今回は、前回食べそこねた富山城址公園にある松川茶屋の「富山城抹茶パフェ」と、そこからのあれやこれやの自縄自爆なお話。
旅の途中でできていく、奇妙なシバリのお話です。
逃した魚の大きさ
私のようにいきあたりばったりで旅していると、行ってみたら定休日だとか閉店してたとか、そういうのはめずらしくありません。
それも気ままな旅の醍醐味、だなんて強がってみてもですね。やっちゃった感とともに、逃した魚は大きい現象が胸中でパンパンに膨れ上がってくるものでして。
ましてや前回の記事をご覧いただければおわかりの通り、辿り着いた富山城址公園にある松川茶屋で見かけた、「富山城抹茶パフェ」に心惹かれ。
いざ、お店に入ろうとしたら、ちょうど閉店時間になってしまったという、360度あらゆる角度から見ても残念以外の言葉がない状況ですから。
その後、ちょいと富山城址公園をふらついてみたものの、まったくもって身が入りません。
ここは出直そう。この旅の間にまた来ようじゃないかと、すごすご引き返したというのが前回のお話でした。
開店と同時に抹茶パフェ計画
私もね、ただただやられて帰るような旅人じゃありません。リベンジですよ。それも綿密に計画を練ってのリベンジ。
連休中ですから、お客さんも普段よりは多いのは目に見えています。
このところの長旅にすっかり慣れきったふんわりモードで、朝も遅い上に日中だっていいご陽気につられてダラダラ過ごしてる日々でした。そこから食べに行ったんじゃ、売り切れってことも充分あり得るわけです。
売り切れじゃなくても、例えば満席でお客さんが並んでるとか、あるいはパフェの抹茶アイスが溶けて上に乗ってる富山城が傾くまでインスタ映えする写真を撮りまくってるような女子がいたりしたら、もう無理じゃないですか。
このあとずーっと、食べそこなった抹茶パフェを引きずるばかりか、10日間も旅したこの富山県の思い出が抹茶色に染まるのは意地でも避けたいんです。
そうなるともう、オープンと同時に店内に入り、ダンディなトーンの流暢な日本語で、
「富山城抹茶パフェひとつ」
これでしょう。これっきゃないでしょうよ。
ああもう、明日が待ち遠しい。
待ち遠しいというか、早くリベンジしてスッキリしたい。抹茶パフェが食べたいというより、とにかくリベンジしてしまいたいという、もう本末転倒はなはだしい気持ちで悶々と夜を越えました。
どうせなら散歩もしよう
旅の途中で街を歩くというのが最近のテーマというか方向性にしていまして、この旅の前半ではそれがあまりできていませんでした。
その反動で、高岡市の路面電車の始発から終点まで歩こうとしてみたりするなど、ちょっとどうかしてる感じでとにかく街歩きがしたかったんです。
加えて、富山市には路面電車があります。
高岡市と違って一本道を往復するだけではなく、市内を周回するような路線もあるようですし、せっかくですから乗ってみたいなと。
そういうことで、抹茶パフェを食べたら、富山駅周辺をゆっくり散歩するような感じで行ってみようかなと思います。
前回の記事では、ローカル線でひと駅隣の稲荷町近くの公園を散歩していた流れから富山駅へと辿り着いた関係で、公園の駐車場に車を停めたままでした。
ですが、またそうするのもなんですし、適当なパーキングに車を預けて富山駅に着いたのが午前9時半を少し回ったあたりだと記憶しています。
ここから歩いて富山城址公園まで散歩して、例の松川茶屋がオープンする10時には到着できるような計画です。
松川沿いを歩く
富山城のそばには松川という、富山県を南北に流れる神通川の旧路を流れる川があります。
その川沿いは河川公園というのか、ちょっとした整備がされていてベンチなどが置かれていましてね。訪れた人たちの憩いの場といった風情になっています。
このあたりは桜の季節に来ると良さそうな感じで、後で調べてみると「日本さくら名所100選」というものに選ばれているんだそう。
この旅ではもちろん桜は咲いちゃいませんが、それでも川風に吹かれて歩いていると気持ちがいいんです。
どちらかというと抹茶パフェモードになっていて、時間も場所も目指すものがありますから、そうした風景を横目にしつつもスタスタと歩いていきます。ようやく富山城址公園に辿り着いたのが、目標の10時をちょっと回ったあたり。
開店と同時に、なんて意気込んでいましたが、お店が開くのを待って、いの一番で抹茶パフェくださいってのもなんだか嫌らしい気がしてきたもんですから、ちょっと時間調整したのは内緒です。
それでもオープン即満席ってことだってなくはないでしょう。
そんな不安と期待感と、ようやくこの妙な心理、よく考えると意味のわからない義務感のようなものから開放されるという気持ちがぐちゃっと混ざったまま、松川茶屋の入り口をくぐります。
先客は二組。よし! と、心のなかで謎のガッツポーズです。
富山城抹茶パフェ
距離にするとたいしたもんじゃありませんが、てくてくと歩いてきたこともあってか、若干たどたどしい日本語で注文してから間もなく。ついにご対面です。
こういう時に優しいお味だの口の中でとろけるだの、宝石がどうのマウイ島がどうのってな表現を駆使して、こんな駄文を読んでくださっている皆様にお伝えできればいいと思うのですが、普通に美味しかったというのが率直なところです。
なによりもリベンジしてやった感がすごい。やったよ。やってやったよ!
