静岡県は浜松市に来ております、2025年の年末年始の旅のお話。
初日は車でザックリ500kmほど移動したあと床屋までの往復を徒歩で約10km歩くという、謎の行程で一日を終えております。
そしてこの一行を1万文字オーバーで書くという、フーセンガムも真っ青の膨らまし方な記事を前回書いておりますので、そちらもどうぞよろしくねと。
さて旅のニ日目。何しに来たのかはこれから考えるという、相変わらずな旅となりつつありますが、お付き合い下さい。
偶然が重なって
なんで浜松なのかと言われると、あんまり強い理由はないんです。
ないんかい、という。あたしゃだいたいそんなもんです。
確か、偶然見た旅番組で浜松に来てたんです。
あとは別のなんかで浜松餃子ってのがあるんだと知って、浜松餃子って字面で見た時に人の名前みたいだよねとか、ローカルアイドルとかが名乗ってそうだよねみたいな与太話でひと笑いあったっていうので、浜松っていうワードが脳内に残ってたんでしょうね。
で、時間も経ってなんとなく宿を探したら、浜初市内に自分の予定に合う日に連泊で空いてるのがわかって予約しちゃったっていう流れだったと思います。
ホテルの予約がなければ急ぐ理由もなく、だったら下道で延々と走ったほうが面白いものに出会えそうってことになるんですけどね。
ただ、この時期はどうしても移動には雪の問題がつきまとうので、だったら高速道路を使うのがカネはかかるけど道路状況的には安定してると。
高速だったら、だいたいこう行けばいいんだろうなっていう感じで超ザックリな日程ができたっていう感じです。
その超ザックリスケジュールでいけば、行きと帰りはほほ一日がかり。
年明け早々には戻って仕事に備える必要がありますから、2025年末の仕事納めをして出発すると、浜松でなにかできるのは12月31日までの正味三日ほど、ということになります。
とはいえ年末の押し迫った時期ですから、31日は営業してない店もあるだろうってことで、浜松に着いたら早い段階で色々動いたほうがいいだろうっていう感じですかね。
なんでしょう、この完璧なスケジュール。移動・浜松〜浜松〜浜松・移動っていう。旅のしおりを作ったら一行で済んじゃう感じ。A4のコピー用紙の一番上に。あとは空白で。
結果オーライ
で。
一日目は空いてるうちにホテルの温泉に入って長距離移動した旅の疲れを癒してから、急に思い立って床屋の予約をしてしかも片道約5km歩いていくっていう、せっかく回復した身体に鞭打つようなことになりましたけども。
もちろん次の日は朝早くなんて起きられませんって。
前日は8時間ほどかけての長距離移動、その前の日は仕事納めからの忘年会だよ。二十歳の若者ならいざしらず、こちとらまあまあのお年ですよ。そりゃ無理だって。
泊まったホテルは朝食が無料で付いてくるんですけど、この日どころか年末年始は多分ずっと満室だったようで、朝食バイキング混みます的な張り紙がしてあって。
タダメシとはいえ、いやつまらないことを言えば、無料とうたいつつも朝食代は宿泊費に含まれてるんだってのは、こっちもわかってますけどね。
混んでるところには行かないって話をこのブログの端々に書いてる通り、混雑してるとわかっちゃってる朝ごはん会場に行くというモチベーションが一切湧いてこないってのもあって、初日の朝はゆっくり起きてシャワーのひとつも浴びてからの活動開始となりました。
で。
まーいい天気なんだ。
昼間は気温が14度まで上がりそうなご陽気でさ。歩いて回るのもいいし、車でふらっと動くのもいいよねぇと。
そうだ、とりあえず洗車をしたいんだった。
というのも、これも雪国冬道あるあるで、凍結防止剤を道路に散布してあってそんな道を通ってきたものですから、車体がどうしても汚れるんです。
雪国にいるんならいいよ。みんなそんな感じだし、洗ってもどうせすぐ汚れるんだからさ。
もうね、外に出たら雲なんかひとつもない、見渡す限りの青空なの。ぽかぽかなんだもん。
どこの荒れ地を越えてきたんだっていう見た目になってる、あたしの愛車であるところのスーパーゴージャス超高級びーえむだぶりゅーがね、微絵夢打武龍が、さすがにちょっと可愛そうっていうか。
もちろんナンバープレートは黄色ですよ。目立つから。黄色いほうが目立つからっていう理由ですよ。デカい駐車場で見つけやすいから。黄色いほうがね。警戒色だから。
それで、近くにガソリンスタンドがないか検索して、とりあえずそこまで行って車を洗っちゃおう。
その後どうするかなんですけど、その、浜松へ行こうってなったきっかけの旅番組でやってたのが、浜松といえばうなぎだと。浜名湖で育てたうなぎが美味い、っていうようなシーンがあったんです。
…いっときます?
