行きたい時が行き時だと。
どこか行きたいなって思った時が、そのタイミングというか機が熟してるというか。なによりも旅については、強くそう思ってるんです。
行きたくない旅ってのに付き合わされてダメで、行きたいと思った時に無理にでも行ったらとてもよかった、みたいなことを何度もやって、ああこれはそういうことなんだと。
だから、なるべくそうやってきたつもりだったんです。
今しかないから旅に出よう
とはいえ、物事には機ってもんがあるでしょう。さっき書いたことも機に違いないんですが、それとは別種の機。自分ではコントロールしにくい機会ってものがあるわけです。
例えば体調しかり、休日しかり、金銭的精神的な余裕だったり、色んなことがある。
今回、ちょっとした旅に出てきたんです。
それについてその機ってところから説明すると、10月はどうやら休みが少ないということがわかり。その少ない休みの日も、用事があったりして身体が空かない。かといって、冬が来て雪が積もってしまうと旅に出るのも難しくなる。
だから、10月がダメなら11月まで待つしかないってことになるわけで。
でも、今は9月ですから。
2ヶ月先のことなんてわかったもんじゃないって。なにがあるかなんてわかんないんだから。今じゃないのと。なにかするなら今じゃないのかと。
なにを生き急いでるのか自分でもわかっちゃいませんが、ともかくタイミング的には9月の終わりの土日。ここならどこか旅に出てもいいんじゃないか、とは思ってたんです。
じゃあどこに行くかって話なんですけど。
ぶっちゃけ県外に行きたい。でも例のアレがあるから。アレのおかげであんまり移動すると、もしアレがアレしてああなった時には面倒なことになる。
そうなると、今いる某潟県内で、どこかに行くかってことになるわけです。
県内に行きたい場所がないってわけじゃない、ないけど今この瞬間にはなんかピンとこない。
ここが引っかかるんです。機ってやつが、どうも足りてない気がするんです。今はどこに行ってもなぁ… って感じがするんです。
出発前から迷子になる
だからって、そんなこと言っててもラチがあかないのもわかってますから。
とりあえず心を旅モードにしてみよう。そうすれば感性のアンテナが立って今は閉ざしてるチャンネルが開いて、ちょっとは前向きになれんじゃなかろうか。
そう思って、自分の中にある旅モードスイッチをガシャンと、スイッチっていうかレバーだよね。あの、電車の軌道を切り替えるようなさ、もうサビサビのバカでかいレバーをガシャゴーンと。あるでしょ、みんな。持ってるでしょ、レバー。あれあれ。
で、その旅モード切り替えレバーを半ば無理矢理にガッシャンしたら、なんとなく電車旅あるいはバス旅がいいなってなりまして。
そうかそうか、じゃあバスなり電車なりでどこかへ行って、ついでにちょっと散歩でもしてみたりして。そういえば最近、あんまり歩けてないし。季節的にも歩くにはちょうどいいわけだし、ちょっと散歩したいなって。
そういえば、気になってるワークマンの靴があったんです。店頭に在庫がなくて、手に入れてないけどちょっと欲しいなって思ってたやつがあったのを思い出しましてね。
ネットで調べてみると通販では在庫切れだけど、店舗で取り置きを依頼できるというのがわかり。しかも、近くのワークマンにどうやら在庫があって、ネット上で取り置き依頼できちゃったんですよね。
じゃあ、その靴の履き慣らしもかねて、電車でどこかにいって街ブラでもしようと。
あ、なんか楽しそうじゃん。それいいじゃん。旅モードレバーをガッシャンしてよかったじゃん。
ただし、できれば、土日とも旅に出ていいけども、日曜は体力回復のためにちょっと休みたい。それならいっそ、金曜の夜から出かけられないかと思ったものの、結果から話すと金曜日に職場を出たのが夜の10時近くでね。
帰宅後に飯を食ってすぐ寝たんですけど、ものの30分で足がつって目が覚めて、その後は明け方までまったく寝れず、というありさまで。
この前ちょっとだけバスに乗った時も、ちょっと乗り物酔いっぽくなったのを思い出し、長距離の電車バス旅にはちょっと不安があるんじゃないかと、思いはじめてきたんですね。
