なんも計画性もなく、いきあたりばったりに行動しているのに、なぜか喫茶店というワードで繋がっていく旅のお話の続き。
高崎駅前をさまよう
翌日。
寝起きもそれほど悪くなく、迎えた高崎市での朝です。
チェックアウトの時間までまだありますが、今日は夕方には自宅へ戻らなくてはいけません。
寝て起きて、ふと冷静になってみれば、帰りも新幹線にすると予算的にちょっとキツくなる。いっそ高崎から在来線の上越線に乗れば、時間はかなりかかるものの新幹線の半分の値段で移動できますから、それもアリかもしれないなと。
そしてそうした場合は、高崎市にいることができる時間が短くなってしまうことを意味するわけです。
これはもうとっととチェックアウトして、なんのアテもないけど高崎駅前を徘徊放浪しに行こうということになりました。
さいわい、私は行くアテもできないうちから、「もしも近くを訪れることがあったらついでに行ってみたいスポット」というのを、グーグルマップとEvernoteにあらかじめチェックしてあります。
マップを開いてみると、高崎駅から歩いていける範囲で何ヶ所かそういう場所がありますから、とりあえず街へ繰り出しても何とかなるだろうと、身支度を整えて仮の宿を抜け出したのが8時過ぎでした。
喫茶店巡りとしゃれこんで
そんなスポットのひとつが、高崎駅付近にある「コンパル」という喫茶店。味のある店内の写真などをネット上の記事などで見たことがあり、いつか行ってみようと思っていました。
ざっと調べてみると、喫茶店だけあって開店時間が早めのようで、早い時間帯に行動したいという今の状況にもピッタリです。
昨日行った喫茶店シャルランと合わせて、この旅ははからずも喫茶店巡りになるなぁなどと思いながら、ホテルを出てすぐにマップで位置を確認しておきます。
ふと見回せば夏の終り。
ですが、比較的早めの時間帯のせいか、体感上はそれほど暑くありません。知らない街を歩いて回ることになりますから、気温の上がらないうちにあちこち動きたいなという思いがチラリとよぎります。
それはそれとして、時間がないとはいえ急ぎ足で駆け抜けるくらいなら行かないほうがマシってもんですから、そこはいつものペースを守ったほうがいいだろう。気持ちが行ったり来たりしながら、朝の高崎駅前を歩きはじめました。
気になる看板を見つけたら、スマホを取り出してパシャリ。ピンとくる通りがあればまたパシャリ。
なにをするでもなく、なにをしてもいい。そんなふんわりとした街歩き、これが相当楽しい。来てよかったなと思いましたよね。
いつもの病気が顔を出す
ふんわりついでというわけじゃありませんが、件の喫茶店「コンパル」の位置もホテルを出てすぐにふんわり確認したっきりでね。
特に時間の縛りがない場合は、目的地の大体の場所を地図上でチェックしたら、あとは地図を見ずに行ってみるのが私の基本スタイルです。
そんなわけで、このへんだけどなぁと思いながら実は通り過ぎたりしていたようで、ネットでも見かけるこの看板を見つけたのは出発から少し時間が経ったころでした。
やってきた方向によっては目立たない位置にある看板と、階段。
二階にある喫茶店ってそれだけでちょっといいと思うのです。異空間というか、わずかに異なる世界への入り口のような、少し不穏で上るのに勇気がいる、それでいて吸い込まれたくなるような気がしてね。
そして私は立ち止まってしまいました。
どうもこの階段を上がれない。そんな気がして。
こういうことが実はよくあって、目当てのお店の目の前まで来て入れない。入る気がしない。今じゃない気がする。そんな気持ちになるのです。無論、ネガティブな心情ではなく、足が止まる感じ。
病気でしょう、こんなの。自分自身にもなぜだか理解できないのですから。
こうなると自分でもわかりませんが、その第一感に従うしかない。誰が悪いわけでもない、私自身のなにかに告げられたように、私はコンパルの前を通り過ぎてしまいました。
これでいいのかしら。後ろ髪をひかれる思いで、それでもちょっと今はやめておこうという気持ちのほうがこの時は強かったのです。
往くアテを失って
アテのない旅といつもいつも言いますが、行きたかった喫茶店の目の前まで来て行かないという、よく言って奇行、悪く言って人間ド失格な行動に出たもんですから、本格的にアテを失くしまして。
