奥只見シルバーラインを越えて

2020年11月3日火曜日

#雑記 #旅

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 秋も深まってきました。ある程度の対策をする前提であれば、旅に出るのもいいんじゃないかという気配にもなっており、紅葉のシーズンですしちょっとした旅に出た…

 と、いうような書き出しはまったく正しくありませんが、結果的にはそうなっちゃったよ、というお話。

 

葛藤だってなくはない


 何から書こう?

 どこから書けばいいのか、この旅の日のことだけを書いても伝わらない気がしますから、話を今年の夏までさかのぼろうかと思います。

 

 別途記事にもしましたけど、この夏にちょっとした体の不調が発覚しましてね。長時間の運転などは、多少の不安がある状況になってしまいました。

 

 加えて感染症対策によって、地域外への旅行もはばかられるような空気になっていたじゃないですか。

 現在住んでいるあたりは、罹患者の発生が極めて少ないんです。

 逆に言えば、そんな地域で患っちゃったら間違いなく、常日頃から旅に出てますと公言してるやつがいる、アイツだろってなるわけじゃないですか。感染ルートが全然違ったとしても、です。

 

 ブログで何度も言ってますけど、こちとら旅先で人と接触なんてしやしないんですから。せいぜいスーパーマーケットくらいのもんで、人の集まる観光地やらお店やらにはむしろ近寄らないような旅しかしてないんです。

 

 ソーシャルディスタンスどころの騒ぎじゃないくらい、人と会わない旅ばっかりの私でも、一旦罹患したら感染者第一号というレッテルと共にそういう目で見られるわけですよ。

 

 そういった諸々の事情が重なって、旅に出ることに対して心理的な抑圧感があるのは間違いありません。

 

 抑圧感があるという自覚。

 これがまた、旅に出たいという気持ちを駆り立てるのも事実なわけでね。

 行きたいけど行けない。よく言って翼を折られたエンジェル、悪く言って監獄に繋がれた泥人形ってな心境にもなってくるんです。

 

 ならいっそ近場に行こう、というわけでちょっとした旅に出てみて、これも記事にしましたがこれならよさそうだという感触もあったりして。

 なおかつ、身体の方もとりあえずは投薬しつつ冬になるまで様子を見ましょうということで、病院通いも一旦落ち着くことに決まりましてね。

 

 この病院通いってのもやっかいで、病院側としては水際対策として、直近で地域外へ移動したという人については、受診を遠慮いただくこともあり得るというところもあるわけです。

 そりゃあそうですよ、それは納得できますしそれが正しいと思います。

 それには100%賛成なんですが、その病院に短いスパンで通うことがわかってるとなると、遠出するわけにはいかないなってことになるんですよね。

 

 その病院通いもしばらくはない、ないなら近場だったら行ってもいいだろうといういう、見ようによってはちょっと前向きな気持ちになったのが10月の終わりでした。

 

前日はいつも快晴


 でね。

 上手くいかないもんで、そういう自分の中の空気がいい方向に傾いた時に限って休みが少ないんですよ。

 やんごとなき事情で土曜日も出勤だということになり。飯を食っていくためには、旅に出るためには先立つものが必要ですから出勤するじゃないですか。

 

 その土曜日は、めったにないくらいのいい天気でね。

 行楽日和、旅日和ってやつですかね。急に冷え込んできた秋の終わりですが、その日は仕事なんかやってる場合じゃないだろと思わずにはいられないような暖かい日でした。

 

 ならば、仕事終わりでどっかに行ってしまおうか、という考えもよぎり、じゃらんで今夜の宿みたいな検索をかけると、あるにはあるんですけど例のGotoキャンペーンのせいか、目ぼしい宿は売り切れてしまっているっぽい。

 

 思い返せばそこでもう、紅葉というワードが自分の中にあった気がします。

 職場のパートのおばちゃん連中、いやあのその、素敵なマダムたちが雑談で、紅葉を見に行ったんだかテレビで見たんだか、そんな話をしてたような気がしますし、Twitterとかネットニュースできれいな写真を見たような気もします。