そういうのがあると、テンションもちょっと落ちてきて。電車は無理かなぁ。旅かぁ、どうしよっかなぁ、みたいな。
じゃあ目的地でなにかいいのはないかしら。そういうのでテンションを上げてかないとさ。
ここなら近くていいかも、でも行きたいところはないし。ここは行ってみたいかも、でも遠すぎるし。
もうね、まったく決まりやしないんだ。
迷子だよね。目的地迷子。出発前から迷子だよ。お連れ様がお待ちになってないやつだよ。
ネットをさまよって出た答え
で、行き先は一切決まらないまま金曜日がきまして。ようやく仕事が終わったころには終電も終バスにも間に合わなけりゃ、近所のスーパーだって店仕舞いしてる時間ですよ。
もう、やさぐれて。
コンビニまでヘロヘロと行って、ビールと、売れ残ってるなんか知らねぇラーメン屋監修のつけ麺だけ買ってきて。
これがまた美味しくないっていう。
つけ麺もコンビニ飯も嫌いじゃないよ。もっと言うと平常時に食えばそれなりに美味いと思うんだけど。
でも、こっちはさ、やさぐれてっから。元々はもう旅に出てていい時間帯なのに、こうなっちゃってるから。そんな時に飯食ったって美味いわけがねぇっていう
そこからさっき書いたように、寝たと思ったら足がつって。
正確には足がつる夢を見てね。それで起きての、つっての、ギャーッ!
あもももももももってなって。これはマズいよ、少しでもラクな態勢になっギャーッ!
こういう時に慌てちゃいけないよ。そうだ、足がつったら、膝を90度に曲げた状態で足を壁に付けて、その壁を蹴るようにぐっと力を入れると結構治るんだよな。
でも壁は遠いな。壁の近くまで身体をこうひねっtギャーッ!
寝れねぇよ。
そっから寝れねぇよ。そりゃ寝れないって。
でね。
日頃の疲れやら、今の足のダメージやらでグッタリしまくってるこの身体を、旅先で癒やされようじゃないかと。深夜に痛む足をさすりながら、そう思って。
旅先で床屋さんとかよく行くのね。こんな行きあたりばったりの旅ばっかりしてると、時間がポッカリできたりもするから、時間つぶしがてらネットで探して、よさげな床屋さんに行ったりするの。
それと同じノリでマッサージでも受けようと。くたびれた身体を癒そうと。心はやさぐれてるよ。やさぐれ放題だけど、せめて身体だけでも癒そうじゃないかと。
で、眠れないからさ。
ネットで色々と検索してったら、ひとつ思い出したことがあって。前にちょっとだけブログに書いたことがあるんだけど、某市にあるラーメン屋が味とか佇まいとかその周りの街並みとか込みで、気に入ってて。
そこにもうずっと行ってないから、久しぶりに行こうじゃないかってのを思いついたのね。
旅に出ようと思ってこの数日、ウダウダやってたけど、ここで初めて行きたいところができたの。
じゃあマッサージも、そっち方面でへ探してみたら、これがちょっとピンとくるお店に当たったのね。早速予約しましたよ。ネットって便利よね。
…待てよ、そういえば取り置き依頼してたワークマンの靴があったよな。
…あれ、ワークマンって朝早くから営業してたよね。7時か、7時にもうやってるじゃん。
てことは、7時にワークマンに行って靴を受け取り、そのまま電車は無理だけど車でマッサージ屋さんまで行き、その流れでラーメン屋さんまで行けるじゃない。そのあと、新しい靴で散歩でもすればいい。
なんなら、もうちょっと早起きして、松屋でソーセージ目玉焼き朝定食でも頼んで。たまには飯テロ写真でもアップしてさ。
「これから旅に出ます」
みたいなこと書いて。
いいじゃん。カンペキ。ペッキペキじゃなの。
このトントン拍子感。これこれ、こういうふうに旅に出たかったんだよ。
そんなこんなで、秋の夜長もさすがにもうすぐ明けそうだってころに、ようやく寝ついたんです。
ほぐされて、癒やされて
マッサージの予約はしたから、その時間に間に合うようにはなんとか起きたんです。よく考えるとすごいよね。どう見ても寝坊フラグだもんね。
で、寝起きでボーッとしながらスマホを見たら、メールがきてる。開けてみるとワークマンからで、内容を簡単に書くと、
「例の靴は在庫がなくて取り置きできなかったよーごめんねー」
ここでもうプランが崩れるわけ。ここでっていうか、すでに早起きしてソーセージ目玉焼き定食食ってTwitterにアップするのは、時間的に無理だから。崩れてっから。
