茶色い海に着いて。
なーんにもない、茶色い海。
前日は雨だったんだっけ。確かそう。そんな気がする。雨上がりで、木くずとかが打ち上げられてて、泥っぽい色の波が打ち寄せてて。
海の向こうから木片が打ち寄せてくることなんてあるのね。川の流れに乗って海へ出て、潮の流れに乗ってまた岸にきたってこと。
あの海の向こうには、なにがあるんだろうね。
波打ち際をあきらめて、そうしたら陸に向かうしかないんだ。浦島太郎だってそうだった。海をあきらめたら、そうなった。
陸地は高くなっていくもの。海より高くなっていくもの。
そこを目指すものがいるのに、そのために作られた石段は果てしなくて上りにくい。
海から神。すぐに神様。
こういうのを見るといつも思うんだけど。編むのは誰がどう決めて、どうやって、どうしてこうなったんだろうね。意味がある、理由がある、と思いきやただの偶然だったり。
それが神様に伝わらなくても、願い祈るのは悪いことじゃない。
今日はなにを祈ろう。今日もなにも祈らない。あ、でも、雨が降りませんように。
上ったら下る。あがったらおりる。のぼったらくだる。うえったらしたる。
角を曲がったら、遠くに鳥居。また神様がいる。人は誰もいないのに。
空を切り取って、海へつながって、風が追い抜いていくんだけど、ここはどこなんだろう。こんな場所に来るつもりがなかったから、なんにもしらない。
歌は世につれ世は歌につれ。知らない歌をよんでみる。
ここからは海が見えるんだ。だからここに決めたんだ。他には誰もいないけど、ここに咲くことに決めたんだよ。
振り返れば、道は伸びていて花は咲いてなどいない。人の影もどこにもない。
楽は有る。苦はない。駐車場はどうやらあるらしい。
七五調で道案内をするルールが、かつてこのあたりには存在したらしく、あちこちに立ってる。
そしてまた、神の社に辿り着く。人口より神のほうが多い説。さすがは八百万。
明治四十三年は1910年だって。112年前だって。ハレー彗星がきた年らしいよ。昭和にきた時のさらにもういっこ前だよ。
こっちはもっと古い、明治四十一年の鳥居と並ぶ、平成生まれの狛犬。
その鳥居を抜けるとガールズバーがあるんだぜ。すごくない?
揺り籠から墓場まで ガールズバーから神社まで |
他にもスナックやら酒場やらが並んでて、煩悩市場みてぇなナイトストリートが、神様のお膝元で今は眠ってるんだ。あの絵の浦島太郎が目指してた竜宮城はここかっていう。
そんなのをずっと見守ってる、たぶん最古参。明治三十七年。118年前だって。ガールズバーからだいたい118歩くらいで着けるんだって。知らんけど。
少しずつ街の気配が漂ってきて、寂れ寂れにさまよっている。色々気になるけど、窓の☆がいいよね。
そんな街の駅前で、広角レンズがついてるスマホを買ったんだぜ記念。活躍してるとはいいがたいけど。
そして駅の中になんと水族館を名乗るものあり。かわいい。水族館サイコーでは。
水槽じゃねぇよ水族館だよ |
水族館併設の駅から、停車中の電車を眺める。あれに乗ってどこまでも行きたいと思う。
その窓の前にベンチがあってね。木製で手書きでペンギンの絵が描いてあってね。いいんだけどなんか座るのにハードルがあるの。絵の上に腰を下ろしていいものだろうか。答えは風の中、水槽の中。
駅前では魚たちが泳いでいる。
これは2001年。ガールズバーそばの石碑が建ってから100年くらいあと。
おなかが空いたので、喫茶店でカレー。客のおじさんたちが世間話をしてた。近所の人が手土産持ってきてた。おなかはふくれた。
だからコーヒーとかは、またいつか。
でも考えてみると、明治四十年あたりにさ、神社に鳥居作って石碑建てて。当時の人達は何年後まで残るつもりで建てたんだろうね。この喫茶店とかさ、さっきの駅とかは何年後まであるんだろうね。
で、100年後にガールズバーだよ。ハイカラだよ。舶来品だよ。すごいよな、人間って。
これは昭和11年。D51の車輪だって。朽ちないもんだね。
七五調以外のポエム発見。歌碑とかもあるし、そういうところなんだなきっと。
街角ポエム |
しかしなんだな。このくらい、わかったようでよくわからないと逆にいいな。なんだろう、「冬がきたら寒い。夏がきたら暑い」との違いはあんまないよね。
「カレーを食ったら美味かった」
「桃から生まれたモモレンジャー」
「家から保育園まで907歩」
ほら。
変わんないよね。ほら。
この普遍的な感じ。明治のあのころから、現代まで変わらないものはあるんだよって教えてくれてるわけですよ。歴史ある街が語りかけてるわけです。全然わかんねぇけど。
そんなんでいいなら、あたしも書くよ。書いて玄関前に貼り出すよと思ったけど、よく考えたらここにこうやって書いて張り出してたわ。しかも全世界同時公開で。よくわかんねぇ文を貼り出してた。
じゃあもういいか。まとめると、令和四年に色んなものを見たよっていう、そんな話。1行で終わる話。