旅先で癒やしを求めてマッサージと散髪をした話

2018年4月8日日曜日

#散歩 #旅

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 旅行の目的のひとつに、「癒やし」というジャンル、あるいは選択肢があります。
 温泉へ行くのもそうでしょうし、リゾートホテルのリラクゼーション系サービスを受けるなんてのもあるでしょう。美味しいものを食べたり、水族館や動物園に行くなんてのも癒やしに入りますかね。
 
 私個人の話をすると、旅の目的として「癒やされに行く」という事はあまりないのですが、旅の途中に癒やされたいと思う事はあります。
 今回は旅の途中で癒やされるというお話。もちろん、色々な意味でそう簡単にはまいりません。
 

旅と疲れ


 旅って意外と疲れます。
 自転車や徒歩での旅は言わずもがな。車やバイクだって慣れない道を長時間運転するのは疲れますよね。
 運転しない乗り物、例えば鉄道やバスにしても、時間に縛られるようになりますし、他人と乗り合わせる事でストレスを感じたりもするでしょう。
 
 移動手段以外でも、普段遭遇しないレベルの人混みや、食べ物の違い、環境が異なる事で眠れなくなるなど、日常との違いが疲れにつながるものです。
 
 行楽に来ているのに疲れの方がデカいとなると、なにがなにやらわかりません。ですから、旅の途中で「癒やされたい」と思うというのは、半ば必然と言ってもよさそうです。
 
 
 私は車の旅が多いので、運転中は同じ姿勢で、ある程度神経が張り詰めている状態が続く事になります。
 元々肩こりや腰の痛みを抱えているせいもあり、疲れてるなと思うとすぐさま宿に転がり込んで、そのまま寝ちゃう。酷い時は朝まで寝て、チェックアウトして帰るなんてこともあります。
 
 何しに来たの? という問いに超前向きに答えるとすれば、基本的にひとり旅、かついきあたりばったりな旅って、疲労回復という意味ではメリットで、想定外に疲れて休みたくなったらいつ休んでも差し障りはないんですよね。
 
 ・・・前向きすぎか。さすがにそれは前向きすぎか。
 

旅とマッサージ


 寝て復活するレベルの疲れなら特に問題ないのですが、身体のコリとなるとやっぱり温泉に浸かったりマッサージを受けるのが一番でしょう。
 温泉の話はいつも書いている気がしますから、マッサージの話をしましょうか。
 
 私は揉み返しというやつによくなるので、よく駅前とかにある大手チェーンの、男性がガシガシほぐしてくれる系のマッサージ屋さんは苦手です。
 
 相当昔、もう十数年前の話ですが、健康ランドに泊まることになりまして。マッサージサービスがあったので受けてみることにしました。
 
 受付をしてから案内された場所は、畳の上に長座布団を敷いたような感じの場所。
 担当してくれた方は、小柄ながらがっしりした感じの男性で、もしかしたらまた揉み返しになるかなと、ちょっと後悔していました。
 
 
 施術前に身体のつらい場所を訊かれたので、その時は腰と答えた記憶があります。横になってくださいと言われ、腰と答えたからにはと、うつ伏せかなと思ったのですがそうじゃないと。
 仰向けで寝転がるように言われましてね。
 
 言われるがままに仰向けで寝ると、まず足を持ち上げて曲げ伸ばしを始めたのです。今思えばストレッチなんでしょうけど、当時の私はすごく疑問に思ったのを覚えています。
 
 そのマッサージ師さんいわく、
 
 「腰の痛みで足からマッサージを始めるのはどうしてかとお思いでしょうが、お客さんの場合はまず足の歪みがありますからねー」
 
 と言いながら、結構入念に足のマッサージをしてくれました。
 実際に腰を揉んでくれた時間より、もしかしたら足のマッサージの方が長かったかもしれません。
 
 これがまた揉み返しどころか、腰の痛みがビックリするほど軽くなりましてね。
 足のマッサージをする事で腰の痛みが軽くなる現象を目の当たりにして、身体の不思議さについて考えさせられたり、そのマッサージ師さんの見る目や技術の確かさに感心したりと、強く印象に残るマッサージでした。
 