うなぎ、いっちゃいます?
ちょっとね、下世話な話をするならですよ。
このブログは格式高いことでおなじみじゃないですか。品のある文章、親しみやすい言葉遣い、ウィットとユーモアが高次元で融合しちゃってるのがこのブログですよ。
あのね、この旅でいくらカネを使ってんだって話で。マネーをどんだけっていう。
高速の通行料金。ホテルの連泊滞在費。あとラーメンにタマゴをトッピングした件について。もやしならともかく。罰として廊下に正座で膝と頭の上にバケツ置いて水ですよ。
カネなら持ってますよ? あたしだってさ、バカにしちゃいけませんよ。
給料明細には総支給で7兆。
そっから税金とか諸々引かれて30円くらいは手元に残るんだから。あとは帽子を逆さまに置いて、駅前でウキウキ・ウェイク・ミー・アップでも歌っておけばさ、帽子に小銭を投げてもらえばさ。
他にも、自販機の釣り銭が落ちてねぇか町内をぐるっと一周したりすればさ。なんとかつつましく暮らしていけるくらいにはなるんですよ。
最近ほら、電子マネーが使える自販機が増えてっから。落ちてねぇんだ。そういう時はしょうがないから隣町まで行きますよ。勤勉ってこういうことでしょうよ。
そんなあたしだって、うなぎの一匹くらい食っていいですよね。浜松に来たわけですから。浜松になぜ来たのか。
うなぎじゃね?
うなぎを食べに来たんじゃね?
もうね、全部後づけで。理由とかみんな後からだよね。実はっていう。座右の銘を「結果オーライ」にしようと思います。
専門店で緊張気味で
それでとりあえず洗車ってことで、ホテルから近い洗車場を探して行くんだけど、まー混んでるよね。休みになって、年末だし天気もいいしって感じなんだろうね。
ネットで検索したら、手洗い専門の洗車場に連れてかれたんだけど、みんなケルヒャーのお化けみてぇなのを持ってそれぞれの愛車にドシャーっってやってんだ。
手洗いってのも面倒だし、さらに混んでて順番待ちになってるってんで、ここはパスだなと。
混んでるところを避けながら何軒か回って、ようやく入りやすいガソリンスタンドを見っけまして。そこにあった洗車機で、なんとか凍結防止剤の塩化カルシウムで真っ白になった車を洗うことができました。
そんなことをしてたら、もういい時間になっちゃってて。今から行けば、昨日の夜にホテルで調べた鰻屋さんの開店に間に合うってことで。
行ったよね。行っちゃったよね。
鰻屋の駐車場にはすでに何台か車が停まってて、店が開く時間まで待ってるふうで。
なおかつ、ほとんどが浜松ナンバー。あたし以外には1台だけ、湘南だったか県外ナンバーがいたんですけど、他はみんな浜松で。
これですよ。県外ナンバーが多いと確かに有名店なんだろうけど、やっぱり地元のお客さんが朝から来てるってのがさ、それだけ常連さんを掴んでるって証拠じゃないですか。
その隅っこに混ぜてもらってっていう。
旅してるとそのくらいがいいよねって思うの。その土地の人に迷惑をかけたくないみたいな意識って、どっかにあるし。邪魔したくないっていう。なんか一瞬だけ見たことのないやつがいたけど、まあいいかくらいの感じ。
そんなに簡単に混ざれるもんでもないよね、ってのはあるの。こちとら、そんなにフレンドリーでもないし、パリピっぽい空気でもないからさ。