裏側のハリボテ感 |
実際のところメニューもそこそこ豊富ですしお客さんも結構いたので、富山観光でここまで来たなら、このパフェ以外にも色々食べてみるのもありなんじゃないでしょうか。
ここから松川遊覧船も出ていますし、天気が良ければ船着き場そばにあるテラス席で遊覧船を待ってる間に小腹を満たす、なんていうのもよさそうです。
店内には周辺の古い写真が展示してあったり、滝廉太郎記念館が併設されていたりするので、そういった方面からも訪れてみる価値がある場所だと思います。
あらためて、富山城
松川茶屋のある一帯は富山城址公園となっていて、文字通り富山城の跡地に作られた公園です。
周辺から見ても一段と目立つ天守閣の中には郷土博物館があったり、観光案内所なども内包したランドマークになっています。
特に天守閣は、もちろん当時のものではないのですが、富山市中心部のビルと並ぶお城というのはインパクトのある風景ですし、石垣やお堀などは当時から残されている部分もあります。
お城マニアなかたにはどうなのかわかりませんが、少なくともよく整備されたいい公園だと思います。お馬さんもいたりしてね。
松川沿いにかかる六つの橋
富山城址公園をひと通り見て回って、タイミングが合えば遊覧船にでも乗ってみようかと気まぐれを起こしかけたのですが、出発時間的にもお客さんの多さ的にもやめておいたほうがいいな、ということになりまして。
で、何気なく遊覧船のパンフレットを見てたんですけど、ちょっと気になることがあったんです。
東西に流れる松川をゆく遊覧船のコース上には、川に掛かる橋が六つあるんです。
松川茶屋のそばに掛かるのが塩倉橋。そこがコースのほぼ中央になっていて西の方に向かうと順に、七十二峰橋、安住橋、舟橋。東に向かうと華明橋、桜橋という感じで合計六つの橋がかかっているようです。
そしてそのルート沿いは、先にも書いたようにちょっとした公園というか遊歩道的な整備がされているようなのです。
これ、遊覧船に乗ってコースを往復するのもいいけど、そのコース沿いを歩いてみるのも面白いんじゃないの?