 

 ともかく自分の心理にうっすらと、紅葉というものが漂ってたようです。自覚はその時はなかった気がしますが。

 でもまあ、紅葉を見るなら仕事終わりに移動して一泊するまでもない、少ない休みにキツい身体を使って旅に出るとしたら今夜は早めに休んだほうがいいんじゃないかということになり。

 天気予報を見る限り、ちょっと気温は下がるものの明日も晴れのようだし、今日みたいなご陽気なら休みの日の朝から出かけていけばいいんじゃないかと。

 

 それにスマホをXperiaに機種変更して、今までのスマホよりはカメラも良くなって写真も撮りたいんですよ。

 

 機種変更してロクなもの撮ってないんですから。飲んだビールの缶だのピンボケなそのへんに咲いてる花だの。いいカメラ機能とかお前にいる? って感じなんです。

ビール
こんだよ、こんな

 

 そういうのもダークな方向に行く切っ掛けになったりするもので、カメラ機能も良くなったってのに休みの日には部屋から一歩も出やしない、あーあダメだダメだあたしゃもうダメだよと。

 

 そんなやつのためにね、高機能のカメラを一生懸命開発して生産したわけじゃないんだと。

 冴えわたる秋晴れの中に広がる、燃え上がるようなそして冬を感じさせるどこかしら寂しげな秋の山々を撮るために、Xperiaの開発陣とソニーの生産ラインの皆々様は働いていらっしゃるわけでしょうよと。

 

 それなのにあたしゃ、一歩も外に出ないばかりか、よしんば写したって部屋にあるゴミみてぇななんかじゃないかって、ボディブローのようにだんだんダークな方向にいくんですから。

 

 もうひとつついでに書いとくと、買ったものの忙しかったりやる気がなかったりで、キッチンで観葉植物化しつつある白菜をそろそろやっつけないといけなくてね。

 

 今夜旅に出たら最後、帰ってきたって自炊するエネルギーがないのは目に見えてるし、そうなったら次の週末までキッチンの棚に居かねない。

 棚が観葉植物置き場から白菜畑になる日も近いとなると、今夜食べてしまうしかないんです。

 なんなら、一緒に入れるなめこも棚にあるんですから。あれもそのへんに転がってる棒っきれに乗っけとくと、勝手に繁殖しかねないんでしょ。食べろ食べろ今食べろ。

 

 そんな感じで諸々の状況を考えて一旦冷静になり、気持ちを抑えて旅の衝動を抑えて、後ろ髪を引かれながらじゃらんのサイトを閉じたりしてました。

 

朝 弱の助と申します


 翌日。

 目が覚めましてね。時計を見ると7時半。外を見ると昨日と同じ、いやそれ以上のあざやかな青い空。

 

 それだけ確認したら猛烈に眠くなってきて。起きたばっかりだってのに。

 基本的に朝が弱いんです。相当ひどいレベルで朝に弱いの。

 夜型だってのはわかってるんですけど、ここ最近は輪をかけて朝が来てからの眠気がものすごいんです。投薬のせいなのか自堕落な体質が悪化したのか知りませんけど、ちょっと異様なくらい眠くなるんです。

 

 寝ますよ。そりゃ寝ますとも。前日まで6連勤した上にバリバリ残業しちゃってる一週間の、たまにやってきた休みでしょ。

 寝ますよね、寝ていいですよね、おやすみなさい、せんきゅーぐない…

 

 気がついたら9時半でした。外を見たら晴れ間はすでになくて、天気予報を見ると昨日と変わってて曇りになってます。

 秋晴れは? 朝見たのは夢?