旅と散髪


 旅に出ると髪を切りたくなるんです。今まであまり同意を得られた試しがありません。きっと奇病です、奇病。
 でも、髪を切ってもらったり、念入りにシャンプーされるのって気持ちいいですよね。
 
 基本的に無計画ないきあたりばったり旅ですから、次に電車が来るまでとかホテルのチェックインまで、妙に一時間とか二時間くらい空いたりするんですよ。
 
 もうひとつ、旅に出るといつもと違う環境に身を置くじゃないですか。その環境との対比として、自分をあらためて見直させられるのです。
 あの、見直すという能動的な表現じゃなく、否が応でも見直させられるんですよね。
 
 そうした時になんかこう、髪でも切ろうかなという事に自分の中でなるのです。なぜだかなんて、自分でもわかりゃしません。

米沢で散髪した話


 旅先でふらっと、そのへんの床屋に入るのも悪くありません。
 以前、山形県は米沢に行った時に、予定よりも早く着きすぎてホテルのチェックイン時刻までだいぶ時間がある、なんて事がありましてね。
 そういえば髪もだいぶ伸びてきたし、ちょうどいいから散髪に行こうと思い立ったのです。
 
 そのホテルのフロントにいた若いお嬢さんに訊いたら、車は停めておいてもいいというので、近くに床屋がないか訪ねて、散歩がてら教えてもらった床屋さんまで歩いて行きました。
 
 ごく普通の床屋さんでしたけど、いくらホテルの近くにあるといっても、旅の途中でふらっと散髪に来るようなそんな客はあまりいないみたいで。
 世間話の途中に、訛りがないけどこの辺の人じゃないの? なんて流れになり、実はかくかくしかじかこういうわけでと説明したら、かなり珍しがられた事がありました。
 
 普段は旅先で人とのふれあいなんざ求めちゃおりませんから、その土地に住んでいる人と話をするというのも新鮮といえば新鮮でね。
 あまり深入りするとすぐ面倒に感じるタイプなので、程々に受け答えして時間を過ごし、サッパリしてホテルに戻ったのです。
 
 そしたらホテルのフロントのお嬢さんが、私が明らかに髪型が変わってるものですから、真顔でキョトンとするっていうね。
 マジで髪切ってきたんだ・・・ みたいなね。
 

旅先で床屋を探す


 まだ散髪の話ですが、飛び込みだけじゃなくてネットで調べて行くことも、もちろんあります。
 
 もう4年くらい前の秋ですが、北陸地方をフラフラしてた時にどうにも髪が鬱陶しくなり、どうせ行くアテもないしとネットで検索したんです。
 
 美容院ってガラでもないので、理容室とか床屋で検索してヒットした中から、『初回のお客様はヘッドスパ無料!』 みたいなのに、まんまと釣られてみようということになりまして。
 
 実は当時、ヘッドスパってやつを体験した事がなかったのです。テレビでやってるのを見たりした事があって、なんか気持ち良さそうだなとは思ってたので、ちょうどいい機会だなんてね。
 
 その、ネットで見つけた『初回限定ヘッドスパ無料』なお店のサイトで、予約状況が確認できたので見てみると、夕方からならOKの模様。
 
 思えばネットの発達で、知らない土地で床屋を探して予約して実際に行く、なんて事が容易にできるようになったんですよね。
 ネットなしでやろうと思うと、公衆電話でタウンページをめくったり情報誌を読んだりして床屋を探して、電話かけて予約して、そのまま所在地を訪ねても土地勘がありませんから、結局どこにあるか地図で探すわけですからね。
 
 で、そのままネットで予約して、適当にご飯食べたりして暇を潰し、グーグルマップを起動して車を走らせ、ちょっとした住宅地の中にあるその床屋さんへほぼ迷わずですよ。
 便利というか快適というか、すごい世の中だなとつくづく思わされました。
 

