人たちのお話。
旅の中でどうやって歩くか
旅をしているとたまに思うのですが、移動って速いほうがいいってわけじゃないよな、なんて。
飛行機にしろ新幹線にしろ、目的地まで迅速に移動するためにはあったほうがいいに決まってます。
より速く現地に到着できれば、そこで使える時間が多くなるわけですからね。使える時間が無限ではない以上、素早く目的地に着く手段は必要です。
反面、移動そのものだって旅の楽しみのひとつですし、そこには風情ってもんがあります。速く着けばいいってもんでもありませんよね。
それに、移動速度が速いほど、自分のアンテナがなにかを引っ掛けても通り過ぎてしまう、言い換えると立ち止まれないんです。
例えばホテルまでタクシーを利用したとしてね。
窓からぼんやりと外を眺めていて、不意に『忍者喫茶ハットリ』って看板を見つけても、二度見してる間にどんどん先へ行っちゃうじゃないですか。
例えば電車に乗っていて、もう夕ご飯時であたりは暗くなりかけていて、窓から家々の明かりが見える感じ。
住宅地を通過するせいか少しスピードを落とし気味で走っていることもあり、線路沿いのある家の居間が電車から丸見えで。
その居間で、じいちゃんがバケツの水を頭からバサーっとかぶっているのが見えても、電車は止まりゃしませんから。
こっちはもう、脳内がどうかしたんじゃないかってなってるのにですよ。
今確かに見えたよね、いや何か窓ガラスの反射とかで見間違えたのか、でも確かにじいさんがバケツを頭から。疲れてるのかな。幻覚かな。
…また妄想話をと思ってんでしょ。2019年の夏の話ですよ。
話を戻しますね。
そんな感じで、気になるものを見つけてちょっと立ち止まりたいと想っても、車にしろ電車にしろなかなかその場ですぐ止まるってわけにはいきません。
でも仮に自転車のスピード感でも、自分のアンテナに引っかかりにくくなるもので、最終的にはやっぱり徒歩だなってことになったんです。
かといって江戸時代じゃあるまいし、全行程を歩きでっていうわけにもいきません。
かくして旅の中で、どうやって歩く時間を作るかが、ここ最近のテーマのような感じになっているというわけです。
思い出話が続くので散歩中に撮った写真をいくつか |
歩いているからこそ逃げられない
歩くというスピード感で旅するのがいいなと思う反面、トラブルとまではいいませんけど、なにか異様なものに出会ってしまうと逃げようがないんです。
特に害のないことの方が多いのですが、実体験の中でちょっと怖くなった話から書きましょうか。
その日は大雨で、私は電車を降りて歩いてバスターミナルを目指していました。旅先の主要駅のある大通りです。
いわゆるゲリラ豪雨というやつでね。
もともとの天気予報が曇りのち雨みたいな感じだったので事前にビニール傘は持っていたものの、見る間に足元やカバンはずぶ濡れになってしまい、とにかくバスターミナル目指しで急ぎ足で歩いていたんです。
方向的に大通りを渡らなきゃいけないけれどタイミング悪く信号は赤。天から押し付けられたような雨の中をしばらく待っていました。
傘をさしていましたから正確には覚えちゃいませんが、横断歩道では私の前にも横にも数人が信号待ちをしていたと思います。
もちろんその場の全員が無言で、雨をどうにかやり過ごそうとしか思ってなかったに違いありません。それほどひどい雨だったんです。
やがて信号が青になって、待っていた人たちが足早に渡り始めました。もちろん私もその後に続いて歩き始めたんです。
大通りを渡る長い横断歩道の真ん中くらいだったと思います。
突然前から大声が聞こえてきたんです。豪雨ですからハッキリと聞き取れなかったのですが、「〜〜んじゃないよ!」みたいに聞こえました。
繰り返しますけど大雨ですから、歩行者用の信号が青になったのを確認したら、前を向くというよりも足元を見て歩いていたんです。
その大声で顔を上げると、男の人が傘もささずにものすごい勢いでこっちに向かってきていて、結果から書くと半分体当たりされました。
半分というのはとっさに避けたのと、私のさしていた傘がその男性の方に向いて盾のようになり、結果的に私の身体のの半分ほどがその男性に体当たりされたような状態になったんです。
男性はそのまま去っていって、私も転倒するほどではなかった上に横断歩道上でいつまでも立っているわけにも行きませんから、そのまま渡りきって無事にバスターミナルまで辿り着いたんです。
あっけにとられていましたし、そんな訳のわからない人をわざわざ追いかけることもしませんでした。
これ、仮に相手が刃物とか持ってたらと思うと、ちょっとぞっとしますよね。なんじゃこりゃあ的な、ジーパン刑事的なやつでしょ。怖いよ、怖い。
今だからこうやって書けますけど、当時はまあまあびっくりした出来事でした。雨の中いきなり突進されたら逃げられないって、ホント。
すれ違う奇妙な自転車乗りたち
あんまりアレなのもこのブログっぽくありませんから、ここからは方向性の違うアレなお話を。
雨の日はどうも変な人たちに出会うようで、この記事のために記憶を辿っていたら雨の日率が結構高いんです。
その日も雨で。
当時、私が住んでいたアパートは駐車場が徒歩で3分くらいの少し離れた場所にあった関係で、車に乗るためにはそこまで歩いていく必要がありました。
ある日、車で外出することになり、小雨でしたけど一応傘をさして家から駐車場の方へ歩き始めたんです。