 

 とりあえず一服するじゃないですか。タバコはやりませんから、コーヒーの一杯も飲んでね。

 そうだ、昨日の残りのちぎり白菜なめこ鍋をあたためよーっと。

 

 秋晴れ、がね…

 くもりかぁ、そうかぁ…

 

 とか思いながら、コンロの蒼い火を見つめて。

 白菜食って。

 

 ちょっと部屋の掃除したいなとか。

 あ、溜まってる洗濯しなきゃ、とか。

 あ、年末調整の用紙の提出期限があるから書かなきゃ、とか。

 

 抑圧したぶんの旅の衝動は、完全にホールドアップされてますから、動いたら撃つぞと言われちゃってますから、旅に出ない理由がバンバン思いつくわけです。

 

 飯も食ったし、動くのも面倒になってくるわけです。いつものやつですよ、いつもの。

 

 で。

 とりあえず洗濯機回しながらTwitterを眺めてたら、やっぱり昨日は全国的に晴れだったせいなのか、きれいな紅葉の写真とか、ちょっとうらぶれた喫茶店に行ってきたやつとか、こんな美味いの食べちゃったりしてテヘ☆ みたいなツイートが流れてくるわけです。

 

 そうだ、写真撮りたいんだったなって。

 洗濯物がぐるんぐるんに回ってるやつ撮る? 撮らないだろうよ、黄色くなった葉っぱ撮るほうがいいに決まってるだろう。

 

 それに買い物も行きたい。

 できればちょっと遠いけどホームセンターのカインズに行って、ちょっと見たいものもある。とりあえずそこまで行って買い物して、あとは気分でどうするか決めよう。無理なら帰ってくればいいや。

 

 そうでもしないと、またウダウダと休みを過ごして、身体が休まったからいいじゃないかと無理矢理に自分を納得させて、旅への衝動が蓄積されることになるんだから。翼の折れた泥人形が極太の鎖で牢屋に繋がれることになるんだから。

 

 半ば自分を引きずるように、とりあえず身支度をして家を出たのが10時を大きく回ったあたりだったと記憶しています。

 

色褪せた空を染めてほしい


 車に乗って、スマホから音楽を鳴らして、缶コーヒーの一本も買って旅の道連れにしたころには、すっかり旅モードに切り替わっていました。早い。こういうところは早い。えらい。

 

 YouTube Musicの有料プランに入っています。

 基本は音楽はCDを買っておきたい派なんですけど、試聴したり入手しにくい曲が聞けたり、YouTubeの動画のほうも広告が入らないようになったりと、便利なので課金しています。

 

 車で音楽をストリーミングで聴くと、プランによってはすぐに速度制限に引っかかることもありそうですが、今使っているUQモバイルでは通信速度が低速になっても、とりあえずは聴ける感じでもあり、なんだかんだと重宝しています。

 

 そんな道中の景色はといえば、秋っぽさがありつつも、灰色にどんどん近くなっていく空模様のせいでトーンが落ちていくような気がして仕方がありません。

 ちょうど、夕陽を追いかける時に景色がどんどん赤から黒に変わっていくような感じで、それが青から濁った白になっていく景色に心のどこかが焦らされる、そんな気分です。

 

 ホームセンターのカインズに着いて、日用品とかあれこれと買い物を済ませましてね。

 これからどうしようかと。

 

 どうもこれから晴れることはなさそうです。

 それでも、ここまで走ってきた平野部の感じからいっても、山のほうは紅葉が見頃なのは間違いなさそう。そして、来週になればそろそろ冬の気配のほうが強くなるでしょうし、紅葉を見るなら今日しかないんですよね。

 

 さいわい、ここからもう少し南に走れば魚沼市に入り、そこからはやがて群馬長野につながる山間部も近くなるあたりにいます。

 ここまで来たし、もうちょっと走ろうか。疲れは確かに抜けてないけど、体調はそんなに悪くはないし。

 

 なにより、半端すぎるんです。さすがにもうちょっと旅に出た感触がほしい。写真だってあてつけのように撮ったこれしかないんです。

口どけラムレーズン



 昨日の青空の印象と今日の空模様とのギャップが、心の中で埋まっていないせいで必要以上にモノトーンに見える風景に色を入れてくれるのは、イチョウのあざやかな黄色い葉や、モミジの深い愛のような紅色しかないだろう。

 

