不要不急の外出と言われればそれまでですが、背中に見えない翼が生えたら飛んでいかずにはいられないのです。そんな残念な魂ゆえに、パタパタと行ってきました上越市。
特になにも用事はありません。それなのになぜそうなったのかというお話。
平日に休みが取れたら
のっけからなんですが、身体の調子が思わしくありませんでした。一応過去形にしておきますが、今でもいいわけじゃありません。むしろ悪化してる部分もあるといった感じですが、なんとか生きてますしこうやって珍文駄文を書き散らかすくらいはできます。
ある程度年齢を重ねたせい、としておきますが、生きてりゃだんだんとそういうことも増えてくるわけでね。そうすると、日替わりメニューであっちが痛いこっちがつらいと、しみったれた話になってくるんですよね。
肩こり腰痛偏頭痛。呼吸器系の持病もあったりして、そのせいか梅雨時は輪をかけて調子が良くない日が多い気がします。
そんな身体を多少は労ろうと、平日の午後から休暇が取れたのでいくつか予約を入れてみたんです。マッサージとか。マッサージとか。あとマッサージとか。ね?
ただ、肝心の休みが取れると決定したのが、前日の午後。そこから予約を入れてみたって都合よく空いてるはずもなく、結局のところなんにも予定のない休みが半日できたという格好になりました。
じゃあおとなしく家で、膝でも抱えて壁に背中をくっつけてりゃあよさそうなものを、気分転換に出かけるのはどうだろうか。それもちょっと遠くまで、なんて思って、ホテルの予約サイトをチラ見したんです。
そうしたら上越妙高駅周辺のホテルで、安くて良さそうなのが空いているのを見っけちゃいましてね。そういうのはちゃーんと空いてんです。上手くできてるの。
じゃあ他に用事はないけど、ピンとくることがあったんならいいじゃないか。このホテルに泊まるためだけに行ってみてもいいんじゃないかと思ったんです。
宿泊してもよさそうな空気感
少し前に長距離ドライブをして、延々と夕陽を見るために車を走らせた話を書きました。お暇なら読んでいただけるとうれしく思います。
で、その時は、日帰りのドライブというにはまぁまぁ遠いところまで走っちゃいまして。
普段なら宿を探すようなあたりまで来たものの、やっぱりどうしてもコロナうんぬんというのがチラつくわけです。なので、それもせずに夜遅くまでかかってなんとか帰ってきたという経緯がありました。
今度はその時よりももう1段階、課せられていた規制が緩まっている状況です。
ムード的にも、油断しちゃいけないものの、地域によっては独自に地域内外から客を呼ぼうと、行政が宿泊費用を補助するようなキャンペーンを打つなど、いよいよといった空気感があります。
ただ、温度差はあるんだと思います。
旅行観光業に従事している方々はお客さんが来るということに対して、内心はわかりませんがある程度歓迎してくれるだろうとは、旅をする側の私も予想ができます。
でもそれ以外の方は?