たとえ向こうがウェルカムでも、あたしはすぐに去っていく、どっかいっちゃう落ち葉みたいなもんだからっていうのはあるよね。
で、開店時間になって、常連さんなのか予約されてるのかわからないけど、並んでるお客さんに混ざって入っていって。
ちょっと緊張するんです。
店構えは高級店っていう感じじゃなくて庶民的な雰囲気なんですけど、うなぎっていい値段するじゃないですか。やっぱりさ、ちょっと緊張するわけ。値段とかは調べてないからさ。
だって普段は半額シールがこれみよがしに貼ってある唐揚げ弁当とかなんだよ。
スーパーに入って惣菜売り場を遠目に見てね。売れ残りのお惣菜になんかシールが貼ってあると思って前のめりに近づいていったら、3割引だとさ。買うのに躊躇するんだから。
で。
お席はこちらでよろしいでしょうか、なんて言われて。
あれは冬休みってことなのか、まだ若い、多分高校生じゃないかな。今どきのさ、バッチリエクステのまつ毛が熊手みてぇになってる店員のお嬢さんが来てさ。お茶なんか出されちゃって。しかも急須で入れてくれた緑茶なんか出されちゃってさ。
メニューがあって。
うなきの白焼きとかもありつつ、うな重とうな丼があるわけ。
ああいうのって、松竹梅じゃん。ランクっていうかなにが違うのかはよくわからないけど、だいたい松竹梅とかさ、あとは上とか特上とかじゃん。
二段ってのがあって。
二段って、なに?
ああいうのって難しくて、級だと数字が大きいほうが弱いっていうかランクが下じゃないですか。2級よりも1級の方が上みたいな。
でも段になると数字が大きい方が上だよね? 初段より二段のほうが強いっていうか偉いっていうか。空手とかでもそうだったと思うんだけど。
ちょっと緊張してるから。
出されたお茶をすすりながら、一見で入った店でとりあえずメニュー見てて。
で、周りはなにを頼んでるのかなと思ったら、最初の人たちはお持ち帰りでうなぎを頼んでたみたいで。さっきの世田谷だったか湘南だったか忘れちゃったけど県外ナンバーから降りてきた、夫婦らしき年配の二人組はうな丼と肝焼きとかを頼んでるのが聞こえたんです。
だから二段が、たぶん一級とか初段とかよりはいいやつなんだっていうのはわかっても、他に誰も頼んでないわけ。
で、値段を見るとそれが一番高いの。メニューの他のを見てもそれが一番なのね。
6千円。
…待って、ちょっと待って。
いやその戻るボタンとか押すのはさ、ちょっと待ちなさいよ。右上のバツとかは押さなくて大丈夫だって。
そりゃあね、6千円を一食にポンと出せるわけはないよ。あたしがいくらセレブだとしてもさ、毛皮のコートのポッケからマネークリップを出すタイプのやからだとしてもですよ。
普段は半額で300円切ってるような弁当なんだぞ。6千円って何食分なんだって話ですよ。
でもね、ちょっと考えてみてほしいんです。6千円はよく考えたらそんなに高くないんです。
確かに今は財布から6千円お支払いしますよ。当然、明日までメシは抜きでしょうよ。罰として。人として。生きとし生けるものとして。
あのね、うなぎを食べたのは、最後に食べたのはいつなのかって話なんです。去年食いましたか? 土用の丑の日に食いましたか?