で、靴も手に入らないと。ふーん。
どうにか身体を起こして、シャワーを浴びて家を出たのが8時くらいだったか。普通の時間だもん。別に早起きとかしないもん。いいもん。マッサージ屋さんに間に合うもん。別にいいもん。
やさぐれがひどい。ずっとひどい。
とりあえずコンビニで飲み物を買い、本来なら日本海でも横に眺めながらの優雅なドライブと思ったけど、ちょっとだけ道を間違えたのと、そのおかげで海まで行ってたらマッサージ屋さんの予約時間にすら間に合わなそうということになり。
まあ、ほら。こっちは旅慣れてっから。そんなことでイチイチ動揺とかしないから。慣れてっから。
ちょいと安全な場所に停車しまして。ナビを起動しましてね。
あのすいません、ちょっとお尋ねいたします。こちらのマッサージ店まで行きたいのですが、最短の道はどちらですか? なんてって。
そしたらナビが案内してくれるんです。
ここをこう行きゃあいいんだよテメー道なんか間違えやがって、時間に間に合わないのは人として最低だろ、いいか案内してやっから言う通りに走るんだぞこのダメドライバー野郎。
「交差点を右です」 のあいまあいまに、こう言ってくるわけです。空耳かな。幻聴かな。おくすり飲み忘れたかな。
てゆーか、プランなんて立てるもんじゃないんだよ。なんならマッサージ屋さんに行きたいが、行かなきゃならないに変わってるから。楽しみが義務感に、いつの間にかすり替わってるから。
で、ナビからの、たぶん他の誰にも聞こえないであろう罵詈雑言を浴びながら、なんとか時間通りにマッサージ屋さんに到着したものの、これが手違いで施術開始がちょっと遅れるっていう。なんなら到着がちょっと遅れても問題なかったっていう。
でもね、あたしゃね、自分が誰かを待たせるのはかなり嫌なんだけど、自分が待つのはそんなに苦じゃないの。Twitterでも見ながら、ぼーっとしてればいいんだから。たいしたことじゃないんです。
店内でちょっとだけ待ってたら、予定よりちょい遅れくらいでスタートしたマッサージなんですけど、これがすごく上手で。ガッシガシにほぐしてくれるんだ。
こういう表現をするのはどうかと思うんですけどね。当たりでした。ピンときた通りに、しっかり癒やされまして。
こういうことなんだって。このやってやった感じ、わかりますかね。
旅先の知らない街で初めて入るお店で、思ってた通りあるいは想像以上にいい感じになる。自分の目の確かさみたいなものから、直感の正しさから、上手くいった感がすごい。そりゃあ来る時に道は間違えたよ。けれどもですよ。
これはぜひまた来ようと思ったんですけど、そのかたはどうやらレギュラースタッフではなくピンチヒッター的な日だったみたいで、そこは残念なんですけども。
ラーメンを気分よく食べるには
で。
帰り際に、水分をよくとってくれと言われたのでコンビニに寄って時計を見ると12時ちょうど。お昼ごはんにはいい時間です。
件のラーメン屋さんは、近所の人たちが集まるような小さなお店でそんなに混み合ってはいない、という印象なんだけど、さすがにお昼どきは混むだろうと。
ここで思うのは、せっかくいいイメージを持ってるラーメン屋さんなのに、混雑みたいなことで自分の中のなにかがちょっと下がるのは、やっぱり嫌なの。
混んでるってわかってるのに行くやつの方が悪いじゃない、そんなのさ。それで手前勝手にイメージダウンするのは、本意じゃないしどこか間違ってる。
今いるコンビニからそのラーメン屋さんまでは車で走って1時間はかからないから、到着してもまだ混んでる時間帯になっちゃう。
なら、一旦ラーメン屋さんまで行ってみて、空いてたら入ればいいし、もしも混んでるようなら、そこから少し離れたところにある駐車場に車を置いて、歩いて向かえば時間が潰せるんじゃないか。
そのラーメン屋さんは古い商店街のすみっこにあって、そういうことろの常で駐車スペースが店の前にどうにか2台、という感じなんです。なので、車が停められない場合の駐車場は、有料だけどすでに目星をつけてあるんですよね。
この二段構えの作戦で行こうと、一路、ラーメン屋さんに向かって車を走らせます。