ウエルカムとはいかないだろう。どちらかといえば多分来てほしくないんじゃないか。特にまだ収束した感が薄い地域からの旅人は来てほしくない、そう思ってるんじゃないでしょうか。
今回のような事情がなくたって、余所者につらくあたる人ってのはいるものです。あるいはそういう地域はあるものです。
旅をする者としても、できることはやって現地に行くつもりですが、行ってもいいかどうかの判断はなかなか複雑なのです。
旅しに来てくださいとキャンペーンが行われてることと、実際に行ってもいいかどうかというのは全然別次元の話であって、子どもじゃあるまいし行政や政府に決めてもらうような話でもないわけでね。
当たり前ですが、自分で判断して自分で責任を持って、旅というのは成り立つものですから。
そうした視点でこのホテルを、あくまでネット上で予約の際に見た限りはですが、行っても良さそうに感じたのです。
見れば建設されたばかりの新しいホテルで、そういった対策も充分されているようだし、他にも値段も手頃だし設備もよさそうです。
他になんにも目的はないし、このホテルにどうしても泊まりたいってわけでもないけど、空いているホテルの中では比較的安心感がある気がする。
旅をするための動機として正しいかはわからない。
でも、なにかのきっかけってことでいいじゃないか。行ってみればなにか見つかるかも知れないし。
そもそもね、そんなキッチリ行き先目的地を定めて旅に出たことなんて、ありゃしないんですから。今の今まで、一度も。
そんな風に旅の行き先を決めることは、私にとってはよくあることです。ただ、引っ張ってくれるもの、背中を押してくれるものがあればいいってだけで。
この時はいつものことだと、そう思っていました。
ひと雨きそうな曇り空と海
無事に午後から休みとなり、一旦帰宅してシャワーのひとつも浴びましてね。
旅支度ったって、いつも持ち歩いてるボディバッグと着替え、あとは旅を楽しむ心さえあればいいわけで、たいした手間もなく車に乗り込みます。
今回は上越妙高駅の近くが目的地ですから、公共交通機関を使っても現地まで行けるのですが、感染症のリスクもさることながら行動の自由は圧倒的に自家用車のほうがいいんですよね。
最近は腰がどうもダメで、電車などで座りっぱなし立ちっぱなしを強制されるのには、ちょっと怖さがあります。車移動も座りっぱなしですが、休憩を入れるタイミングは自由度が高いですからね。
上越市は新潟県でも西側。
富山県や長野県に近くて、新潟県の他の市区町村と少し毛色の違う街並みが特徴的です。
新潟市など県内の大きめの街には進出していない他県のチェーン店が、上越市にはあったりするのがそう感じる理由だと思っています。
それに海と山が比較的近い感じとか、上杉謙信ゆかりの地という比較的メジャーな歴史にまつわる地域ということでも、ちょっと独特なイメージを受けるのかもしれません。
上越市に向かうにはいくつかルートがあるものの、やっぱり日本海沿いを走る道がいいだろうと、下道を延々と海に向かって海に沿ってのドライブが始まります。
この前もそんな感じで走ったばかりなんですけどね。またですよ、また。
黒みがかった空と濃くなった海とが、視界の端で溶け合う様子がなんとも言えない気持ちにさせてくれます。もうすでに、来てよかった感がうっすら漂っていたりして。
午後からとはいえ金曜日。都合2日半の連休で、天気はそれほどよくはありませんが久しぶりに通る道だったりもして、それなりに気持ちが軽くはあります。
久しぶりといえば一泊するような旅自体も久しぶりで、高揚感というかそういったものがあるかなと思ったのですが、直近でドライブもしていたせいかワーキャーいう感じでもなく、かといってクールでもなく。
相変わらずふらふらと寄り道しつつのドライブとなりまして、上越妙高駅あたりに着いたのは日の長い6月の太陽も落ちかけたころでした。
初めての上越妙高駅
上越妙高駅は北陸新幹線が乗り入れている駅で、周辺の開発がまだまだ始まったばかりといった一帯です。
日本海側から車で来た場合は、桜で有名な高田公園のあたりを通る、古くからの目抜き通りなどがある道を走るのがわかりやすそうです。
通り沿いの古い家々には、屋根の上までかかるハシゴが備え付けてあります。おそらくは雪下ろし用でしょう。
いつか歩いて回りたいけど車を停める場所がないな、などと思ったり。
そんな街を抜けると、比較的新しそうな住宅街と新幹線の橋脚が見えてきて、上越妙高駅につながるあたりに出ました。
ホテルと思われる背の高いビルがポツポツとあって、コンビニが数件ある以外は、暗くなってきたこともあって目立った建物はなさそうな様子です。
逆に灯りがついているところは目立ちますから、そっちに行けばいいということになり、その時にふと、今日の食事を確保してないことに気が付きます。
いつもの旅なら、その土地ローカルのスーパーマーケットに行って、いつもと違う街に来た感を堪能しつつ良さげな食べ物を買うのがお決まりなのですが、今回はなぜかそっちに足が向かずにいました。
あ、ちょっとウソ。途中でコンビニでおにぎり食べちゃったからかも。