例えば過去にさかのぼって一年食ってないとしましょうよ。一年、365日食ってないよと。
6千円を365日で割ってみて。電卓出してきて。机の引き出しの広い方に入ってるから出してきて。
それによると1日あたり約16.5円。キリがいいところで17円としましてね。
それをかわいいブタさんの貯金箱に入れて。ほら入れて。入れてみよう。そう入れようそう。
それを365日続けるとどうなりますか?
1日あたり17円で最高級のうなぎが食べられるんですよ。
もちろん詭弁ですよ。やってねぇから。うなぎ貯金みてぇなことは今まで一切やってねぇから。NISAでもどうかと思ってんのにさ。そんな小学生がお小遣い貯めてミニ四駆買うみてぇことをやったことがねぇから。
あと浜松に失礼じゃん。浜松に対して礼を欠いてるじゃないですか。浜名湖にも失礼でしょうよ。ついでにうなぎパイにもですよ。
うなぎと米とあたしだけ
でね。
頼んじゃったよねー
うなぎの二段重。
二段ってあれだった。うなぎが二段重ねになってるんだった。なんか知らないけど段位のことだと思い込んじゃっててさ。
うなぎ捌き師みてぇな人がいて、その二段の人が捌いてるのかなとか、マジで思っちゃってて。
捌き師二段の師範代みてぇな人が黒帯締めて、もちろん鰻風の黒帯締めてさ。薙刀みたいなやつでシュバァっってやって。うなぎに痛みを感じさせないくらいの速さで。
いいんだよ。居もしない、うなぎ捌き師の話は広げなくていいの。うなぎのいいやつ食ったんならその話をしなさいよ。
うなぎ、嫌いじゃないんです。むしろ好きかもとは思うものの、そんな滅多に食えるもんでもないじゃないですか。焼肉定食くらいの感覚で食うもんでもないっていうか。
だから、なにか理由がほしいわけ。食べてもいいよと。
なおかつですよ。その貴重な食べてもいいよDAYの時に、中国産の安いやつってのもアレじゃないですか。
だからさ、迷ったよ、迷ったけどもわざわざ浜松市まで来てですよ。食わねぇならまだしも鰻屋まで来てですよ。
並ってことはないでしょうよ。
そうなったらもう、清水の舞台から雪崩式断崖式ジャンピングスクリューご注文ですよ。すいません、二段重下さいって。
やがて。
うな重が運ばれてきまして。
その間にもお客さんが何組も来て、やっぱり地元のかたらしき人が多くて。うなぎを食うっていう習慣があるんだろうね。もちろん苦手って人もいるだろうし、毎日食うもんでもないだろうけどさ。
で、そのうな重の蓋を開けると、いい色に焼かれたうなぎ様がデーン! といるわけです。
いやぁ、これがまた肉厚だしタレも美味いしさ。
香ばしさと身の締まりと、かつ口当たりのやわらかさっていう。
そこにタレのかかったメシですよ。
もうね、あたし以外の客も、高校生のバイトの店員さんも店の景色さえも、いや浜松市すらも意識から消えてたよね。食べることに集中しちゃってて、浜松が浜名湖が富士山がすーって消えてって、うなぎと米とあたしだけがこの世のすべてだった。
そうやって食べ進めてったら、メシの下からうなぎがもう一枚出てきたんです。
なに言ってんのと思うでしょ。だって生まれてから一度でも口に出したことあります?
