とりあえず乗ってみたものの、さてこれからどうするかは車内で考えようかという、例によってその場しのぎな旅のお話です。
前回の記事はこちらから
万葉線に乗って
富山県高岡市の中心部にある高岡駅から北上して、射水市の方へ向かう路面電車「万葉線」に乗りました。路面電車に乗るのは生まれて初めてです。
今日は駅前でお祭りがあるため、末広駅という高岡駅から少し離れた場所が始発になっています。末広駅は歩行者天国区域の外れにあって、路面電車だけが歩行者天国内の駅に侵入できるように規制されていました。
ドラえもんのラッピング電車 |
路面電車に乗るとまず整理券を取ります。
支払いは降りる際でOK。終点まで乗っても大人400円(2019年5月時点)ですから、小銭だけ確認しておいてとりあえず乗っちゃえばいいやという気楽さもいいですね。
車内で両替も可能ですが支払いは現金のみのようです。
車両はレトロなタイプからちょっとかっこいい感じのものまであって、中にはドラえもんのラッピング車両も走っていたりしてね。街を走っているのを、ただ見ているぶんにも楽しいんですよね。
万葉線の経路(グーグルマップによる) |
路線図や料金などの詳細は万葉線株式会社のウェブサイトで確認できます。
万葉線株式会社 - https://www.manyosen.co.jp/
揺られているうちに降りるタイミングを失う
乗った時はそこそこお客さんもいて、座席はほぼ埋まっている状況でした。窓の外を眺めつつ、どこまで乗ろうかなと思いを巡らせます。
と、なんだかやたらウロウロする人影が視界に入り始めます。乗客の中に、撮り鉄といっていいのか単なる観光客なのか知りませんけど、落ち着きなく前に行ったり左に行ったりしながら写真を撮ったりしてる二人組がいましてね。
率直に言って目障りなことこの上なかったのですが、自分がどう見られてるかも気にしないような連中を相手にするのもバカバカしいので、ともかく窓の外を見るようにしてこれからのことを考えるとしましょう。
せっかくインソールも新調したし、おまけに天気もいいときてますから、祭りの空気にやられて焼き鳥だのなんだのを食べた腹ごなしも兼ねて、ちょいとは歩きたいという気持ちもあります。
どこかで途中下車して、そこからぶらぶら歩いて高岡駅まで帰るってのもいいかもしれない。
でも、初めて乗った路面電車だし、このまま終点まで乗ってみるのも悪くないよね。何よりも一旦座っちゃったらあまり立ちたくないし。
せめぎあいですよ、せめぎあい。
窓の外を見ながらどうしようかな、降りようかな、座ってたいなが、心の海で寄せては返す波のようにね。
右から「降りたほうがいいんじゃね?」 がやってきては、左から「もーちょっと乗っててもいいじゃん、ね?」 が打ち消していく感じです。
そうこうしてるうちに、道の駅 雨晴に向かう際に通ったあたりを過ぎて、電車がゆっくりと右へカーブして河口を渡り始めます。
路面電車がそんなにスピードを出すわけじゃありませんが、そうはいってももう結構移動してるよなぁと思いつつグーグルマップを開いてみると、今渡っているのは富山湾に流れ込む庄川のようです。
いつの間にか高岡市から射水市に入っていました。やっぱりね。
やっぱりねじゃねぇよ、ぼんやりしてる間に高岡駅から相当離れちゃったじゃないの。
もう仕方がないので、ここはもう終点まで行っちゃおうと、余計なことは考えずにゆっくりと移ろう景色を楽しむことにしました。
越の潟で途方に暮れる
射水市の街の中、といってもメインの通りからはちょっと外れた様子の一帯を抜けて、やがて終点の越の潟に着きました。
終点 |
ここまで乗ってくる人もほぼいなくて、例の鬱陶しい二人組もひとつかふたつ手前の駅で降りていったように記憶しています。
終点ということでなにかあるんじゃないかと漠然と思っていたのですが、これがどうも行き止まりな感じの場所でして。
越の潟は、富山湾に面した富山新港という大きな港の西側に位置していて、富山県営渡船という港を渡してくれるフェリーの発着場がある他は住宅地などが広がっている感じの、港町の隅っこといったような場所でした。
休日ののどかな昼下がりの、平和そのものな静かな町にひとりポツーンと取り残されたような状況でして。