この日の昼間は9月も終わりに近いというのに気温が上がってて、道路脇の温度計で28度という数字を見た記憶があります。歩くにはちょっと汗ばむだろうけど、ここまで来たならその程度は仕方ないことでね。
で、例のラーメン屋さんの近くまで来まして。
店の前まで行かなくても、遠目に車が停まってるのが見えますから、これは多分混んでるなと。
元々、近所の人たちがメインのお店で、その人たちは歩いてくるわけですから、そのお客さんに加えて車を使って遠方からも来てるな、というのが想像できる。
じゃあってんで、近くの有料駐車場に向かってみると、これが全部埋まってるんです。二段構え作戦があっさり破綻した感じで。
まあでもほら、慣れてっから。そういうの慣れてますから。ええええ。どうせ時間を潰さなきゃなんないんだから。他の駐車場を探しゃあいいんですよ、そんなの。
で、とりあえず車を走らせていると、たまたまワークマンの看板を見つけましてね。
こんなところにも店舗があるじゃない、例の靴はここにないんだろうか。そう思うやいなやウインカーを出して、ワークマンに吸い寄せられるように入店です。どうせ時間を潰さなきゃいけないし、いいのいいの。
オッサンは動かない
でね。
結論から書くとなかった。なかったというか、探してた靴自体はあったものの、好みの色で合うサイズのがなかったんです。
いや違う。もっと正確に書くと、あるにはあったんです。
アスレシューズハイバウンスという、ウォーキング用の靴があるんですけど、1,900円で悪くない評判なので、試しに使ってみようと思ってたのね。
店内で靴のコーナーに行って。
ワークマン女子ってのを推すようになってしばらく経ちますけど、もちろんオッサンもいますよね。
いますよねっていうか、別にいていいんだけど、靴コーナーの試着用の椅子に2足抱えて座ってるオッサンがいるの。
いていいよ。そりゃあさ、サイズが合うかちゃんと確認したほうがいいから、いていいけどね。
その手に持ってんの、それあたしがちょうどいいと思ってる色とサイズのやつじゃないかな。ちらっとタグが見えてんだけど、それかな。それじゃないか、な。
棚にある靴をマジマジと見てみたけど、他にないんだよ。その色のそのサイズはどうやら他にはないの。
店員さんにきく手もあるよ。在庫ありますかって。
でも面倒じゃない。どちらかというと、家電量販店でも洋服屋でも、なにかお探しですか系の接客されるの面倒じゃない。ただ見てるだけじゃない。こっちはただ見てたいだけじゃない。
でね。
しばらく粘ったんだけど、オッサン、動かないんだよ。2足手に取って、履いたり頭抱えたり、また履いたりして全然決まんないの。こっちが店内をゆーっくり一周して、靴コーナーに戻ってきてもまだ悩んでんだよ。
そして、ラーメン屋さんの混雑を避ける時間潰し目的だとしても、そろそろまずいってのに、ここで気がつくんです。
だってあのラーメン屋さん、お昼どきが終わったら一旦閉めて、夜にまた再開するんだから。混雑してるってことは、スープ終わりました的なことで早仕舞いしかねないわけ。あんまりのんびりしてると閉まっちゃうんだって。
もうひとつ割り切れないのが、目の前に欲しいのがあるっていうことと、取り置きの件があるじゃん。取り置きできますってなって、やっぱりなしになったじゃない。
それが、ラーメン屋の時間待ちで偶然ここにきたらあったっていう、縁みたいなものを感じてるわけですよ。加えて、この悩み深きオッサンが、あたしが欲しがってる方をあきらめてくれればすぐゲットできちゃう状況なの。
それはカンタンに割り切れないじゃない。
でも、オッサンは動かない。悩んでる。色なのかサイズなのか、それとも今夜のご飯はすき焼きか鶏めしか。悩んで悩んで動きやしないわけ。
…もうね、ここまで来たらなにか買おうと。
そうじゃないと、いくら待ってるのは苦にならないタイプだっていったって、あたしゃ浮かばれないよね。
そういえば、そのアスレシューズの他にも、アウトドア用のアクティブハイクっていう靴が気になってたんです。値段も一緒だし、そっちでもいいかなと。
で、あらためてアクティブハイクのほうを探したら、あったの。色もサイズもそれならあるの。
もう、それでよくね?