メシの下からうなぎ。
そんな言葉、口にしたこともなければ、こうして文字にしたこともないよ。一度もないよね。
そもそもね、発想がどうかしてるんだって。
炊きたてのご飯の上にうなぎの焼いたやつを乗せてみよう。
その上にご飯を乗せてみよう。
その上にまたうなぎを乗せてみよう。
この発想。そんなこと考えたことあります? ハンバーガーならわかりますよ。ありゃ挟むもんだからさ。
そうだ! うなぎを二段にっていう。
その瞬間。その発想。
そして満足感。確かに、カネを遣ったっていう自分の心理が味覚になにかしら影響してるけど、それにしても食べ終わったあとの満足感がすごかったな。
だって、うなぎの白焼きとかも食べてみたかったけど、やめておいたもんね。うなぎ二匹食ってるんだもんね。
うな重には肝吸いもついてきたし、あと茶碗蒸しもあって。
美味かった。行ってよかった。
湖のほとりで
お昼を終えまして。
特に目的もないけどとりあえず車を走らせたら、浜名湖のほとりというかそんな場所に出まして。
とりあえず一周しちゃう? みたいなノリで。天気もいいしさ。美味いもん食ったしさ。
ざっとマップを見ると自転車用の浜名湖一周ルートはあるみたいだけど、車でってのはパッと見つけられず。
とりあえずナビとかさせずにマップをチラ見しながら、できるだけ湖のそばを通るような道を走ろうと思ってスタートしたんです。
それでふわーっと走ってたら、あの、さわやかってわかります?
静岡のみでチェーン展開してるハンバーグ屋さんなんですけど。その店舗が見えてきて。
けっこう有名なんですよね。あたしも知ってるくらいだから。店の前にも行列ができてて。
あたしの旅って、ご当地グルメみたいなのはそんなに立ち寄らないことが多くて。混むのが嫌だし並ぶのも嫌なの。
加えて計画性とか一切ないから。浜名湖一周とか予定にないんだから。ないことをやり始めるんだから。だから予約とかは基本的には無理だしさ。
ただ今回はなぜか、うなぎ食べようかってなって、特別にリサーチはしなかったのにもかかわらず、ほとんど待たずに食べられたし。うな重ももちろん、そのお店の感じも含めてよかったってのもあって。
…名物、食っとく?
いや、今はハンバーグは無理だよ。お腹いっぱいだし。あと、うなぎから立て続けにハンバーグっておかしいでしょうよ。普段は壁みてぇなハンバーグしか食ってねぇんだぞ。胃がビックリするから。うなぎにハンバーグとか、まさか最後の晩餐的なって胃が思っちゃうじゃん。
胃が思っちゃう?
…まあ、とりあえず、さわやかのハンバーグはスルーしましてね。いくらなんでも。そのまま浜名湖一周ドライブを続けるんですけど。
年末年始でさ、車は多いけど混んでるってほどでもなくて。こっちはのんびりモードだからさ。ゆったりまったり、太陽が頭上で居眠りしてそうな年の瀬の休日感がゆわんゆわんとしてるんです。
途中でちょっとした売店と駐車スペースみたいなところを見つけちゃって。
ソフトクリーム食べちゃって。
なんか、みかんが有名なんだってね。産地みたいで。いやなんか、ふんわりとは知ってるよ。青島みかんとかあるじゃん。
浜名湖周辺を走ってたら、普通の一軒家の軒先のちっちゃな庭みたいなところに、デカい柑橘系の果物がごろごろなってる木が生えてるの。
それも一軒二軒とかじゃないの、あちこちで見かけるんだよ。みかんにしちゃあデカいと思うんだけど。
だってその、みかんの産地だからって、一般のお宅にみかんの木が生えてるとは思わないじゃん。みかん農園とか、そういうところにあるもんだと思うじゃない。
青森に行くと、どこのお家でもリンゴがなってたりしないでしょ。しないよね。宮崎に行くとあちこちの家でマンゴーの木があったりする?
