仕事場から逃げるように捨てるように帰ってきた、そのすぐ後、黒ラベルのロング缶を開ける前。
このタイミングで着の身着のまま居なくなるっていうのが、日課というか週課になっていたんです。要はただいまの声もそこそこに、行ってきますと言い捨てて家を出ていた時期があったということです。
車中泊に至るまで
週末2日間の、それも貧乏旅行ですから行き先は近場に限られていましたし、観光などする気もないし、今思い返しても何処で何をしたやら。
古い話だってのも手伝って、もう思い出すのも難しくなりつつあります。
ガソリン代もかかりますから、自分への「給油」は控えめでね。
知らない街へ行って、気になった通りを歩いて、うるさくなさそうなところで缶ビールを空けて眠りに落ちる。良く言っても野良犬とたいして変わりないような、ただ放浪するだけの時間は、今思えば必要だったんでしょう。
そうすることが当たり前のように、逆に言えば仕事に追い立てられる平日の5日間が異常であるかのように、旅をしていたのです。
そうはいっても、若かったってのもありますし、腹は減りますよね。ビールだって恋しくなります。
ですから適当に食事を摂るんですけど、どうしても高くつく。燃料費と食費は仕方ないとしたら、しわ寄せがくるのはは宿泊費ってことになるんですよねぇ・・・
宿泊費を浮かすとなると、せっかく車で来てるんですから車中泊ってのが自然な流れでしょう。車中泊って言葉がいつからあるのかわかりませんけど、当時普及し始めたネットや雑誌で情報を集めたりして、ちょっとずつお泊り装備を揃えていったんです。
ブログにも車中泊関係のエントリーをしてますけど、秋の終わりから冬が車中泊には最適な時期なんじゃないですかね。閉店間際に見切り品となった食料を買い置いても気温が低いから痛みませんし、外気が氷点下一桁くらいでも、安い寝袋を2重にするとかしておけばちゃんと眠れますしね。
縁なくばかかわらず
春から夏、秋の終わり際までは、夜の道の駅にいると色々な車を見かけます。
ハイエース系の胴の長い車が目張りして停まっていれば、業務用でなければ車中泊が好きでそういう車に乗ってるんだなとピンときたり。居住空間が多いほうが色々と楽ですからね。
キャンピングカーに至ってはモロにそれ用の車でしょう。広くて設備の整ったキャンプ場だと、テントやらテーブルやらが広がりだして、キャンプしに来たのか装備を見せびらかしに来たのかわからないような連中もいますよね。道の駅でも似たようなことをやらかしてるのを、たまに見ます。
軽自動車や普通の乗用車の場合は、そういうのとちょっと違う感じを受ける時があるのです。
袖擦り合うも他生の縁、なんて言いますけど、私は旅先で馴れ合うのは好きじゃないほうでね。
またキャンプ場を引き合いに出しますけど、テント張ってると隣のサイトの人が挨拶に来たりして。その時点でもう町内会状態というか、引っ越してきたのでご挨拶みたいなのが始まっちゃうでしょう?
それがすでに面倒なのです。
知らない人と仲良くなってお裾分けとかをするために来たわけじゃないというか、こちとら好きこのんで独りでさまよってるんですから、触れてくれるなと思うこともあったりね。
車中泊の場合はそういうのが一切ないというか、正確にはハイエース系やキャンピングカー系の方々はキャンプ場と同じ感覚で接してくる「人もいる」ので、離れて停めることにしているんですけども。
乗用車や街乗り用の車で来て、目張りしたり荷物の整理してるような連中は、基本的に話しかけてきたりしません。それぞれがそれぞれの旅を往く途上、っていうとかっこいいかもしれませんが、本当のところは違うんでしょう。
明らかに車中泊用途っていう車よりも、昼間走ってるぶんにはそういう空気感が出ない、普段はそうやって旅してるように見えない車ってのが、ひとつのキーポイントのような気がします。
12月のある夜のこと
話がだいぶ逸れてますから戻しましょうね。
その日は確か小雪が舞うような、でも道路はそんなに雪がないような気候だったと記憶しています。クリスマス前だったんじゃないかと思うのですが、その頃はライフログなんか取っていませんでしたし、記憶が混在しているかもしれません。
早めに目的の道の駅に到着して、歩いていける距離にスーパーマーケットがあるので車を置いて買い物に行くことにしたんです。
吐く息が白かったのは鮮明に覚えています。
道の駅の駐車場から歩いてスーパーに買い物に行く途中で、前項に書いたようなことを思ったんですね。春頃から増え始めるキャンピングカーやそっち系の車が、冬になってだいぶ少なくなっていましたから。
もちろんまったく居ないわけじゃありませんし、冬でも暖かい地方はどんなもんか知りません。積雪するような地域では、そういう傾向にあるなと勝手に思ってるだけです。
小さな車でも車中泊してる人は結構いるもので、若い人よりも50から60代くらいの人が多いような気がします。夫婦とお見受けする人たちや、ナンバーを見るとずいぶん遠くから来てるなって人もいたりね。
夜は暗いのでよくわからないんですけども、明け方は車の外に出てちょっと身体を動かしているのを見たり、食事の支度らしきことをしてるのが見えたり、地図を広げていたりして。
世の中には色んな人がいるもんだと、てめえを棚の一番上に上げておいてそう思うのです。
目覚めて気づく異常事態
スーパーで何を買ったかは覚えちゃおりませんが、早めに寝たような気がします。というかその夜の記憶はありません。
朝になって目が覚めましてね。トイレにでも行こうと思ったのかハッキリしませんけども、外に出ようと車のドアを開けようとしても開かないんです。
ドアのロックが外れる感覚はありますから、凍ってるわけじゃなさそう。もしかしたらと嫌な予感がして窓の目張りを外してみると、そこにはふわっとした雪が張り付いていました。かろうじて見えるその向こう側は真っ白。
寝る前は小雪がちらつく程度の雪だったはずなのに一晩で車の窓の下辺りまで積もった・・・ ってことでいいんだよな・・・?