 飲み物を補充してエンジンをかけ直し、一路南へとハンドルを切ったのが12時過ぎのことでした。

 

あの信号待ちで


 走り出しちゃえばこっちのもので、やっぱり楽しいんです、旅って。

 旅というと宿泊をともなうような、県境を越える長距離のそれをイメージするかたもいると思いますが、私にとって旅っていうのは近所の路地裏でもできるものなんです。

 

 感性のアンテナがちゃんと立ってて、日常とは違うなにかが見つけられるなら、今居る立ち位置とは違うところに立てたなら、それはもう旅、なんですよね。

 

 少し前は何度も通った、えちご川口温泉のあたりを通り過ぎる時には、温泉でも入っていこうかなとチラと思ったものの、行って駐車場に車がたくさんあったらげんなりするだろうしと思い直してスルーします。

 

 それがいつもの被害妄想とばかりは言い切れないのは、くさっても行楽シーズンでGotoキャンペーンの後押しもあるのか、集団でツーリングしてるバイクたちや県内外ナンバーの車が多いんです。

 なら人の集まるところには行かないのが正解なのかなと。

 

 そんなこんなで。

 やがて魚沼市に入りまして、このあたりに来るのも久しぶり、もしかしたら一年以上ぶりかもしれません。

 よくよく見れば街並みが変わっていたり変わっていなかったりして。

 走っていると色んなことを思い出すもので、ここを散歩したなとかこっちに行ったなとかね。

 

 そのうち、ある交差点で信号待ちで停車したんです。

 そういえばここを曲がると道の駅があったなと。

 真冬に車中泊してたら職務質問されて、おまわりさんに「雪しかないところまでよくきたね」って言われたことを思い出しまして。

 

 このあたりは豪雪地帯で、もうすぐ真っ白に埋まっていくんだなと思ったら、妙にその道の駅に行ってみたくなっちゃって。

 特にアテがあるわけじゃありませんから、信号が青に切り替わる前に件の道の駅に向かう方向へウインカーを出しました。

 

初めて通る道


 予想はしてました。

 道の駅の結構広めの駐車場はほぼ満杯。ですよねー

 

 こうなると行きたくない病がでますから、その道の駅は通り過ぎてしまいました。その先はもう山しかなくそこまでしか行ったことはありません。

 魚沼市は、山あいを流れる魚野川という、やがて信濃川に通じる大きな川沿いの狭い平野部に都市部が集中していて、そこを抜けるとすぐに山間部に入っていくような地形なんです。

 

 福島県会津につながる只見線があったり、尾瀬国立公園や苗場、谷川岳といったあたりに隣接していて、ここならさぞかし紅葉もきれいなんじゃないかと思い立ちましてね。

 

 この先に行くと確か奥只見という看板があったはずだぞと。

 そっちには行ったことがないし、これまでに行ったことのある風景の確認もいいけど、初めて行く場所ならなにか自分のアンテナに引っかかるものもあるんじゃないか。

 

 それにそうだ、この先に確か誰もいないほぼ放置されてるような足湯みたいな場所があったよなということになり。

 ひとまずそこを目指したのですが、確かどこかで道を曲がったはずで、それがどこだったのかは思い出せずじまいでどうやら通り過ぎてしまった様子。

 

 そして、いつしか見覚えのない通りを走っていることに気が付きます。

 漬物屋かなにかの、工場直売をうたった看板のある店もほほ満車。

 それどころか有名なのかなんなのか知る由もないのですが、キノコと書かれた駐車場もない近所の八百屋っぽいお店も道端にズラッと車が停まっていて。

 ちょっとした渋滞が、キノコ渋滞が起こってる感じで、このご時世でも出歩いている人が結構いるんだなという印象の強い日でした。

 

いつまでも終わらない

 

 そのキノコ渋滞を越えてしばらく進むと、奥只見シルバーラインという看板が見えてきます。その名前だけはどこかで耳にしたことがあって、この時間から紅葉を見るならもうそこしかないなと。

 

 そもそも目的地なんかないんですから。最初っから。

 