あとは気が済むまで歩いて歩いて、どこまでも行ってやろうと。そうするしか頼るものがありません。
糸の切れたタコを追いかけて気がついたらここはどこってなもんで、心の中心が定まらないまま漂いさまよいはじめることになりました。
そんな状態でも五感は案外鋭敏になっていたのかもしれません。もともと目が悪いし聞き取りもよくはないし、匂いだって鈍感なほうだと自覚してるような私ですが、めずらしく嗅覚が作動したんです。
ちょいと恰幅のいいおじさんが自転車で、私の後ろからのそーっと追い抜いていったんですけど、その時にお線香の匂いがしたんですよね。変わった香水つけてんなぁと思ったものですが、トンチンカンなのは自分のほうで神社が近くにあってどうもそこからお線香の匂いがするようです。
高崎神社と書いてあるのが見えます。歩き旅では、特に好きでも興味があるわけでもない神社仏閣になぜか行ってしまう私としては、とりあえずそっちに引っ張られておこうかという感じで、ようやくなんとなくの目的地が見つかったのです。
高崎神社
公式サイトでその歴史を見ると、1200年代に遡る由緒正しい神社のようです。今は2019年ですよ。
敷地内に入ってみると、セミたちが大合唱で迎えてくれました。気がつけば気温も上がってきていて、木陰に避難して持ってきたボディシートで汗を拭います。
こまめに汗を拭くのがいいのかボディシートの成分とか香料のせいなのかわかりませんが、虫刺され対策にも効果があるなと感じているので、結構入念に拭いたのですが、実はこの日にこの夏初の虫刺されにあってしまいました。かゆかった…
話を戻しましょうね。
高崎神社では参拝されているかたも多く、私のような信仰のないものがお邪魔するのも気が引けるので、いくつか写真を撮ってお参りもせずに境内を後にしました。
高崎神社 - http://takasakijinja.or.jp
右往左往が止まらない
さてどうしましょう。
どうしましょうというのはこの日この時もそう思ってますし、これを書いている今もそう思ってます。
グーグルマップのタイムラインやらこの日撮った写真やらをひっくり返してみると、どうかしてるくらい右往左往しています。同じ所を二度も三度も通ったりしてね。
記憶にあるのは、何事かわかりませんがまちなかでイベントみたいなのをやっていて、そういうところには足が向かないもんですから迂回したり。
地図上では、なんだったか忘れましたけどなにかの跡地があるはずの場所にな~んにもなかったり。
暑くてウンザリしはじめたり。半面、知らない街歩きがやたら楽しいからやめられなかったり。
どこをどう行って戻ったのかぐちゃぐちゃになって、そうしているうちに舞い戻ってたんです。あの喫茶店の前に。コンパルの前に。
今度はすぐに看板が目に入りましたから、きっと逆方向から来たんでしょう。あれ、そうかここにつながってる道だったんだな、こんなところに出るんだなと今来た道をチラと 振り返り、目線をあの看板に戻した時に思ったんです。
ああ、今だなって。
コンパルにて
その空間の一部始終を、どう語ればいいでしょう。
静かに時を刻んできた店内と、色々お話したご主人のこと。
扇風機の回る音。
レモンスカッシュの氷の色。
いただいた小さなマッチ箱。
ここに辿り着くまでの道のりとここで営まれてきた空間が、重なって混ざって、そうして見る高崎の街の片隅の二階の窓と白いテーブル。
そこで初めて、自分の中に入ってくるというか。
もっと早く来ればでもなくこんな喫茶店が近くにあったらでもなく、今このタイミングで辿り着くことに、もしかしたら意味があったんじゃないのか。
いつも、そう思うんです。
いつかは旅が終わるとしても
そこから帰りの電車に乗って、見慣れたはずの景色が見えてくるまでにも色々書けることはあります。夏っぽいローカル線の車窓から見える景色とか、途中下車した駅のこととか、夕暮れのこととか。
それも想い出なんですけど、小さなマッチ箱がカバンの中にあって今日という日がそこに詰まってるような気がして、そっちのほうが嬉しくってね。
ずっと続くものなんがなくて、いつか街は様変わりして暮らしも変わって人もそうなっていくものだとして、それでもいいから旅を続けたいと、そう願った夏の日の話でした。