旅先で寝て起きると一瞬自分がどこに居るのか分からなくなる時がありますけど、寝起きでぼんやりしている脳でも明らかにそういうのとは違った、ちょっと異常だぞと感じるには充分の光景でした。
あまり雪が積もらない地域なのでちょっと油断はしてましたけども、これは大変だと。
何だかわからないでしょうが、この時の雪に埋もれた車です |
とりあえず脱出を試みる
運転席側のドアはどうやっても開かないので助手席側に移って試してみると、これがビンゴ。積もった雪が邪魔して重くなっていますが、それを押しのけてなんとか開きそうです。
今は昨夜と同じくらいの小雪になっていますが、またガッツリ降り出したら致命的ですから、身支度を整えて自分の車を掘り出すために外へ出ます。
昔テレビで見たドラマの八甲田山の行軍のように、腰で雪をかき分ける感じで歩くしかありません。いやはや、ふわっとした雪質で助かりました。
とりあえずエンジンがかけられるように、排気口の近くの雪をどけてから、助手席側から手を伸ばしてエンジンスタート。
冬用のお泊り装備のおかげで暖かくして寝ていたので、夜間寒くなってエンジンを始動して暖房をつけるようなことがなかったのも幸いでした。雪で排気口が塞がれていたら、一酸化炭素中毒で死にかねません。
周りを見渡すと、一応雪国とはいえ普段はそれほど積もらない地域でいきなり大量に降ったせいで間に合っていないんでしょうね。道の駅構内を除雪するような気配はまったくありません。
それどころか雪の日独特の、音が雪にすべて吸収されたようなシーンとした状況です。
時計は見ていませんし覚えてもいませんけど、薄明るかったので6時半は回っていたはずなんですけどね。
この縁はありやなしや
屋根の上にも当然雪が積もっていて、スノーブラシでザックリ雪を降ろしていると、少し離れた位置に車中泊していた小型車も雪に気がついたのか、目張りが外されてモソモソし始めるのが見えました。正確には雪で埋もれてて見えるというより気配を感じただけなんですけども。
私の方はあらかた車を掘り起こすことには成功。
ズボンはぐっしょぐしょなので、とりあえず車内へ避難して靴下なんかを替えて暖房で身体を暖めます。熱い缶コーヒーでも口にしたいところですけど、除雪されていませんから移動もままならない状況なんですよね・・・
そして、車を掘り起こすのに相当時間が経ちましたが、いまだに除雪する気配がありません。
当時所有していた車は四輪駆動車ではなかったので、メートル近い積雪の道の駅構内を走って道路まで出るには相当骨が折れるのは明白。
下手すると途中でスタックして身動きが取れなくなる可能性もありますから、そうなったらいけません。
ラジオをつけたり携帯電話でネットに繋いで情報を集めてみると、あちこちで大渋滞のようで、さもありなんといったところ。
これはもうジタバタしても始まりませんし、幸い昨日買っておいた朝ご飯や飲み物がありますから、ガソリンの残量に気をつければすぐに脱出することもないなとタカをくくることにしました。
そのうち除雪もするんだろうと窓の外を見ていると、さっきの小型車から背の低いじいちゃんが降りてきましてね。
降りてきて、なんていっても車が半分雪に埋まってる状態ですから、じいちゃんもまあまあ雪に埋もれる感じなんです。それも、多分道具がないのか素手で雪をどけようとしてるようでね。
袖擦り合うも他生の縁、でしたっけ?
雪が降ると思い出す
ようやく車の雪を降ろして、ナンバープレートが見えるくらいまで周りを除雪したら、ずいぶん西のほうの地名が書いてあったのを覚えています。
ですが、そのおじいちゃんと車内で心配そうに外を見ていた奥様らしきおばあちゃんと、なにか会話したかどうかはもう忘れてしまいました。
そうしている間にようやく除雪車が動き始めて、その道の駅を出たのが8時か9時か、そんなところだったんじゃないでしょうか。
さすがに朝から疲れたのもあって、交通情報とガソリンの残量を気にしつつ、そのまま自宅に向けてくるまを走らせたような気がします。
加齢によるものか元々なのかわかりませんけど本当に記憶って曖昧で、あの雪の日は本当にあったことだったのかと、たまに思い返すこともあるんです。今日のようにね。
ですから、お礼にとふたつも缶コーヒーをくれたじいちゃんとその奥さんが、どこからどこに行ったかなんて分かるわけもありません。
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