 どこかに行こうもないし、紅葉を見るっていうのもどうしても見たいとかそういうことじゃなく、スマホ変えたんだから写真を撮りたいとか、SNSで写真が上がってて見頃だとか、昨日やたら天気が良くて紅葉がきれいだろうなと思ったとか。

 そういう、ちょいちょい入ってくるワードに紅葉があったからっていう。それだけなんですから。

 

 ただもうここまで来ると、紅葉を見なきゃいけないレベルまで自分の中で盛り上がってるというか、ある種の強迫観念的なところまで高まっているわけです。

 そこに奥只見シルバーラインとか看板見ちゃったら行くしかないでしょう。

 

 そしたらまさかのずーっとトンネルなの。

 

 ずーっと。

 

 トンネル。

 

 あれはどのくらいあるのか、この記事を書いてる今まさにこれから調べますけど、体感で20kmくらいは続いてるような気がしてなりません。

 もう延々とトンネル。

 しかも山に掘ってあるトンネルだから、狭いしカーブもそこそこあるし路面は濡れてて運転は慎重にならざるを得ないし、微妙にずーっと登りだし。

 

 そして案外車がいるの。こんな山に。観光バスもいたし、やっぱりこのトンネルの向こうは観光名所というかそれなりに何かありそうだっていうのはわかったんです。

 

 でも長い。数カ所、外が見えるところもあるものの、ほぼほぼ真っ暗よ。

 で。

 

全長22kmのうち18kmがトンネル 

奥只見ダムを作るために、その資材運搬専用道路として建設された奥只見シルバーライン。19のトンネルが続き、全長22kmのうち18kmがトンネルという、国内でもまれな道路。特に奥只見への手前には3つのトンネルが10km以上つながっています。


奥只見観光公式サイト-奥只見の見所 http://okutadami.co.jp/dam/ より引用

 

 合ってるよ、ほぼほぼ合ってたよ体感と。

 

 でね。

 その時はそんなこと知らないから。

 いつも行き先なんか調べやしないんだから。

 そもそも目的地なんかないっていってるでしょって。そんな長いトンネルだとは思ってないから。

 

 シルバーラインってそうか、冬になると雪で道が銀の線のように見えるから名付けられたのかな、ってことは奥只見の山に向かってウネウネと曲がりながら登っていく道がきっとあって、登っていけば徐々に色づいた秋真っ盛りの景色を堪能できるんだろうな。

 

 って思ってたんだから。マジで。

 

 想像してみてほしいんですけどね。

 走ってた道がトンネルになるのはわかりますよ、山に登ってんですから。

 それが今までにないくらい長い上にまあまあ狭いわけ。

 

 不安になるよね。このままずーっと出られないんじゃないのってなるよね。トンネルから出たらサンフランシスコとかさ、太平洋越えちゃって。そんな長さなんだもん、知らないからなおさら。

 

 そのうち、ずっと流しっぱなしにしてたYouTube Musicも止まっちゃって。電波がないんだもん。

 確かオフラインでも聴けるようにしておいたと思ったんですけど、どうやら機種変更でその設定が生きてないらしく、止まっちゃってね。

 

 そんなのますます不安になるから。

 スマホにはリッピングした音源も入ってるんだけど、道交法で禁止されてる云々の前に、道幅が狭めな上に対向車も結構くる、カーブもある初めて走る長いトンネルという状況で、スマホいじってる場合じゃないっていう。

 

 ガタガタな道の圧迫感のある暗いトンネルをひたすら登る感じで、やっと抜け出た時にはもうぐったりしちゃって。

 

奥只見の山で想う


 これは私が悪いんです。普通、調べてくるわけでしょう。行き先についてちょっとは情報を得て来るのが普通じゃないですか。

 そうすれば、それなりに覚悟ができてて心構えもあって準備もあって来るわけで、それなら多分そこまで疲れないと思います。


 トンネルを抜けて、ちょっと走ったところにあった広い駐車場に車を停めて、とりあえず休憩します。


 その駐車場には誰もいなくて、他の車はもっと先へ進んで行く様子。

 途中で奥只見ダムというのが見えましたし、その付近には食事ができるようなところがあるようでしたからそっちに行くんでしょうね。

 

 あたし?