ともかく、今の気分は外食ってのはちょっと違う気がする。どちらかといえば、お部屋でのんびりお酒でも飲むほうがいい。
そうなったらこのあたりじゃ、どうも目の前のコンビニに寄ったほうが色々都合がよさそうだということになり、ホテルに向かう前にコンビニの駐車場に車を入れます。
一応、買い物カゴを持って、お酒コーナーの前に立ってみたものの、よく買う銘柄は置いていないようです。仕方がないから、レモン系のお酒をいくつか買って、惣菜コーナーの前に移動します。
そこでも、それほと気の利いた酒のアテはなさそうに思えまして、何を買ったかもう覚えちゃおりませんが、パスタとかなにかそんなものと念のためにカップラーメンをカゴに入れて、レジへ持っていった気がします。
ホテルに電子レンジくらいあるだろうと、あたためますかという問いには横に首を振り、お箸とフォークとどちらになさいますかという問いにはなにか嫌な予感を感じて「箸を二本」とだけ告げましてね。
気もそぞろに外を見ながら買った物を受け取って、一路ホテルへと向かいました。
スーパーホテル上越妙高駅西口
駅そのものが最近開発されたこともあって、先のコンビニもこのホテルも新しいんです。2020年1月オープンですって。
年季の入った趣のある旅館や商店もいいもんですが、新しいってのもテンションが上がってくるものです。
ホテルが建っている敷地内は居酒屋とか定食屋があったりして、ここでご飯を食べてもよかったかなと思いつつ、荷物を持って玄関をくぐります。
スーパーホテル系列は久しぶりだよなぁと思いつつ入っていくと、目の前にフロントがあり、親切そうな女性のかたに予約している旨を伝えます。
オートロックやホテルの出入り、館内設備の説明をひと通り聞いて自動精算機にて支払いをします。
スーパーホテル系列は1階に枕などのアメニティ類が置いてある方式なのですが、この時はコンビニで買ったご飯などを持っていたので、まずはお部屋へ行っちゃおうという感じ。
エレベーター内の表示を見て、今日泊まる部屋が最上階ということがわかりましてね。朝になったら窓から外を見てみようと思いつつ、階数表示のランプを眺めます。
最上階は9階でした。ちなみに2階は大浴場のようですよ。
部屋の入り口はオートロックでキーレス。会計の際に発行されたレシートに暗証番号が書かれていますから、忘れても大丈夫なようにスマホでその部分を撮影しておきます。
部屋の写真が映りが良くないものしかなくて申し訳ないのですが、とりあえずベッドはこんな感じ。
TypeBとCとライトニングの充電ケーブルが備え付けてあった |
ベッド周りに充分な数のコンセント。最高。天井は珪藻土だって |
さて、ひとまず荷物を置いて、アメニティ類を取りに1階へ戻りましょう。
その途中でエレベータに乗ってくる人もなく、混雑しているってほどでもなさそうです。
一階に戻ってもそんな気配のまま。そういえば予約したプランは部屋指定のないやつで、スタンダードルームではなさそうでした。
お客さんがいすぎてスタンダードな部屋が埋まって、ちょっといい部屋があてがわれた可能性もありますが、どうもそうではなさそうです。
実際に泊まった部屋は、あとから調べるとソファールームという、ベッドの他に大きめのソファーが置いてあるお部屋でした。
大浴場までの心理戦
お客さんの多さを気にしてるのは、大浴場にいつ行くか。これですよ。
この手のホテルで大浴場といっても、スーパー銭湯とか大きめの日帰り温泉ほど広いわけがありません。ホテルの建物の大きさからするに、5-6人も居ればお腹いっぱいなはずです。
となれば、ちょっとタイミングが悪いと混み合っちゃいます。
密を避けるのもそうですが、大浴場なんて独り占めのほうがいいに決まってますよね。ですから混雑具合を読んで、いいタイミングでお風呂に行かなきゃいけません。
いくら宿泊客が多くはないと踏んでいても、チェックインして食事も終わった夕方から夜、まずもって21時くらいまでは入れ代わり立ち代わり誰かがいるに決まってます。
かといって深夜もダメなんですよ。深夜はそういう、大浴場独り占め狙いが増えますから。深夜は逆に人がいたりするものなんです。
こっちだってね、ただ漠然と旅ばっかしてるわけじゃないんですよ、知ってんですから。
ここは曲がりなりにも新幹線駅前。最終便で着いたお客さんとか、チェックインが遅めの人もいかねない立地だというのも考慮するわけです。
こういうところに頭が働くのがそのへんの旅人と違うところなんですよ。
こういう心理戦を制してはじめて、おひとりさま大浴場貸し切りタイムを勝ち取ることができるんですから。戦いです。ある意味戦いなんです。なんの戦いかは知りませんよ。
とりあえず今は20時手前。
まだ早い。買ってきたお酒とアテでもいただきながら、ゆっくりすればいい時間帯です。どうせ今行ったって、家族連れなんかで混んでるんですから。
21時半。そろそろか? いやまだか。21時半はまだか。外で食事して一杯飲んできた人たちが帰ってきて風呂のパターンだよな。知ってんだよ。まだだ。まだ早いな。
22時。行くか? いっちゃうか?