古い住宅地で細い路地が多いような町だったんですけど、前方右手の路地から古い自転車にありがちなキーキーと鳴るような音が聞こえてきましてね。
まだ見えないけど、右前の路地から自転車が出てくるんだろうってのはすぐわかりましたから、ぶつかるのも嫌ですし、歩く速度をちょっと落として先に自転車が来るような感じにしたんです。
その路地から、狙ったとおりに先に自転車の、錆つきながらもなんとか回ってるような前輪と、ちょっと歪んだ前カゴが見えまして。
私は自転車を先に行かせようと、足を止めたんです。
出てきたのは、片手で古いママチャリのハンドルを握って、もう片方の手でいわゆるレジ袋、白いビニールのレジ袋を膨らませて逆さまにして、コックさんみたいに頭にちょこんと乗せたおじいちゃんがね。
ふわーって路地から出てきて。
そのまま私とすれ違っていったんです。
なにいまの。なにそのレジ袋。
そんなにデカいレジ袋じゃないですよ。
コンビニでパンひとつだけ買って、店員さんにこのままでいいですかって言われて、袋くれって言ったら渋々つけてくれるようなちっちゃいやつですよ。
だって落ちないように手で押さえてんだもん。じいちゃんの薄い頭を全然覆えてないんだもん。
そのくせ妙にしっかり膨らんでたんです。小雨の中、ホントにコックさんの、長いやつじゃなくちっちゃい帽子みたいな。
もしくは昔の食堂のオヤジがかぶってるような、あんな感じで。
あまりにその光景がシュールというか、急すぎて。目の準備ができてないっていうか。
事情がつかめないまま、ぼんやりと見送るしかありませんでした。
各地のぎんざを見てみたい |
後ろから自転車の気配
今度は雨ではありませんがまた自転車です。
あの、冒頭の方で書いた、移動手段のスピードが速いと見過ごしてしまうみたいなこと。それの逆が起こるというか。
相手が自転車でこっちが徒歩だと、ちょっと待ってその頭のレジ袋、って相手を止めることもできない、逆の現象が起こるもんだなと。
次の話もそんな感じなんですけど。
これも先ほど書いたアパートに住んでいた時のことです。てゆーかそのアパート周辺の住民がどうかしてたんじゃね? と思わなくもないんですけど。
夕方、近所の定食屋で晩飯を食べて帰宅しようという感じだったと記憶しています。
もともと交通量なんてたかが知れてるような住宅地ではあったんですけど、細い路地とメインの大きめの通りがありました。
その大きめの通り、大きめっていっても普通車がどうにかすれ違える程度の道幅なんですけどね。
そこを歩いていたら、後ろから自転車が近寄ってくる音、あるいは気配みたいなものがしたんです。
普通に道の脇に避けてやればそのまま抜いていくだろうと、そうしたんですけどね。
抜いていったのは自転車2台でした。乗ってるのひとりだけなのに。
は? と二度見すると、おじさんが自分が普通に乗ってる自転車を左手で操作しバランスを取り、同時に右手でもう1台の自転車のハンドルを握って、器用に2台が並走するような感じで、しかも普通の自転車の速度でサーッと追い抜いていったんです。
なにそのサーカス的な乗り方。
いや、できなくはないでしょうよ。安全かどうかは知りませんし法的にどうかなんてもっと知りやしませんけど、練習すればできるようになるとは思いますよ。
でもそんなタイミングあります?
2台の自転車をひとりで走らせなきゃいけないなんてこと、今まであります?
自転車屋さんなら、むしろ車で運ぶでしょう。
故障車ならそもそも走ることもできないでしょうから、走行中に壊れちゃった自転車を、一旦帰って別の自転車に乗って持ち帰る、みたいなシチュエーションでもなさそうです。
そもそもその特技なんだよって話ですよね。
どうしてもひとりで2台の自転車を、他に車とかが使えない状態で運ばなきゃいけない事情があったとしてね。
そんなある意味ピンチに、ひとり2台走行がいきなりできちゃったってんなら、ボリショイサーカスとかに早く就職したほうがいいと思うんですよ。
もし仮に、そんな特殊な状況になってもいいように練習したんだとしたら、なにがおじさんにそうさせたんだっていう。
まず自転車を2台買ってきて。車の来ない道で練習して。時には転んで自転車を大破させながら。
補助輪のなかなか取れない小学生みたいに、2台運転の師匠から叱られ。いい年なのに叱られ。
腰が入ってない! とか言われて竹刀でバシッと叩かれ、その度に2台の自転車の間で嗚咽を漏らしですよ。まさに泣き虫ペダル。
師匠ついにできました!
師匠、師匠? そんな、ウソだ、師匠、起きてください師匠!
シングル2台乗り部門でツール・ド・フランスに出場して優勝するって約束したじゃないですか、師匠! 師匠ー!!
みたいな。ね?
しかしなんだったんだろう、あのおじさん。てゆーか、なんだったんだろう、前に住んでたあの町。
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それでも散歩は続く
実はもういくつか小話があるんですけど、もういいか。ちょっと飽きてきたし、もういいか。
そんな感じで、歩いているとなにかに当たることもありまして。
いいことか悪いことか、そんなのわかったもんじゃありませんけど、歩くというスピード感でしか見つけられない、出会えないなにかってのは間違いなくあります。
そういうものに出会っちゃうと、散歩や旅をしててよかったなと思えたりもするんですよね。
だから、機会を見つけては歩いてみたりするんです。歩けるうちはそうしたいなと思っています。