もともと、パフェを食べたらこのあたりを散歩する予定だったし、多少なりとも目標みたいなものがあったほうが面白いかも。
そんなことを思いついちゃったものですから、どうせ時間はたっぷりあるし遊覧船コース沿いの散歩案は、脳内の首脳会議で全会一致で可決されまして。
そのまま富山城を後にして、ふんわりした目標のある散歩を始めたのです。
歴史ある橋を巡るうちに
最初は楽しかったのは間違いありません。
なんせ天気もいいし、抹茶パフェのリベンジが済んで気分もいい。
のんびりゆっくり歩いていくと、程よい間隔で橋が見えてきましてね。遊覧船のコース沿いを遊覧船に乗らずに歩くというのも、自分的にはちょっとだけ楽しいシチュエーションだったりしたんです。
そうやってぶらぶら散歩して橋に着くたびに、銘板に刻まれた橋の名前を撮影したりしてね。そしてまた次の橋を目指して歩くという、ちょっとしたスタンプラリーみたいな感覚になってきたんです。
実際の富山城があった頃はこの川を城の守りに利用したんだそうで、そんな川の歴史とそこに掛かる橋の歴史を伝えるように、モニュメントというかそういったものが川沿いの道のあちこちに設置されているのに出会います。
ガス灯と遊覧船 |
それらのモニュメントを包括したマップというか案内みたいなものは、どこかにあるのかもしれませんが少なくともこの時は手元になくて、歩いていてそういう発見をするのもだんだん楽しくなっていったんです。
…途中までは。
あの、私の悪いクセというか。三つめの橋に辿り着いたあたりで、若干の義務感がね。
次も行かなきゃ、みたいな。
いいんですよ、途中で止めたっていいんです。別に橋マニアでも川マニアでもないんですから。ある程度散歩して疲れたらさっさと帰ったっていいんです。
でも、「六つの橋を訪れし者」になりたいじゃないですか。松川に掛かる伝説の六つの橋をコンプリートしたいじゃないですか。しなきゃいけないような気がしてくるじゃないですか。
隠しアイテムを偶然見つけた後の疑心暗鬼
加えてもうひとつ。
橋もやはり何度か掛けかえられているようでね。
これを見ていただいて。
これ、安住橋のたもとの、ちょっと見落としそうな位置にあるんです。地面に設置してあるんです。
多分、老朽化したりして橋を新しく掛けかえるようなことがあって、そのとき解体したであろう古い橋の銘板ですよねこれ。貴重なやつですよねこれ。
…あんじゃね?
こんなのが六つの橋のそれぞれどこかに、ロールプレイングゲームとかでよくある隠しアイテム的なノリで、ひっそり置いてあるんじゃね?
そう思いはじめたらもうおしまいですよ。探さなきゃいけなくなるから。
でね。
川って、対岸があるじゃないですか。当たり前ですけど。
川を上から見て、上流下流どちらかの方向に向いた時に右岸と左岸がありますよね。
どちらの岸沿いにも、それはそれはよく整備された遊歩道とか、川のそばに降りられるような道とかがあるんですよ。
…あんじゃね?
今いる側の岸沿いになくても、対岸になにかあるんじゃね?
そうなると六つの橋沿いに川をいったん、一番東の端にある橋から西の端にある橋までずいっと歩いてね。
で、川を渡りまして。
また端から端まで歩くことに、なる、よね。よね?
誰が? 私が?
これ、最初からその予定で歩くんだという計画だったなら、もちろん効率のいいルートとか考えてからやりますよ。
途中なんです。
途中で、ロールプレイングゲームでいうところの、あれ何この拾ったアイテムっていう。なんかめずらしいアイテムをたまたま見つけたけど、なんの情報も手がかりもなくたまたま見つけたけど。
あるの? こういうの実は、今まで普通に通ってきた街や道やダンジョンにあったりするの?
そういう状況なんです。勝手に自分で作って勝手に陥ってる状況なんですけど。
ですから、今までいくつか歩いて見てきた橋も、もう一回よくよく調べてみたい。それには一回通った道をまた歩かなきゃいけないわけで。
富山の旅も終わりに向かう
六つの、それぞれの橋の竣工日が橋に刻まれているんですけどね。
それが気になって気になって、全部撮影しなきゃいけないような気がして仕方がなかった時は、さすがにダメだと思いました。人として。どうかしてるなと。人として。
松川の両岸、歩きましたよ。制覇しましたよ、六つの橋。
途中でベンチに座ってたそがれてみたり。同じ橋を何度も通ったりしつつ、攻略マップを作れそうな勢いで歩き回りました。
楽しくないかといえば、そりゃあ楽しかったんですよ、もちろん。なぜ苦しかったかは、今となってはまったくわかりませんけども。
そんな感じだった旅の一日も、やがては過ぎていきます。10日間の旅がいったん、終わろうとしています。
駅前で昼飯難民になったり知らない街でトイレ難民になったり、今回の富山旅10日間で起こったことはまだまだあるのですが、長々と続けてきたことですし、お話の方もいったんお終いといたしましょう。
10日間というまとまった旅の期間中、ひとつの都道府県に滞在していたというのはもしかしたら初めてかもしれません。
色々な地域をちょこちょこと通り過ぎるような旅に比べたら、ずいぶんと趣が異なりますが、今の私にはこういう感じが合っているような気もします。
スケジュールの決まっていない旅をのんびりと振り返ってきました。そしてまた次の旅が待っていることでしょう。そのお話も、いずれ書きたいなと思っています。