待て待て、今ドアの向こうで話し声がしたよね。うっすら声がして、あれはもしかしてこれからお風呂的なやつじゃないの? カップル様がキャッキャウフフ的なやつじゃないの?
慌てちゃダメなんだって。もうちょっと我慢。てゆーか、なにしてんの。なんなのこれ。
温泉にて旅を想う
22時半。
ついに。もうついにきた。時は来た。
タオルを持って、なぜか急いでエレベータに乗り込みます。
大浴場のある2階のボタンを押して、滑り出すエレベータが途中で開いたらほぼアウト。十中八九大浴場ですよ。誰も乗ってこないことが第一関門なわけです。
9… 8… 7…
2階でドアが開いて、人の気配がない時の安心感。なにこれ。なんの安心感なのこれ。
ともかく浴場への入り口を見つけて、勇気を出して開けてみると人はいません。でもガッツポーズには早いぜ? まだ安心しちゃいけない、脱衣所のロッカーをザッと見てみますよ。
全部のロッカーに?
鍵が?
付いてる! すなわち空いてる! つまり誰も使ってない!
未使用! 未使用!
いや待て待て。雑な人は鍵なんかかけやしないからな。かといって全部のロッカーを開けて回ったら、元々どうかしてんのに本当にヤバい人になっちゃうじゃん。
少なくとも人の気配はしませんけど、手早く支度して浴室へ行きますよ。
誰もいない! 自分ひとり!
勝った。完全勝利。パーフェクト達成。優勝です。全宿泊者vs私という、過酷なバトルに今優勝いたしました。これを書いている今となってはサッパリ意味がわかりませんけども。
で。
風呂の話もしろよとお思いでしょうから一応書いておくと、加温等はしているもののこちらは天然温泉で、このホテルのすぐ近くにも日帰り温泉施設があったりする環境なんです。
お風呂の大きさは思った通り、温泉施設のような専門のお風呂に比べちゃいけませんが、足を伸ばしてじっくり浸かるには充分な広さです。
この日は熱すぎずちょうどいい湯加減でね。腰が痛いもんですから、長めに入っているにはもってこいのお湯加減でした。
流れるままにここまできたんだ
真夜中に、見知らぬ街の見知らぬお風呂にひとり、肩までつかっているとね、思うんです。
旅してるんだなぁって。
なんでここに居るんだろうなぁって。
そのシチュエーションの奇妙さと面白さと、わずかな便りなさみたいなものが混ざりあって、なんとも言えない感じになるんです。
ただ、あるがまま。そうして流れの中でこうしてここまで来た。そんな気になるんです。
それも、物音がして次のお客さんがやってきたのを察知するまで。そのお客さんだって、ひとりで入ってたほうがいいだろう。今度はその人の番だなと、大浴場を後にして部屋へと戻りました。
さて、旅の話も一日目が終わりまして。
書きたいことはもうちょっとあるのですが、さすがに長くなりますから後半はまたあらためて書くことにいたしましょうね。