入った瞬間、確信する


 行ってみたら、私よりも髪が長い、長いというか落ち武者みたいな髪の、ボッサボサもいいところなおっさんが出てきて。
 
 そこはネットに書いてなかったんだもの・・・
 
 書いてあったら行かないもの・・・
 
 床屋に入った瞬間、失敗したって確信したんですよ。
 でも、予約しちゃってるし。
 その床屋の玄関に入って、落ち武者と目と目が合っちゃってるし。
 
 もうしょうがないから、ネットでヘッドスパコースで予約した者ですけどって言って。落ち武者にはいどうぞー、なんて言われて。
 
 
 お客さんが来たから照明を点ける感じです。これだけで、おそらくちょっとは伝わるものがあるんじゃないでしょうか
 
 で、明るくなった店内を見ると、季節外れの元々は多分白かったと思われる扇風機が黄色くなって床に転がってたり、窓際に一応は陳列しているであろう売り物っぽいシャンプーとかが倒れたままになってたり。
 
 もう若干の罰ゲーム感が漂ってます。
 
 
 こういう時は下手に、いま旅行中でとか言って会話がはずまれても困ります。ですからこっちからは、髪が伸びたんでこういう感じで切ってください以外はコンタクトする気はないんです。
 
 もちろん落ち武者は話しかけてきますよ?
 
 「どうしてこの店に決めたんですか?」
 
 いや、ネットでたまたま・・・
 
 「いつも行く床屋さんじゃなく?」
 
 いや、引っ越してきたばかりで床屋さんを探してて・・・
 
 「ああ、私もねぇ、髪切ってくれる所探してるんですよ!」
 
 
 もうね、もう今すぐ出たい。この椅子から出してほしい。嘘も方便でなるべく当たり障りのなさそうな、話が広がらないような方向を探ろうとしてたんです。
 細かく書き始めるとキリがないので書きませんけど、この場所で開業して9年目だとか、ひとりでやってるから大変でとか、落ち武者トークが始まるわけですよ。
 
 そうなると当たり障りなく、ってのもちょっと限界があって。あと、旅先で気が大きくなってたんですかね。
 
 床屋さんが自分の伸びた髪をどう処理してるかってのに興味を覚えてしまって。
 訊いてみたんですよね。いつもはどうしてるんですかって。落ち武者ヘアの床屋のおじさんにね。訊かなきゃいいのにね。
 
 そうしたら、
 
 「いやー、もうねぇ。昔は自分でやってたんですけどね。もういいかなって」

 もういいかな? もういいかな? もういいかなって、何が?

嫌な予感しかしない


 そこからは方針変更です。なるべく返事をしないように。なるべく会話のキャッチボールをしないように。だってキャッチできないんだもの。
 
 それが功を奏したのか、そこからは淡々と散髪が進みまして。
 切り終わってシャンプー。ひげ剃り。耳掃除。肩揉み。
 
 ・・・ヘッドスパがね。あの、もしかして忘れられているような。
 確かに一刻も早くここを去りたい。去りたいけども、初めてのヘッドスパ体験でちょっと期待感を持ってここまで来ちゃったものですから。
 あと、ここまで若干の罰ゲーム感がある中で、何かちょっとでも来てよかったなというモノが欲しいじゃないですか。
 
 シャンプー後かな。ひげ剃ってからかな。耳掃除からのヘッドスパかな。あれ、肩揉みからのヘッドスパかな・・・
 
 もういやな予感しかいたしません。
 
 
 もちろんその後はドライヤーでボワーですよ。ボワーが終わった後におそるおそる言い出すしかないわけですよ。
 
 あのヘッドスパは・・・
 
 ああー、みたいな感じでいそいそと準備が始まり、無事にヘッドスパは受けられたんですけど、もうすでに楽しめる心理状態じゃありませんでね。
 癒やしとはかけ離れた妙な空気感のまま、その日が暮れていったというのが、旅の思い出として強烈に残っております。

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