徒歩で湧き水を汲みに行く修行感 新潟県小千谷市姥清水

2018年12月12日水曜日

#散歩 #旅

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 以前、近場で面白そうかつマイナーなスポットがないか、知人に聞いてみたという話を書きました。

 その時は誰もいない足湯に辿り着いたわけですが、行ってきたよという話をその知人にしたら、ホントに行ってきやがったコイツ的な顔をされつつも、今度は別の場所についても教えてくれましてね。
 渡りに船、売り言葉に買い言葉、若干意味合いは違いますが行きますよ、行けばいいんでしょというお話。



茶屋の看板

わざわざ汲みに行かなくても


 日本は水資源が豊かなほうで、水道の普及率も相当高い水準ですから、水が手軽かつ安価に入手できる環境にあります。
 ミネラルウォーターはスーパーでもコンビニでも自販機でも買えますし、ウォーターサーバーが設置してある所もあります。ありがたいことです。
 
 ですから湧き水があるよといわれても、実際に水を汲みに行くとなるとちょっとな、ということになりますよね。
 場所はたいてい山の中ですし、水も重い物ですから担いで歩きたくはない。となると、車で行ける場所じゃないとちょっと厳しい。
 
 せめてそういった場所が近隣にないと、「水を汲みに行く」なんて機会はほぼないといっていいでしょう。もしくは修行に違いありません。

 そもそも、飲める水がどこでも手に入るのであれば、わざわざ水を汲みに車で出かける必要もないですしね。
 
 知人いわく、地元の人はそこの水を頻繁に汲みに来ているんだそうで、コーヒーや紅茶をその水で淹れると美味いとのこと。
 ただし道が悪いので歩いていったほうがいい、と言うのです。
 
 元々味音痴というか、良く言えばこだわりがない性格ですから、美味いと言われてもどうも斜に構えてしまいます。 
 でも確かに豆や茶葉に種類があって味やテイストが変わるのであれば、もうひとつのベースである水が違えば味も違うことにはうなずけます。
 お酒やお米も水によってデキが違うと聞きますしね。
 
 歩いてというのが気になりますが、歩数計アプリを入れたりして最近よく歩いていることもあって、せっかくだし行ってみようかとなったのです。

ネタバレしないように


 場所は新潟県小千谷市です。 
 新潟県中越地区で一番大きな都市である長岡市の隣に位置していて、私が気に入っているえちご川口温泉へ向かう際に通過する町です。

 その温泉があるのは市区町村的には長岡市なのですが、市町村合併の影響で飛び地になっており、小千谷市を通過してまた長岡市になるといった感じ。
 
 小千谷市は結構な豪雪地帯で、冬場は除雪でできた雪の壁が道路脇にそびえ立ち、道沿いの建物の一階部分が隠れて見えないほど連日雪に覆われるのですが、春から秋にかけては穏やかでのんびりしたイメージがあります。
 
 そんな小千谷市を走る関越道の小千谷インター付近に例の湧き水があるんだそうで、地図を眺めるとそこそこ山に入っていく感じを受けます。
 ちょっと不安。とっても不安。

 教えてくれた例の人も実際に行ったのは相当前で、山の遊歩道を歩いた時にその入口で湧き水が出る場所があったとのこと。

 記憶を辿りながら言うには、小千谷インターから歩いて行けなくはない。さらに、湧き水の出るあたりは道が細くなっていて駐車場もないかもしれないとの話でした。
 
 私は基本的に、事前情報をあまり入れすぎるのは好きじゃありませんし、リサーチを頑張りすぎてネタバレ感が出てしまうといけない。
 行ってみた時のインパクト、みたいなものも大事にしたいのです。
 ですからネット等ではそれ以上調べることをせず、落ち着いた天気の日を見計らって出かけてみました。

お散歩日和

晴れた!

 小千谷インターに着いたのは正午前だったと記憶しています。インター近くにはショッピングモールがあり、市街地中心部にも近く結構便利な印象でした。

 軽く食事でもと思ったのですが、近隣のラーメン屋さんなどは時間帯のせいでだいぶ混んでいる気配がします。目的地までは歩きですから、お腹がいっぱいになって身体の動きが鈍ったりとかトイレの心配もあるので、ご飯は後回しに。
 
 一応それなりな靴を履いたものの荷物を少なめにして、いつものボディバッグに飲み物と、今日の主役である水を汲んでくるためのカラの2リットルなペットボトルをバックパックに入れて出発しました。
 