どこかで妥協しないと、そもそもの目的であるラーメン屋さんまで逃しそうだから。そのくらい、オッサンが動かないの。そういうオブジェかと思うくらい。
あの、ペッパーくんがいるお店ってあったじゃない。今はもう減ってきてるよね。少し前はたまに見た記憶があるんだけど。
それのワークマン版がこいつなんじゃないかっていう。しゃべりかけると、今何分待ちですとか受付はあちらですとか言うやつなんじゃないかって。よくよく見ると目が似てなくもないし。
もうそんなに時間もないってことで、アクティブハイクを買ってお店を出て、車に戻ってすぐ履いてみまして。だって試着の台が空かないんだもん。
あ、アクティブハイクはいいですよ。まだ一週間くらいしか履いてないけど、歩きやすいです。ただ、結構厚めの中敷きを使ってるので、甲のあたりがちょっとキツめではあります。
でも、いい靴です。値段も安いし。あとは耐久性がお値段なりなのかどうかですね。
そんな感じで、履いてみた感じでは靴のサイズは問題なさそうだし、なにより時間もだいぶ経ったからラーメン屋さんに戻ってみることにしたんです。
昔ながらのラーメン
で、空いてないと。
なんとなく予感はしてたけど、ラーメン屋さんの駐車スペースは埋まったままで。ただ車で通りすがりにチラッと店内が見えた感じでは、混雑してるってほどでもなさそうでした。
こうなったら、ひとつ案があって。
実はこのラーメン屋さんのすぐそばが、商店街なのね。
商店街と言うとアーケードのあるような通りを想像するかもしれないけど、そういういわゆる商店街然とした通りもあるの。
でもその他に、市場というか小屋が並んでる一帯があって、露天商とも違うけどちょっと毛色の変わった一角があるんです。住宅の一階部分が店舗で、そういう家が並んで出来てるのが普通の商店街とするなら、住居ではないっぽいちょっとした小屋が並んでる感じ。
その小屋の前は車道なんだけど、昔からの慣習なのか駐車オッケーらしく、確かに駐車禁止の標識はなくて、近隣の住宅の出入り口付近だけは駐車お断り、みたいな感じになってるんです。
そこなら停められるスペースがあるのを、通りすがりに見てたんですよね。違法ではないようだし、そこに停めようかと。
ここを初めて見たのは確か数年前だったと思うんだけど、その時はちょっとタイムスリップして昭和中期ならこんな店があちこちにあったのかな、なんて思えるような感じの通りだったのが、今は町おこしなのか小綺麗にリフォームしてちょっと洒落た感じの一角になってるんです。
たった数年のことなんですけど、その落差というか。ずいぶん変わったなぁという印象でね。
ともかくその空いている場所に車を置いて、あとでこのあたりを散策しながら、駐車料金代わりに適当なお店で買い物すればいいかと思いつつ、まずはラーメン屋さんのほうに足を向けます。
そのラーメン屋は、いつごろから営業してるのかまったく知らないんだけど、初めて入ったのがさっき書いたように数年前でね。誰かに教えてもらったんだったか、それともこんな旅の途中でたまたま見つけたんだったか、もう覚えちゃいないんですけども。
ラーメンは、昔ながらのラーメン。中華そばではなく、昔ながらのラーメンという言い方がしっくりくるんじゃないでしょうか。細麺で、今どきの軽いどんぶりじゃなく瀬戸物のやつに入って出てきてね。
ラーメン大盛り |
味は飛び抜けて美味いとかじゃないけど、こっちはそういうのを求めてないっていうか。普通でよくて。
