その日の気分や勢いってものを大事にしたい、なんてのを言い訳に、ふらっと旅に出てしまいます。
でも、そうもいかないことだってあるわけです。時間も予算も完全に自由になるわけじゃないよと。
そんな気持ちを抱えて喫茶店に入り、紆余曲折ののちに旅に出たという、そんなお話。
時間をつぶすために喫茶店へ
仕事でちょっとした会合がありましてね。
会議を終えたら懇親会、という流れですからアルコールが入るわけで、そうなると車で会場に行くのは難しいということになり、会場までは公共交通機関を乗り継いで移動することにしました。
公共交通機関、要は電車とバスなのですが、時刻表を照らし合わせると乗り換えの関係で、会合が始まる時間よりもかなり早めのタイミングで到着してしまうんです。
そうなると、どこかで時間をつぶす必要があります。
当日は夏の名残がまだまだ濃い目に残っているころでしたから、時間があるからといってここ最近お得意の街歩きなどをしてしまうと、会議の前に汗だくになってしまうのは目に見えています。
そもそも、タイムリミットがあるのにいつもの調子で街歩きなんか始めてしまったら、万が一良さげな路地裏だの看板だのを見つけてテンションが上がった場合には、会合なんかすっぽかしかねませんからね。
ですから、これはもう喫茶店とかそういうところで、アイスコーヒーの一杯も飲んで、あとはブログの下書きでもしながら時間を過ごすのが良さそうだということになりまして。
そういえば会場の近くに、以前Twitterのタイムラインで見かけたちょっといい感じの喫茶店があったはず。
そこへ行ってみようじゃないか。店の前まで行ってみて、万が一気乗りしなかったら別の何かを探せばいいやと、そんな感じで雑に予定を立てて当日を迎えました。
店の名は「シャルラン」
新潟県長岡市にある長岡駅前。西口で合っているのかと思いますが、そちらへ出て少しばかり歩いた先にその喫茶店はありました。
コーヒーカップのデザインがかわいすぎ |
階段を上がってドアをくぐると、客入りは7割ほどとなかなかの盛況。時間帯的にピークタイムだったのかもしれません。
奥の方のテーブルではむかしのお嬢さんやらまだまだ現役のお嬢さんやらが、それぞれのテーブルを囲んで話に花を咲かせています。
どうやらどこに座ってもよさそうでしたから、空いている入口側の一角に腰を下ろしました。
テーブル上のメニューを見るとまだモーニングサービスの時間のようです。「トーストセット」を頼んで、しばしの休憩時間。
写真をパシャパシャ撮るにはお客さんが多いので、その代わりに年季の入ったテーブルやら調度類を眺めていました。
そしてトーストセットとコーヒーがご到着。
なにこのごちそう感 |
これですよ。こういうの。
厚切りのトーストとサラダ。そして、ゆっくりと味わうコーヒーが、時間の経過を深くしてくれるようです。
喫茶店でこうして過ごすのって、いいものですよね。
注文したらすぐ出てきて食べ終わったらすぐ店を出る感じも嫌いじゃないけれど、こういう余韻の残るような店に行くことも忘れちゃならないなってあらためて感じたり。
コーヒーを片手に悩む
冒頭では、喫茶店で過ごす間にブログの下書きをするとかしないとか殊勝なことを書いてますがね、結局は手をつけちゃいません。
それというのも、会合と懇親会が終わったらどうするか問題について、あれこれと思案していたのです。
正確には、どこかに旅に出てしまいたいという衝動とどう折り合いをつけるか、たゆたうコーヒーの湯気と香りの中で、その押し引きというか気持ちの整理が必要でした。
なにが押し上げてくるのか自分でもわかりませんけど、ここ数日は身のうちから「旅に出ろ圧」が強くなっていた時期でね。
そのタガが外れるためのきっかけのひとつに、この日は車での移動じゃないってのがあったのは確かです。
自動車での旅が多い私ですが、電車やバスでの旅も嫌いじゃありません。
だって飲めるじゃないですか。
だってお酒を飲めるじゃないですか。
運転だと飲めませんからね。宿にチェックインして、今日はもうどこにも行かないぞという態勢と心構えができないと、飲むわけにはいきませんから。
でも今日は懇親会にてどうやったってアルコールが入るし、それを見越して車では来ていないんです。
つまり、チャンス。逆にチャンス。
これはどこからどう見たってチャンスですよ。なんのチャンスかは知りませんけど。
じゃあ、電車でも新幹線でも深夜バスでも勝手に乗って、何処へでも好きに行けばいいじゃないかと思うわけですが、ここでもうひとひねり、事情がありましてね。
実は翌日の夕方に外せない約束があり、せめて18時には自宅に戻っていたいのです。
そうなると、お帰りが深夜になってもいいようなハードな旅程は無理になる。本日の夜に移動を開始してどこかで一泊、明日の遅くとも午後には帰路に着くようなイメージじゃないといけません。
そういった事情で距離的にそうそう遠くまで行けない。交通機関の出発時刻もあるし、乗り継ぐとなればなおのこと上手く接続できる路線をあらかじめ調べておく必要があるわけです。
そして、宿をとってない。
お金に糸目をつけなければなんとでもなるでしょうが、予算ってものがありますからね。
そしてそして、わずかに残っている理性が「行かなくていいんじゃね?」という、正論極まりない決断を迫ってきたり。
旅に出るにあたってそもそも的なことと、よしんば旅に出るとしたら具体的にどこに行こうかというプラン。
いつもはほとんど検討もしない、このふたつについて悩む時間がほしい。それには喫茶店がいいなと。そういえば最近、喫茶店に行ってないしなと。
ですから冒頭に書いた、時間をつぶすためというのは半分本当でも、もう半分は整理のつかない気持ちに向き合うためだったんだと、この日を思い出してこのブログを書いている今になって気がついたんですよね。
…そうこうしている間に件の会合に向かう時間となりまして。冷めかけたコーヒーとまとまらない何かをグッと飲み込んで、シャルランを後にしました。
なぜか、後ろ髪を引かれるようなそんな気がしたのは、涼しい店内から残暑厳しい街へ出てしまったせいなのか、この時は判然としませんでした。
いいフォント |
店を出てすぐ。すごくいい |
こみ上げる旅の衝動
もちろん、答えなんて出ませんよね。そんな小一時間で答えなんて出ません。
いや、もうとっくに出てるんじゃないか。
旅に出るのは決まってるんじゃないの。行き先も宿も交通手段も、なんにも決めてなくたって行くに決まってるんです。いつものように。
それでもまだ少し、ウジウジとした気持ちがあったのも確かでね。
懇親会の二次会に行かなくてよさそうだったら消えてしまおう、誰にも捕まらなかったら逃げてしまおう。そんなふうに思っていたんです。まるで行かない理由を探すように。
それが本心なのか?