 当地の天気はよくて、雲よりも青空のほうが広がっている感じ。気温も上がってきていて、軽めの服装で来て正解でした。

 国道117号線から高速道路の通っている山側に入っていくと、田んぼの中に住宅地が点在している光景になります。

案内が描かれたシャッター

 国道からは道案内の看板などはありませんが、時水という地名を目指していると、目的の場所に近づくにつれてところどころに目立つ案内を見つけることができます。

姥清水の細い道

 そのまま進んでいくと徐々に傾斜がキツくなりはじめました。歩き慣れている方なら大したことはないのかもしれませんが、基本的にダラダラ歩くのは嫌いじゃないという程度の私には、即効でツラさが襲ってきます。
 
 おまけに、教えてもらったように道が細くなりはじめ、色の落ち始めた山の中へ分け入っていくような気配が急速に濃くなります。

熊注意

 ご覧の看板もあったりしてね。
 この先どうなっていくのかなと不安になりかけた頃に、道の先の方に車が数台停まっているのを発見。もしやあのあたりが湧き水なのかしら。
 
 …いや待って、あれ駐車場じゃないの?
 
 駐車場ないかもって、あるじゃん…
 
 近づいてみると、舗装されてはいませんが10台ほどは停められるスペースがありました。車でくればよかったよ…
 

謎の岩から


 その駐車スペースというか広場の隅に、傍目に見ると岩というか岩石男爵の出来損ないみたいなものからパイプが四方に突き出したような、謎の物体があります。
 謎も何も、そのパイプから水がドバドバ出ていて、その水をポリタンクに汲んでいるかたがいらっしゃいますから、あれが例の湧き水なんでしょう。
 
 その広場の脇には2メートル以上は高くなった場所があり、そこへ通じる坂道とその向こうには小屋があるのがわかります。
 
 ウルトラマンに出てくるブルトンっぽさすら感じる、例の水の出る岩の周りには、ポリタンクをいくつも並べて水を汲んでいる人が何人かいます。そちらは後回しにして、先に上の方に行ってみることにしました。
 
売店の小屋

小屋と静まり返る池と観音像


 坂をひとつ上がると、屋根が付いた空間のある小さな小屋と、その向こう側に池のようなものが見えます。近づいてみると人の気配はしませんがどうやら売店のようです。
 駐車場を見下ろす位置には、記事の初めに載せた「ばばしょの茶屋」という看板がかけられていました。
 
 今日が定休日なのかシーズンオフなのかわかりませんが、もし営業していればところてんなどが買えたようです。値段も安めで、どういったものか気になります。

入口の碑

売店の看板
こういう看板好きすぎる

 ここから山の方へ登っていく遊歩道があるようなので、その入口にあたるこの場所に、こうして売店があるのでしょうね。まったく知りませんでしたが、案外訪れる人がいるのかもしれません。

池の鯉

 小屋の向こうには池があって、中では鯉がたくさん泳いでいました。その前で微笑む観音様の像が印象的です。馬場清水観音とありますが、この一帯を姥清水あるいは馬場清水と呼ぶようです。

池周辺

馬場清水観音

 水資源が豊富なお国柄とはいえ、古来からザバザバ使えていたわけではなく日照りや飢饉といったものを乗り越えてきたのです。
 ですから、水が湧く場所には伝承や信仰があちこちに残っていますよね。この土地の由来については詳しくありませんが、そういったものを感じさせる観音像でした。
 
 先ほどの駐車場のすぐ上にある売店と池ですが、上ってきた坂の反対側、ちょうどさっき水が出ていた岩の方へ降りる階段を発見します。
 ですが少し前の雨で濡れた落ち葉が階段の上に重なっていて、降りるのはやめておいたほうがよさそうです。
 

湧き出す水を汲む


 結局もとの坂を降りて、本命の水を汲みに行きます。
 例の岩から突き出したパイプから出ている水は勢いが結構あって、手を濡らしてみるとひんやりしています。

湧き水の出る岩
見た目がすごい

 空のペットボトルを取り出して満タンにしている短い間にも車が一台やってきて、こちらも水汲みが目的の様子。
 列ができるわけじゃありませんが、たまたまなのか人が入れ代わり立ち代わり訪れるのを見ると、ここらへんに住んでいる方々にはお馴染みの場所なんでしょうね。
 
 帰りは当然水の重さ分荷物が重くなるわけで、また他の人達がみんな車で来ているというのもあって、ここから歩いて戻るのはまあまあテンションが下がります。修行だ、これはきっと修行なんだ。
 
 ですが、とにもかくにも帰り着いて、早速沸かしてコーヒーを淹れたのですが、大したことのない安物コーヒーもいつもよりは飲んだ後の雑味が少ない気がしました。
 それが、自分で歩いて水を汲みに行くという滅多にない経験をしたからなのか、観音様の微笑みのせいか、それとも本当に水の成分が違うからなのかはわかりませんし、わからなくてもいい気がします。

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