 行かなくていいかなー

 混んでるところに行かなくていいかなー

 

 目の前の紅葉も見ちゃったし。

 もう疲れのせいで、その誰もいない駐車場で山を見て一応写真をちょっと撮って、5分くらいかな。

 帰るか、ってなってっからね。


奥只見にて

 

 あれだけ紅葉紅葉言ってて、それを達成しちゃったらもうアテがなくなっちゃったんだもの。それだけが頼りだったのに。

 

 ダムも湖もそんなに興味がない、っていうか紅葉もどっちかといえばそんなにグイグイ見たいわけじゃないっていうか。

 なんなら、ここに来るまでに見た、ちょい荒れ神社のイチョウの木のほうが、きれいに思えたんじゃないかっていう。

 

 もう自分の感性のアンテナがポッキリ折れてんですよ、もう。

 

 確かにその駐車場は誰もいなくて、居心地は悪くないんです。そこにいるぶんにはたまに通る車の音以外には、ただただ自然の音と空気があってそれはすごく心地良いんです。実際、しばらくそこにいましたから。

 

 奥只見が好きな人もこのブログを、なにかの手違いで読んでるかもしれませんから書いておきますけど、けっしてここが悪いとかじゃなくて。

 そもそもダムに近寄ってすらいないし、その先に行ってもいないわけで、なにかを語る以前の状態なんです。

 だから思ったよね、昨日来たかったって。あの快晴の昨日なら、どんなによかっただろうって。

 

 ただもうね、この日はここで疲れ切っちゃって。アンテナも折れちゃってるしさ。

 旅をずっとしてればこういう日もあるの。ね? ね?

 

 でね。

 またあの長いトンネルを抜けるの、イヤじゃない。気分的に。さすがに。

 

 だから、こうなったら山を抜けて会津とか茨城とかそっち側に抜けてやろうと思って。

 ここで今日初めてグーグルマップを起動したんです。最初っから起動しとけって話なんですけど。

 

 で、グーグルマップで見る限り、通行止め情報があちこちにあるんです。ただし、ここまで来た道も通行止め表記になってる部分があるので、信憑性があるのかどうかわからないということになり。

 

 加えてガソリンの残量がそこまで多くないことにも気が付きまして。まだ充分あるとはいえ、山を越えようと行ってみて通行止めだったりした場合、どう考えてもガソリンスタンドはないであろうこのへんで、それは冒険すぎると。

 

 そして空模様があやしい。どんどん暗くなるのは日没が早い秋のせいだと思いたいけど、山の天気は変わりやすいわけで。

 ここで雨に降られたら、本当に心が折れかねないから。

 

 要するに戻るしかないの。あのトンネルを。

 とりあえずオフラインでも音楽は聴けるようにしましたよ。チョコなんかとっくに食っちゃってもうないけど、飲み物はまだあるからとにかく山を降りようと決意して車を出したのが14時すぎでした。

 

行きと同じ道を戻るせつな旅


 緩やかな下りで、時間帯なのか対向車も行きの時よりはずっと少なくて、帰りのトンネルはそんなにキツくはありませんでした。

 もう知ってるからね。長いってことを知ってるからね。そう思ってればなんてことはないの。

 

 知らないことが驚きになったり意外性になったりして、そういうのが旅のある面での面白さだと思うんです。自分でもこの先どうなるかわからない、どこに行くかもなにに出会うかもわからないから、楽しいんだと思うんです。

 

 それが裏目に出ることなんて今までもよくあることで、そこからリベンジ的な衝動になってまた訪問してみたりもするんです。

 

 来た道をほぼトレースして同じ道を辿って戻る、短くて小さな旅の帰り道は、どこか切ないようなまだ旅を続けていたいような、そんな気配を引きずったまま終わっていくのです。

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