あるいは旅の「業」のようなものかも知れません。
とりとめのない、整理のつかない頭でとりあえず起き上がって、ぼんやりとお湯を沸かして。
湧いたお湯の半分はコーヒーを淹れて。
もう半分はカップラーメンに注いで。
そしてフタをして待つ時間。今回はその3分間のお話。
旅の朝はなにを食べる?
いつからそうなのか覚えてはいません。旅先での朝ご飯といえば、私の中でまず思い浮かぶのがカップラーメンです。
ホテルの朝食バイキング、漁港の近くの朝早くから営業してる定食屋、喫茶店のモーニング…
それはそれぞれに魅力的で、日常とは違う少しだけ特別な朝に相応しい朝食に違いありません。
朝はパンがいい、いややっぱり白いご飯だといったこだわりをお持ちのかたもおいででしょう。朝ご飯はあまり食べないよというかたでも、旅行となると朝飯を食べる気になる、なんてことだってありそうです。
こんなふうに朝食の選択肢は数多くあるのに、私はなぜかカップラーメンを食べてしまうんですよね。
ホテルの朝食を頼みにくいわけ
旅で朝ご飯といえば、宿泊先でとるパターンが一番多いのかもしれません。ホテルや旅館で目覚めて、チェックアウトすることなく食事ができるのはやっはり便利ですよね。
でも私の場合は、ホテルで朝食付きのプランにすることが滅多にないんです。
それは私の旅が計画的ではないから、というのが一番の理由かもしれません。
何処に行くかも決めてなければ、宿もその日に確保する、場合によってはネットカフェや車で仮眠ということもままあるような旅をしています。
行きたい方向へ行き、行きたくなかったら行かず、移動の効率など一切ガン無視で続く旅の行く末は、雨風がしのげる屋根さえあればいいやというような決着になりがちでね。
そうなると、例えホテルの予約が取れたとしても、チェックインの予定時間が自分でもわかっちゃいない。
ざっくりこの時間には着くように向かう努力を惜しまないよう善処しますけど、もしかしたらゴニョゴニョ… 的な。
そんなね。ただのダメ旅人なんですよ、私は。
必然的に朝だってそんな調子ですから、チェックアウトの期限はあれど起きる時間も出発時刻も決まってるわけもない。
ですから、こっからこの時間まで開いてるから勝手に来て食いやがれコノヤロー的なバイキング形式ならともかく、特定のメニューのあるような朝食は事前に頼みづらいんです。
こちとら、食べ物は残しちゃいけないって文化で育っちゃってますからね。
こっちから朝食いりますって言ったのに、それがコッペパンに小さなパックの牛乳みたいなやつだとしても、その日の朝になってやっぱいいです食べません、ってのはナシなんです。それはやっちゃいけないやつなんです。
そして朝が弱い
そんなものがあるのかどうか知りませんけど、前世。
前世の前世のそのまた前世あたりからずっとね、たぶん夜行性のなにかだったんですかね。朝起きるのが非常につらい。
ホントに朝がキツい。寝起きがダメすぎる。これは幼少のころからですから、もうそういう体質というか魂というかアビリティというか、もうそんなものだと定義するしかないんです。
バイキング形式にせよなんにせよ、朝食の時間も場所も決まってるわけですよ。その朝食会場まで辿り着ける気がしません。
お部屋でどうぞといわれても、ひどい時にはノックされようが身体をゆすられようが、起きられるかどうか一切保証できませんしね。
お仕事の日は目覚ましを、スマホでセットしてるんですけどね。家を出なきゃいけない時間の1時間半前にタイマーをセットしまして。
鳴るじゃないですか。スマホも几帳面なんですかね。ちゃんと指定した時間になったらアラームが鳴るじゃないですか。
で、とりあえず止めるんです。スヌーズっていうんですか。今は音が止まるけど10分後くらいにまた鳴るやつ。あれにしとくんです。
そしたら寝ますよ、もちろん。静かになりましたし寝ますとも。
で、鳴るじゃないですか。10分後に。で、またスヌーズ。
これをね、1時間半ほど繰り返して徐々に起きるんです。
むしろ、こうじゃないと起きられないっていう。
要するに、特定の時間に起きたい場合はその時間のすんごく遠目から目覚ましをかけて、ちょっとずつ意識を呼び戻さないとダメなんですよ。
なにこの身体。なにこの使いにくい身体。
話がそれましたけど、そんな超面倒くさい人なもので、ホテルの朝食とかは頼みにくいんですよね…
お湯が湧くまでの時間
お湯が湧くまでの時間って、ちょっとよくないですか。いいですよね。や、いいんですって。
なんか紅茶でも飲みたいな。煎茶でも淹れようかな。
ペットボトルもいいけど、やっはりあったかいやつを作って飲みたいなって、特に朝とか夜はそういう心境になるわけですよ。
ガスコンロでもIHでも、電気式のポットでもいいんですけどね。水を入れて、スイッチを入れて。
そして、お湯が湧くまでなーんもしないで待ってるんです。
ぼーっと待ってると徐々に音が変わってきて、しばらくするとほんのり湯気なんかあがってきたりしましてね。
いい頃合いでスイッチを止めると、
「お湯、湧きましたけど?」
的な空気感で、ヤカンとかポットとかが佇まいを見せる、あの感じ。いいでしょ、あの感じ。
あの感じ?
大丈夫? 読んでる人、ちゃんとついてきてますか?