普通って意外と難しくて、安心して入れて、飯が食えてちょっと油断できるようなところがいいんですよ。
町の食堂って、入りにくい空気を出してるところもあるじゃないですか。
こっちは基本、他人様で、その街に溶け込んじゃいないわけ。そこに常連さんだけで、狭い店の中にビッシリと根っこが生えたようにされてたんじゃ、暖簾をくぐってもすぐ出たくなる。そういうところに混ざって打ち解けられるようなら、旅暮らしなんかしてないっていう。
その点、このお店はなんかそういうのがなくて。
外からも店内が少しだけ見えて雰囲気もわかるし、常連の客もそりゃあいるんでしょうけど、ビール片手にずっと居座ってるみたいなのも見かけたことがないし、なによりお店の人もサラッとしてる感じがするんです。
だからあえて、ここでお店の名前は出さず、わかる人にはわかるくらいにしておこうかなと。
餃子も美味い |
ふらっと入って、ラーメンすすってごちそうさんって言って勘定して出ていく。それを時々繰り返せる。それだけでいいし、また行ってみようってなるし、それが貴重なんですよね。
飲みこめないものたち
でね。
めずらしく大盛りなんて頼んじゃっておなかも膨れたし、これから街歩きしようということになり。腹ごなしにさっき車を停めた、近頃リフォームしたお店のあたりを歩いてみたいなと思って。
その前にのどが渇いたなってことで、店を出てすぐにある自販機でコーヒーでもどう? なんてね。
今どき100円か、安いなぁなんつって。いつも買う銘柄があるから特に迷わず、100円を入れて買ったんです。
そしたらホットなの。しかもあっつあつなの。
気温は28度だよ。ついさっきラーメン食ったばかりだよ。冷たいのじゃん。気分は冷たいのじゃん。まさか9月にもうホットになってるとは思わないじゃん。
買ったよもう一本。ア・イ・スって唱えてから買い直しましたよ。ホットの方は、ズボンのポッケに入れると太ももが熱いくらいのやつだったから、カバンにしまったよ。
今思えばね、ここからだった。
ここからなにかが変わってたんだね。怖いよね。間違って、というか間違ってる意識すらなくホットコーヒーを買っちゃってから、なにかが狂っていった気がする。
その、新しくなった、元々は寂れた屋台小屋みたいなところで野菜とかを売ってるような、客もほとんどいなくて店番のおばあさんだけが座ってるような一角がね。
今は、雑貨屋さんとか古本屋とか喫茶店みたいのもあったのかな。おしゃれな感じになってて、カップルとか親子連れとかもけっこう歩いてて。初めてここに来た時に見た景色からは想像もつかないけど、どこか名残もあるような町並みになってて。
たぶんわざとなんだろうけど、一部のお店は、小屋だった外観をすべてリフォームせずに、なんたら八百屋みたいな屋号の表記というか看板の部分だけ、それももう塗装が消えかかってて文字もうっすらとしか見えないんだけど、そこだけは以前そうだったってわかるように残してあるの。
これって、おそらくリスペクトっていうか、昔の名残を残しておこうみたいな想いなんだと思うのね。それって、普通はいいこと、いいことっていう表現が正しくないかもだけど、今そこで営業してる人の想いが伝わってくる、どっちかといえば素敵なことなんだと思うの。
ただ、その時その瞬間のあたしの目にはそれが逆に浮いちゃってて。溶け込んでなくて。名残っていうよりも未練というか。いい言い方が思いつかないんだけど。