おまけに乗ってきた路面電車もここで折り返し運転するようで、しばらくしたら出発していきましてね。
あ、もしかしたらこれにまた乗って戻ったほうがよかったのかしら、なんてちょっと思ったりして。
それもまた芸がないしと、グーグルマップを見ていると近くに「海王丸パーク」という、地図上で見る限り公園なのか遊園地なのかわかりませんが、とにかくだだっ広い場所があるようです。
こういう時にそのままネットで検索してもいいのですが、それほど離れた場所にいるわけじゃなし実際に行ってみればいいじゃないのと、スマホを閉じてそちらの方へ行ってみることにしました。
新湊大橋でエクスキューズミー
越の潟駅を離れてすぐに気がついたのは、港の上を渡るように通っている巨大な橋。
新湊大橋というのですが、海中から橋脚が塔のように伸びていて、あとで調べたところ海面から50メートル近く上に作られた延長600メートルの橋なんだそうです。それによって、港の東西を結んでいるんですね。
その大きな大きな橋の真下あたりにいるものですから、穏やかな富山湾にそびえ立つ巨大な建造物という光景に、ただただ圧倒されるような感覚を今でも覚えています。
で。
こんな案内板を立ち止まって読んでいたら、エクスキューズミーなんて声が聞こえてきまして。
はて、と周りを見回すと、外国人のカップルと思しきふたりが目に止まります。
昭和的な言い方をすればパツキンの、私よりも背の高そうな美人のお姉さんが、
「Hello! 」
なんておっしゃってやがるんです。
こちとら、日本語だってロクに扱えないってのに。
とりあえずハローっつってんだからと、はろーなんて返答をしたのですが、彼女の連れ合いの、これまたグラサンでイケメンな男性が、
「すいません写真を撮ってもらいたいのですが」
と、私よりも流暢な日本語で笑いかけてきたものですから、ほんのりズッコケまして。
富山湾をバックにたたずむ二人に向かって渡されたカメラのシャッターを切ると、ジャパニーズスマイルでニッコリ笑ってその場を離れたわけです。
新湊大橋でエレベータに乗る
その場を離れようにも、行き止まりの港湾の端っこですから行き先は限られるわけですが、先ほどの案内板のすぐ脇に新湊大橋の橋脚に通じる道とそこから上に伸びるエレベータらしきものが見えまして。
これはあれかな、新湊大橋の道路脇に歩道でもあってそこに通じているのかなという風情なんです。
逆方向の、海王丸パークとやらへ通じていそうな道には、さっきのカップル様がまだいらしゃってますから、そっちに行くのはのはなぜだかわからないけどどうも気まずい。
ここはとりあえず、その橋脚への道へ行ってみるしかなさそうです。なぜ「行ってみるしかなさそう」なのかは私だって知りませんよ。
エレベータ脇には「あいの風プロムナード」とありました。そういえばさっきの案内板にそれっぽいことが書いてあったよね。途中でエクスキューズミーされたからよく覚えてないけど。
歩いてきた流れのままにエレベータに乗ってみます。
自転車でも入れる結構広いエレベータが上昇し、入った側と逆のドアが重そうに開くと、目の前にあったのは遠くが霞むような真っ直ぐの通路でした。
ここは新湊大橋の道路部分の真下にあたっていて、そこに歩道が作られているのです。車両が走る道路の下に歩行者用の専用通路がある上下二層な構造なんですね。おもしろい。
エレベータ脇には展望スペースがあって、海面から50メートルの眺めを楽しむことができます。
新湊大橋からの眺め |
歩道は500メートルあるそうで、途中でこんな感じで現在地を知ることができます。
しっかりした構造物の中とはいえ海の上、それもはるか上空を歩いて渡るような感じで、なかなか面白い経験でした。
戻るの、か…
ようやく長い歩道を渡り終えると、先ほどと同じような展望スペースとエレベータが待ち構えていました。
それに乗って降りてみると、越の潟から見て港を横断した逆側にある堀内緑地というところに出ました。
こちら側も越の潟同様、特になにもない感じです。釣りを楽しむ人がいたりする他は、住宅地なんかが広がっているだけ。
むしろ、車を置いてある高岡市方面から離れる方向に来ちゃってますから、これ以上先に進むのはどうよということになりましてね。