答えはあの喫茶店に置いてきたような気がして、自分の中の悶々とした吐き出す先のない想いが渦巻いているもんですから、会合だの懇親会だののことはほとんど覚えちゃおりません。
そんなどっちつかずな心境がよかったのかどうか、夜の部が終わって解散するともしないともつかない人だかりから、案外スルスルと抜け出しちゃったもんですから、ようやく腹が決まりました。
行くぞ、旅に出るぞ!
夜のホームから |
長岡駅に向かい、新幹線ホームの方へ一気に歩いていきます。
とりあえず東京方面へ行くことにその場の勢いで決め、切符売り場の前でざっと宿泊施設を検索してみます。
すると、群馬県は高崎あたりに手頃な値段のホテルがある、ある。空いてるじゃん、今夜の宿。
東京まで足を伸ばせば宿泊施設の選択肢は増えるものの、今はあまり悩みたくありません。手頃でそれほど遠くもなく、それでいて県境を越えることで旅感が出る街がいいなということになり。
週末ですから、行くならササッと予約しないと、いつの間にか埋まってしまいかねません。
多少は酔った勢いも手伝って、どこでもいいやと駅に近いホテルの予約ボタンを連打。
朝食なしプランでよろしいですかはい、入力内容は間違いありませんかはいはい、確定してもよろしいですかキャンセル料は云々はいはいはい、ってなもんです。
無事にひと部屋抑えたら、その足で切符を買って一番早い高崎で止まる新幹線に乗り込むべくホームへの階段へ向かったのでした。
あの喫茶店で、あんだけ悩んでたのは何だったんだろうとチラリと思ったものの、それもすぐに吹っ飛びました。
だって旅に出られたんです。
時間が短い。
予算が限られてる。
疲れも残ってる。
そんなものどうでもいいから、本当は旅に出たかった。
シャルランでは気持ちの整理がつかなかったような気がしてたけれど、本当はもう決めてたんだなと。喫茶店の階段を降りるあの時に、まさに。
そして実現したからなんです。意に沿って。本心に沿って。
出発の瞬間の高揚感。なにものにも縛られない感じ。これが必要なんだって、もう何度も何度も気付かされていたはずなんですけどね。
飲んでシメて、からの
新幹線で長岡駅から高崎駅なんてそれほどかかりません。
加えてテンションがこれ以上ないくらいアガっている上に、多少なりとも懇親会でお酒を飲んでいるせいもあり、トンネルで塗りつぶされた暗い窓を眺めていたらもう到着となりました。
高崎市、そして高崎駅には以前も来たことがありますが、駅前の風景などは夜ということもあってか記憶と一致しません。
とりあえずは旅に出たお祝いに乾杯したい、でもそんなに飲むつもりも長居するつもりもありませんから、居酒屋ってのもどうだろう。
そんなことを思っていた矢先に目に止まった、駅前にあるラーメン屋さんに「目の前で数人が入店していったから」というテキトーな理由で、あとに続いて入店してみました。
ラーメンとビールを頼んでしばし。間もなく届いたジョッキを掴み、コングラチュレーション的な意味の強い乾杯を心の片隅で告げて、ようやく本日の一杯目という感じがしてきました。
シメのラーメンも滞りなく出てきて、酔ってるせいで味なんか覚えちゃおりませんが、ちゃんと食べ切りましたから決して悪くなかったんでしょう。
これでやめておけばいいものを、飲み物がないからという理由でコンビニを探して買い出しに行き、当然のようにアルコール類もカゴに入れてレジに向かいましてね。
予約した、アハ体験みたいな名前の有名系ホテルにチェックインして、かたっ苦しいスーツを脱ぎ捨てるや否や、一度はシメたはずの今日の酒の延長戦を始めたのが23時近かったような気がします。
寝る前なのか、夜中に起きたのか覚えちゃいませんがこんな写真が残っていました。
迷いに迷った今日という日がようやく終わろうとしていますが、旅はまだ終わりません。このお話も、まだ。