ついさっきはラーメン屋さんでね。いい意味で変化しない、いつものやつ的な味とか空気感とかで油断したせいだと思う。変わっちゃったものに適応できないっていうか。
さっきのラーメン屋さんに最初に来たころに同時に見た、街の景色というか雰囲気というか、そういうのを込みでいいなぁと思っていたものが、変わったんだなっていう。
あたしは当事者じゃないし、ただの通りすがりで根付くこともない無責任な旅人だからさ。
街が変わるのはそこに住む人たちのもので、権利で、それしかないからそうなるわけだし、変わることが良いも悪いもないってのは、よくわかってるんです。
わかってんですけど、さっき食ったラーメンとのギャップがすごくて。
きれいにして、新しく始めて、そのパワーはすごいし誰にも真似できない称賛されるべきこと。
だけど、今のあたしには上手く飲み込めない、消化できないっていうか。
だから、ホットコーヒーをね。
間違って買った結果が、これですよ。カバン越しに触ったって熱いのがわかるんだから。それであたしも、多分どうかしちゃったのかな。ぐんぐんテンションが落ちていくの。
ほしかった靴を履いたくらいじゃ全然治んないの。スキップしてもだめだよ。
トボトボと停めておいた車に戻ったら、それを見てたであろう別のけっこう大きめの車がやってきて、ハザードランプを点けて停まって。お前もう出ていくんだろう、早く出てけよそこに停めるから、的な空気を出してきて。
どうみたってあたしの車よりもデカいの。この場所だって、縦列駐車でちょうどくらいの隙間しかないんだから。そこに入れるわけもないのにさ、待ってんの。
もうここには居られないよね。追われるように出ていくしかない時の、なんとも言えない感じ。
あとはもう、迷走だよ。あと土曜日だから人が多い。どこに行っても人が多いし、人が集まれば変なやつも目立つわけ。
お前が一番ヘンなやつだろと思いつつも。
だからどこに行ってもまったく楽しくないの。こんなの買っちゃったりして、みたいに物欲で満たそうとかさ色々やってみたけど、その買い物の無駄さにテンションが余計に落ちていくっていう。
晩御飯は回るお寿司だな! とかいって、ちょっと混んでるんだけどとりあえず入店してさ。
でも、ひとりだから早く順番が回ってきて。ラッキーと思って、いざカウンター席に着いたら飛散防止的なボードがほんとにひと席ぶんピッタリにしてあって。肩幅くらいしかないんだよ。食いづらいくらい狭くしてあんの。
もうダメじゃん。生きてる価値も無いってなるよ。このまま消えてしまいたいってなるよ。
だって狭いんだもん。マジで肩幅ピッタリだからね。背筋伸ばしてから両肩を前の方に丸める感じで、その幅に収まらないと食えないんだから。軍艦巻き作る機械で押されたシャリみてぇになって食ってんだから。
そんな目に合えばさ、そうなるよ。
見知らぬ彼女に救われて
でね。
もう夜も遅くなってきて。どこに行ってもダメだと。
自宅に戻る途中の、人もほぼいないコンビニの駐車場でさ。ようやく冷めた例の買い間違えた缶コーヒーをくわえてね。このままじゃ帰れなくて。
やさぐれ始まりの日に、やさぐれ終わりかと。旅になんか出るんじゃなかった。
ラーメンと寿司食って新品の靴買った日だよ?
あとマッサージも受けたわ。あ、このコンビニでちょっと高いアイスも買ったわ。
そんな日にこんな気分になる?