秋田に行ったら家の軒先でなまはげの木があって、時期が来るとなまはげがなってたりしないでしょ。青とか赤とか色とりどりのなまはげがさ、風に揺られて熟してたりしないじゃん。
それで、みかんひと袋とか売ってたんだけど、さすがに食いきれないかもしれないから、みかんソフトクリームで手を打って。湖のほとりで。
もうね、来てよかったとしか思えないよね。
めずらしく観光っぽい一日になってるっていうのも、逆に新鮮っていうか。その時に目にしたものを追いかけてっていう、あたしの旅らしさは損なってない上でそうなってるのがすごくよくて。
寒い夜はおでん
それで、時間をかけて浜名湖一周しまして。
浜名湖もデカいから。途中の島とかも立ち寄りたかったけど、気が向かなくて行ってないってのにまあまあ時間がかかったもんね。
真横を新幹線が通ったりする道もあって、楽しかったな。
で、ふと我に返って。
おそらく今夜も、ホテルは満室だろうと。
部屋は連泊で取ってあるからいいんだけど駐車場は先着順だから、いったんホテルに戻って車だけでも置いておこうということになり。
昨日の夜に床屋さんとホテルを往復した時は寒かったけど、歩けない感じはしなくて。
むしろ旅先では歩きたいっていうか。ドライブもいいけど、歩くっていうスピード感でしか目に止まらないものもあるじゃないですか。
それで、昼間にかるく調べたら、浜松餃子ってのがあると。あと、静岡おでんってのもあるらしいと。
旅先じゃそんなにグルメにこだわらないけど、昼間に食ったうなぎでいい感じになってるから。今回はそういう流れなんじゃねっていう気になってるからさ。
あのね。それにね。
年末の冬のこの時期ですよ。静岡っていったって夜は寒いわけです。
おでん。
お・で・ん。
この三文字に勝てるやつなんかあります? おでんでしょうよ。勝ちでしょうよ。大勝利でしょうよ。
で、静岡おでんが食べられる店が浜松駅前に何軒かあるのがわかりまして。
歩いて行けるから。30分とかで行けるからさ。30分とか余裕で歩けるから。昨日の夜に途中までは行ってるから。
それに、今から行けば17時とかそのくらいに着くから、お店の開店と同時に入ればお客さんも少なかろうし。
それで、ホテルの駐車場に車を停めて、歩いて駅前の方へ向かいまして。
泊まったホテルから駅への道は、デカい工場があったりスーパーがあったりするものの、基本的には住宅地っていう感じなんです。
大手チェーン店が立ち並ぶような感じの地方の再開発区域っていうよりは、昔ながらのっていう雰囲気でね。
逆方向、ホテルを境に浜名湖方面へ行くと、そういったチェーン店系のデカい店が目立つ造りになっていくんですけど、そっちは歩く上では面白みがないっていうか。どこの地方もそういう感じの通りってあるからね。
それよりは、整備された感のない昔からずっとあるような街並みの方が、路地なんかの佇まいもいい感じだし、歩いてて飽きないんですよね。
30分歩く大変さ、みたいなことよりも、この道なんかいいなぁとかを思いながら歩いてる楽しさのほうが勝ってる感じ。
それで浜松駅周辺まで来ると一気に繁華街になって、栄えてるっていうかすごいことになってるの。
その落差が、やっぱり歩いてみるとものすごいんだ。
車で通るのと感じ方が違うんです。建物の高さがぐんと変わって、ネオンが街を彩って、人が交錯するこの感じに急になったなっていう。
どこにもない
それで、アタリをつけた静岡おでんのお店までマップを見ながら行くんだけど、通りすがりに見えるどこの店も、開店間もない時間帯だってのに人が多くて。
ようやく店に着いたんだけど、外から中がガラス越しに見える感じになってて。客なんかひとりもいないの。ガラガラなわけ。
待てよと。ここ、大丈夫かなと。
だって周りにある居酒屋とかシャレたバーみたいなのとか、外から店内がうかがえるような店はどこも客でごったがえしてるんだよ。
そんな中でポツンと、客入りのまったくない店ってことはさ、ここヤバいんじゃないの?