まっすぐ横断しても500メートルもあるこの大きな港を高岡市の方向に戻るとすれば、ちょっと芸がないけど今渡ってきた橋の下の歩道をまた戻るのが賢明、ということになりますよね…
そんな具合で脳内会議の採択がなされましたので、エレベータの方に戻ることにしました。
橋脚まで戻りまして。
エレベータが50メートル上りましてね。
当然、目の前には500メートルの真っすぐな長い歩道があるわけです。
そりゃあゲンナリしますよ。しますとも。
だってさっき通ったし。
真っすぐで特に何もないし。
往復1キロだし。
戻って降りたらまたエクスキューズミーされるかもしれないし。
さっき見た海の上からの風景をまた見つつ、どうにか歩いて越の潟に戻ってきました。エクスキューズミーされずに。誰も褒めてくれないのに。
海王丸パークへ向かったものの
海沿いの通りは風がいい感じで吹いていて、心地いいのは間違いありません。とりあえず海王丸パークとやらへ行ってみましょうか。
現在地から路面電車で高岡駅まで戻るとしても、海王丸パークにほど近いその名も海王丸駅は、越の潟からそんなに離れていません。ならばここまで来たことですし、海王丸パークってのを見てからでもいいでしょう。
港に沿うように歩いていると、自衛隊の艦船と思しきグレーの船が見えます。この艦船は先ほどのエレベータの上にあった展望スペースからも見えていました。
そして、港湾をまたいで反対側の岸壁には、帆を畳んだ帆船のようなものが見えます。
ははん、あの帆船がきっと海王丸なんじゃないの。きっとそうだなと思いつつ、とりあえずは近くにある自衛隊艦を目指すことにします。
その船は「ひうち」というようで、中に入れる感じでタラップが伸びているのが見えます。
もしや見学可能なのかと近寄ってみると、今日は一般公開していませんでした。残念。
船の脇でも釣り人が並ぶようにして竿を構えていまして、こんなところでもなにか釣れるんだなと思いつつ、さらに先へ進むことにします。
間もなく駐車場やテントのようなものがある広いエリアへ出ました。ここが海王丸パークのようです。
ようですというのは、連休中ということもあって、家族連れがわんさかといましてね。さすがにそっちへ近寄るのは、混雑嫌いの私にとって無理も無理な話。ゲンナリ再発は避けたいのです。
結局は海王丸パークを目指して歩いてきたものの、スルーしておくのが無難だと早々に結論が出てしまいました。
新湊きっときと市場
もはや、目指す目的地が見当たらない状況になってきました。
羅針盤のない帆船同様に、海王丸パークのだだっ広い駐車場の隅をふらふらと惰性で通り過ぎまして。
そのまま少し歩くと、港湾とテーマパークといった景色だったのが、少しずつ街らしくなってきたのに気づきます。
先ほどの新湊大橋に通じる道路下を抜けてさらに歩いていると、その向こうにまた何か大きな駐車場と建物が見えてきます。
近寄っていくと、どうやら海産物とかのお土産物屋さんっぽい雰囲気です。
陽も傾いてきましたけどまだ営業時間のようで、駐車場にはまだまだ車が停まっています。
そういえば今の今まで土産のことを何も考えてなかったなと気がつきましてね。富山県の有名どころのお土産というのはどんなものがあるのか、実際に見てみようと建物の方へ行ってみます。
「新湊きっときと市場」というその建物は、思った通りのお土産物屋さんでした。
その場で海鮮モノを焼いてくれる浜焼きのお店やレストランなどもあって、ここに来るだけでも楽しめそうな場所のようですが、そろそろ閉店時間ということで捕れたての美味い海鮮に舌鼓というわけにはいかない感じ。
加えて徒歩ですから、荷物になるお土産物を買い込むと大変だよなと、一旦手に取ったおすすめらしき日本酒の箱をやむなく下ろしましてね。
結局ですね、お土産って何があるのか見てみよう的な当初の目的は果たしたものの、今は何も買えない何も食べられないという現実がわかりまして。わかっちゃいまして。
あとやれることといえば、きっときと市場を離れることくらいですよね。なにしに来たんでしたっけ。
や、車で後日来ればいいよね。下見だから。ぜんぜん下見。下見だから、ね?