小学生だったら盆と正月と夏祭りとクリスマスと、ついでに誕生日に隣の家に住んでるかわいい幼馴染の女の子と手を繋いだ感じだろ。
なんで落ち込んでんのよ。
てゆーかねぇ、気がついた。気がついてた。
覚えてるかなぁ。最初の方でさ、旅モードにするのにスイッチを、レバーをガッシャンしたじゃん。
あの時折れてたんじゃなかな、レバー。ポッキリいってたんじゃないかな。ガッシャンしたかったんだもん。旅に出たかったんだもん。だから勢いよくガッシャンしちゃったんだもん。
あーあ。
あーあ。
で、さすがにこのままじゃマズいということになり。
せっかくの旅がすべて台無しになりかねないと。もうなってるけど。レバー折れてるけど。
なんなら明日はゆっくりしようと思ってたけど、このまま旅を続けようってことになってきて。自分の中でそうなってきて。
車内の音楽も変えて、自宅のそばまで戻って来たけど離れる方向に、もう半ば無理矢理ハンドルを切って。
(…そういえば、ほぼ寝てないよな)
とか、そういうのが頭をよぎるけど、寝た寝たとか自分をだまして。首をブンブン横に振って。
そのままどのくらい走ったかな。
アテなんかないから、いい加減に走ってたけどちょっと山の方というか、ほとんど行ったことのないあたりに出たら、ポツンとコンビニがあって。夜だからよく見えないけど、田んぼもそろそろ収穫が終わったかなって感じの田舎道のそばにポツンと建ってるの。
別にお腹も空いてないし飲み物もあったんだけど、トイレにね。ちょっと。
で、店内に入ったら、ちょうど掃除をしてるところだったみたいで、そっちのほうからガサガサ音がするわけ。
もうこの世の終わり感がすごいよね。気分を切り替えつつあったのに、たまたまトイレを借りようとしたコンビニで掃除中ってどういうことだと。
で、店員さんもひとりしかいないっぽくて、客も他にいないしガラーンとしてるわけ。入店音がしたせいか、奥で掃除してる店員さんもバタバタし始めて、すぐ終わりそうだなと思ったのね。
我慢できないほどじゃないし、これから下手すると夜通し走ってしまえ、そのくらいじゃないと今のこの鬱々とした気分は治らない、ってなってるからさ。
ちょっと書いたけど、自分が待つのはそんなに苦じゃないから。夜も長いし、飲み物がもっとあったっていいし、眠気覚ましにかじるお菓子みたいなのも買っておこう、買い物してからトイレを借りればいいかとなって。
で、カゴも持たずに飲み物とか手にとってたら、掃除を終えて店員さんが戻ってきてね。
年の頃はそうね、20代後半から30代くらいの。深夜の田舎道にあるコンビニよりは、繁華街のすみっこにあるちっちゃいコンビニにいそうな、ちょっと化粧が濃いっていう人もいるかもしれないくらいの店員さんで。
で、ポイントカードがどうのとかそれくらいで、特に会話もなく、千円札出してレジ袋付けてもらって。
で、右手で袋を受け取って、そうなると自然に左手でお釣りを受け取ることになるじゃん。
なんか久しぶりだったんだけど、よっぽどその左手がぎこちなかったからなのか、お釣りを左手にぎゅって。
握らせるように渡されて。体温が伝わって。
最近なくない?
だって電子マネーだったりさ、ともすればセルフレジだったりするじゃない。こっちも現金で物を買うってことが、徐々になくなりつつあるし。この時はたまたま小銭を出したんだよね。
昔は、かわいい店員さんがきゅっと手にお釣りを渡してきたりすると、ちょっと嬉しかったりみたいなこと、あった気がするよね。イケメン店員でもいいよ。手が触ったりみたいなさ。
そりゃあ向こうは、なにこの夜遅くに買い物にきやがんだよ、帰れ帰れと思ってるかもしれないけど。
だからあれだよね、電子マネーとかセルフレジ反対派になろうと思ったよね。強く思ったよね。
なんか、そのあと、そのコンビニの駐車場で。
別にそれ以上、その店員さんについて思うところはないんだけど、なんとなく今日の一日の最後のなにかとして、これでオチがついたなっていうか。旅モードに切り替えてた、折れたレバーが戻った感じっていうか。
これ以上なにかすると、またダウンしかねないってのもあるんだけど、うねりまくってグズグズの一日に、なんとなくケリがついたような気がするなって思っちゃって。
帰ろうかって、自分で自分に告げて。
なだめるようにその場所を離れて、旅がまたひとつ終わったんです。