面倒だから食べログ的なのは一切見ずに、静岡おでんがメニューにあるってことだけで何店舗かピックアップして来たけど、いきなりハズレ引いたんじゃないのって思って。
で、店員のおねえさんが何人か見えて、ドアも開いてるみたいだし、ここまで来たなら行っちゃえってことで思い切って中に入ったんです。
「ご予約の方ですか?」
なんて言われまして。
昼間の鰻屋で見た高校生らしきお嬢さんの倍くらい、まつげがヴァッサーってなってるおねえさんから言われまして。
してませんと。予約なんてしてませんと。
「すいません、今日はご予約で一杯なんです」
ガラガラなのは予約客がまだ誰も来てないってだけで、一杯なの。繁盛してるの。ちゃんとしたお店なの。
ですよねー、年末も押し迫ったこの時期にふらっと来て入ろうなんてありえないですよねー、的な愛想笑いをして店を出たんですけど。
もうね、全滅なの。
調べた店だけじゃなく、あたり一面のどの店も予約で一杯なの。
ともすれば超ボッタクリのさ、闇蛇どぶろく専門店「よだれ沼崖っぷち駅前店」みてぇなとこでも予約で満席だった可能性高いよ。泥団子に泥をかけたようなのがひと皿五千円っていう店でもさ、お通しがナット5個の店でも客が押し寄せてた可能性あるよ。
真冬の駅前の迷路みたいな路地を、延々と歩き続けて。調べた店のことごとくが当然のようにダメで。
そうやってリサーチした店を辿ってったら、気がついた時にはかなり遠くまで来ちゃってて。
…歩けねぇっての。
ここからホテルまで一時間はかかるよ。歩いたらそうなるよ。ここまで来たのだってさ、おでん食べたい一心だったからこれたようなもんじゃん。
入れるお店、ゼロなんだよ。歩いて戻るモチベーションなんかないって。
だからってタクシーなんかつかまらないわけ。空車で走ってるわけもねぇっていう。
歩くしかないの。
ああ、忘れてた。気温3度だよ。昼間は14度だったけど今は3度だよ。なのに、おでんどころじゃないの。
行く先なんかないんだよ。これだけの店があるのに。
それにもう、何軒も断られてっから。
すいません一杯でまた今度、って言うお店の人の顔に、予約もしねぇで来てんじゃねぇよこの年末にって書いてあるのが見えてくるから。だんだんそう見えてくるから。寒さと疲労でそう見えてくるんだから。
ようやく。
空いてるラーメン屋に入ったのが21時を回ってたと思う。ずっと歩き回ってたわけじゃないけど。駅前の商業ビルに入って適当な店とか眺めて、時間潰したりしたけど。
いや。
時間潰しとかカッコいい言い方はよそう。あたしひとり、たったひとりすら居る場所がなかったから、とにかく何処かに入りたくてそうしたの。ここもダメ、あそこもダメで彷徨って凍えて辿り着いたところがそこだったっていう。
だってもう弱ってるからさ。薄暗い路地に立ってるキャッチの兄さんが言葉巧みに声かけてきたら行きかねない感じだったからね。アブねぇから。
だってもう、新幹線で帰ろうかと思ったからね。ホテルに荷物も車を置きっぱなしだけど。いいかって。
それで、流石に無理だなってことで、ホテルに近い場所に0時までやってる飯屋があったから、そこに行こうと。とにかく戻ろうと決めて歩き出した2分後くらいに、空いてるラーメン屋を見つけて。
聞いたら予約客とかはいないと。空いてますと。もう、飛び込むように入ってさ。
ラーメン食って。マジで美味かった。今食ったらどうかはわかんないけど、冷静に味見なんかできないって。
あの、空腹は最高の調味料とか言うじゃん。違うよ。どこにも行き場がないまで追い詰められたところで入れた店のメシは、大抵美味いよ。煮込み岩みてぇなのでも美味いよ。
これね、同じ日ですよ。
ここまで延々と書いてきたのは同じ日の出来事ですよ。24時間どころか12時間くらいの出来事だよ。アップダウン激しすぎでしょうよ。
そもそも夕方からなんで1万3千歩も歩いてるの?
その日のグーグルマップのタイムラインを見ると、浜松駅前を見るに堪えないくらいウロウロしてんだぞ。
…そんなだよ。そんな二日目だったよ。