まあ行かなかったんだけどね。後日も結局行ってないんだけどね。うん。うん。
ところでここはどこ
新湊大橋に海王丸パーク、きっときと市場と、目的地が浮かんでは消え浮かんでは消えを繰り返しているうちに、気がつけばスマホに入ってる歩数計アプリから、「1万歩あるいたよ! すっごーい! やったね!」的な通知が来てまして。
気がつけば、きっときと市場の駐車場で見つけた、謎の小道を歩いてまして。
ハッとなって写真を撮ってみたりして。
これはもしや、ランナーズハイならぬ「散歩ーずはい」なのかもしれません。
とにかく歩く。別に歩きたくないのに足を止めちゃいけない気がする。というより、足を止めたら絶対動きたくなくなる気しかしない。
そこからはどこをどう歩いたか、イマイチよく覚えておりません。
グーグルマップで当日のタイムラインを見てみると、きっときと市場を出てちょっと南下し、八幡町というところを抜けて足利なんちゃらさんの像のある橋を渡っています。
途中で撮った写真がこちら。
思わず入りかけた銭湯。着替えさえあれば… |
通った道をよく覚えていないのは、やっぱりハイだったんですかね。歩いていると、いい感じの看板や路地なんかに飽きないくらいのちょうどいい間隔で出会ったんですよ。そっち系のモードに突入してて、アンテナが立ってたんでしょうね。
途中で偶然スーパーマーケットにも出会い、ローカルスーパー巡りもはかどっちゃいましてね。
カモン新湊ショッピングセンター |
ツイートもした素敵な看板 |
フォントが最高 |
適度に写真を撮りつつ夕方の街を歩いて歩いて、結構楽しかった覚えがあります。
でも、ひとつ言いたいのはね。
ここはどこだよ。なんでここにいるんだよ。元々は路面電車に乗りたかっただけだったでしょうよ。
路面電車駅に辿り着く
このままじんわりハイなテンションのまま、高岡駅まで歩いて戻る勢いだったのは間違いありません。
ですがそんな気分を下げ方向に持っていくことが二つありまして。
ひとつは足の疲れ。
確かに新調したインソールのせいか、ここまで歩いてきても足の裏に豆ができるとか痛くて仕方がないってことはありません。
ですが、足全体がだるい感じはさすがに否めないといったところです。
そしてスマホのバッテリーがそろそろなくなりそう。
マンホールの蓋を見つけてはパシャリ、看板をみっけてはパシャリと、なにが楽しいのか知りませんけど写真を撮りまくってるせいもあって、バッテリー残量が厳しい感じです。
夕暮れも迫ってきているし、これはそろそろ歩くのをやめて万葉線に乗って高岡駅まで戻ろうということになり、グーグルマップを起動。最寄りの駅である西新湊駅の方向に歩き出しました。
高岡駅付近の路面電車駅は、道路の真ん中にちょっとした屋根があるだけのコンパクトなものでしたが、西新湊駅は小さな駅舎がありました。
時刻表を見ると、20分ほど待っていれば路面電車が来そうです。
誰もいない駅舎に差し込む傾いた太陽から差し伸べられた紅い光が、どうしようもなく旅を語ろうとするのです。それを急いで書きとめるように、残りわずかなエネルギーを使ってカメラにその気配を記録します。
逆方向の電車を見送ってしばらくしたら、乗るべき路面電車がゆっくりとホームに入ってきました。ドラえもんのラッピング車両でしたよ。それに、ラッピング車両だからなのかわかりませんが、女性の運転士さんでした。かっこいい。
やがて路面電車は動き出し、私は空いている席に腰を落ち着けて、体重を支え続けて疲れた足を休めることができました。
長い旅のひとつが
万葉線は快調に走り続けて、やがて高岡駅付近の市街地へ。
お祭りの歩行者天国は終了したようで、祭りのあとの切なさを漂わせたアーケード街が車窓を流れていきましてね。
間もなく本来の終点である高岡駅で電車は止まり、乗っている人々がぞろぞろと降りていく列に紛れ込んで路面電車を降りました。
なんでもないんだ、いつもの一日が終わるんだというように、駅前の雑踏がそう装っている気がして、その街の中へ身を隠したくなったのを強烈に覚えています。
それも長い旅の一日のひとつ。旅はまだ続くのです。