そのお湯が湧くまでの間って、せかせかしなくていいというか。
だっていくら自動で止まる機能が付いてたって、付いてなければなおさらですけど、見てないといけないじゃない。火加減湯加減を見てないといけないじゃないですか。
それを理由にして、ぼーっとできるというか。
お湯が湧くまでの時間を有効活用してみたいな、こまっしゃくれたくだらない考え方にだって、お湯加減見てるんでっていう言い訳ができる。
ワタシ見守ってますから、っていうのを免罪符に、正々堂々威風堂々、断固としてぼーっとできる。
そこにお湯がボコボコとしゅうしゅうと湧いてくる音とか、ゆらめくコンロの火の青さとか、ちょっと湿度も上がってくる感じとか、ある意味いやし的ななにかが加わってくるわけです。
そんなものが相まって、お湯が湧くまでの間がどうにもいいんですよね。
カップヌードルでしょ
ビジネスホテルのベッドの上で |
そこにハイ、出ましたカップラーメン。
数あるカップラーメンの中でも、旅先の朝というこのシチュエーションで食べるのはド定番中のド定番。カップヌードルのノーマルです。
これですよ。何週もしてここに帰ってくるんです。
美味いよ、もちろん美味い。日本人の国民食であり日本の味のひとつですから、当然のように美味い。
でも、これじゃなくてもいいよね。カレーとかシーフードとかさ、他のカップ麺とかさ。
いや、もっと言えば、朝起きるのがキツいなら起きたタイミングで、その土地その土地の美味しい朝ごはんを食べに行けばいいじゃない。あんだろ、なんかそういうの。
冒頭にも書いたけど、漁港の町でその日水揚げされた、とれたての魚でね。定食屋の大将と女将さんがこしらえた、ザックリとした焼き魚とかアラ汁とかさ。
ちょいと寂れちゃいるけどモダンな佇まいの、ふかふかのトーストと気の利いたサラダに、美味い以外に言葉が出ないようなコーヒーを出してくる喫茶店とかさ。
そんなじゃなくても、朝から炊きたてのご飯を出してくれるちょっとした定食屋だって、あんだろうよ。探せば旅先で一軒ぐらいあるだろうよ。
旅の朝はカップラーメンという必然
それでもカップラーメンかなっていうのは、いくつか思い当たる節があるんです。
お湯が湧くまでの感じがいいって書きましたけど、そのお湯を注いでさらに3分ほど追加でぼんやりできるのがいいんです。
お湯が湧いたらそのまんまってわけにはいかないでしょう。火を止めたりスイッチ切ったりヤカンのフタをずらしたり、なにかしらしなきゃいけない。
そこで一旦、ぼんやりモードが強制的に止められちゃう、我に返るんですけど、そこからカップラーメンの包装紙を開けてフタ開けてね。
お湯が湧くまでに包装紙取っとけとかそういうのはいいんだよ。そんなの求めてないの。
お湯を注いで3分とか5分とか、また待ってる時間ができる。その間にふわぁっとできちゃう。ぼんやりモードが再開される。
ぼんやりが過ぎて、ちょっとのびたって食えるんだから。よくできたもんで、そこはそういう舌を持ってますから。
寒い朝にあたたまるために |
もうひとつ。
ここまで室内の前提で話をしてきましたけど、例えばキャンプとかいわゆる車中泊とかで迎えた朝には、カップラーメンが似合うと思うんです。
キャンプなら自分でお湯を沸かすところから始めればいいんですけど、車中泊の場合はそうもいきませんから、コンビニまで移動してカップラーメンを食べたりします。
朝が苦手って話はさんざんしましたけど、車中泊の場合はロケーションによっては車の外が騒がしくなったり、朝日が車内に差し込んできたりして想定よりも早めに目が覚めちゃったりする場合もあって。
そんな時はその場にいる理由もなくなってきますし、早朝からやってるコンビニに行きがちなんですよね。
朝の小忙しい中、寝起きのぼぅとしたツラで食堂とか喫茶店とかはたまた朝食メニューのある牛丼屋とかファミレスに入ってね。メニューを選ぶだの注文だの、わずらわしいじゃないですか。
それならコンビニでササッと買い物して、自分のペースで胃を満たせる。これですよ。
自分の空気感で迎える旅先の朝。
寝起きで霧の濃いような状態の脳でも、違和感なくできる食事がカップラーメンなのです。もはや必然かもしれない。
3分後に食べてもいい
ホテルのいい感じに狭い部屋で、あるいは空気の澄んだ朝の車内で。
ぼんやり3分待ってるとね。
今日はどうしようか、何もしなくていいけど、どうしようか。
ああ、あそこに行こうかな。ちょっと遠いけど、行ってみたいなって思う場所があるな。
でも、天気はよくなさそう。雨が降るのかな。嫌だな。そんなに嫌じゃないな。
なんかバスに乗りたいな。知らない停留所から、知らない終点まで。近くにバス停ないかな。なくてもいいな。
海までどのくらいだろう。昨日は夕焼けがきれいだったけど、それまでに晴れるかな。夕焼けがいいな。海で、風で。
雑踏に飲まれてみたい気もする。そのまま帰れなくなるような、街の片隅から歩き出して少し人の気配の消えた、猫だけが歩いてるような湿った路地裏へ行ってみたいな。
もう帰る? 帰れない? 帰りたくない? 帰ってもいい? 帰る場所なんてあったっけ…
…3分なんてあっという間のようで、長い長い時間だなっていつも思います。
旅なんてあっという間のようで、なのにいつまでも続くようで、どうやらいつかは終わるようでもあるのです。