旅してる感ってこういうことだなと思ったっていう話を書こうと思うんです。
ただ、どっから書いていいか。どこから書けば伝わるのかがいまいちハッキリしてないんですけど、とりあえず思うままにやってみようかなと。
思い出を片付けにいこう
先週、先々週かな。
日曜日に日帰りでそこそこ遠くまで行ってきたんです。遠くっていったって日帰りですから、そのへんはまああれなんですけども。
自分の車を運転して、朝も早めの時間帯から出発しまして。
そうまでする理由があって。一応、目的らしきものがあるの。めずらしく。
ちょっとは馴染みのあるお店が、どうやらその店をたたむらしいと。
馴染みがあるったって、こっちが勝手にそう思ってるってだけで。あちらさんは、あたしなんか知りもしないだろうし覚えてもいないだろうっていうくらいの、そんなお店でね。
それでも、こっちにはそれなりに思い入れ、思い入れって言うとちょっと重たすぎるけれど、そんなのがあるからさ。お別れに行こう。それは誰にってことじゃなく、多分自分の中の思い出に「お別れしたよ」っていう項目を付け加えたいっていう、そんな感じのやつで。
閉店の報を知ってから、それまでに行っておきたいと思いつつも、なんやかんやで忙しくて。前日の土曜日も仕事だったりして。
そうはいっても閉店の日は待ってくれないから、多少疲れはあるけれどこの日曜に行っておこうということになり。
そんな状況ですから無理して予定を詰め込まず、その目的が果たせれば、後はフリー。なにしたっていいよっていうゆるい感じでいこうと。
だから、ミッション達成後の時間を多めに確保するためにもちょっとがんばって早めに出発した、ということなんです。
そうすればなにがあってもいいじゃないですか。面白そうなところがあれば寄り道してもいいし、ダラダラとアテもなく徘徊したっていいんです。
春、遥か遠く
で、その目的地に到着しましてね。車で、けっこう走ってようやくっていう距離感なんですけど。
まぁ、変わらないんだ。そりゃあれから何十年経ったってわけじゃなくて、ほんの数年、いや十年くらいかな。足繁く通ってた当時からその程度のスパンのお話ですから、そんな大げさに変化なんかなくて当然なんですけどね。
なんやかんやあって、自分の中ではケリがついたのは、確か12時すぎだったと思うんですけど。
ミッションコンプリートだと。もういいよと。
思いは片付いた。引っ越しして荷物のなくなった自分の部屋みたいな心境って言えば、伝わりますかね。
そうやってなにかひとしずくの感傷のような、虚しさのような気持ちを抱えたまま店を出たんです。
そしたら猛吹雪なの。暴風雪なの。
ここに来るまではなんでもなかったのに、急に吹雪いてて。
店の駐車場に停めた車に辿り着くのもやっとなくらい、すげぇ吹雪なわけ。車のドアを風に押されるようにして閉めて、中に転がり込んだんですけどね。
猛吹雪っていったってさ、季節はそろそろ3月になろうかって頃合いですよ。なんなの? いつのまにか外は真っ白じゃん。
でもさ、これ止むんじゃね? ちょっと待ってれば、落ち着くんじゃね?
これは雪国にしばらく居てしまったことで生まれた勘というか、そういうのだったりするんですけど、ちょっと願望込みだったりもして。
だってもうそろそろ春ですよ。暦の上でも春ですよ。
そう思って、とりあえずエンジンをかけて缶コーヒーなんか飲みながら、しばらく待ったよね。
ぎゅんぎゅん。
ごーごー。
雪が延々と、水平に近い角度で吹き付けてるのをしばらく眺めてたんだけど、一切止む気配はないわけ。
確かに風がすごすぎるから、路面に積もる様子はない。だから積雪が急増するってことはなさそうだと。こんな状況だけど、あわててこの場を離れなくても良さそうではあるんだ。
だからって、この吹雪の中をね、どこに行こうかっていう。
どっちにするの?
そんなに頻繁には来ない土地だから、街並みなんかを見てても、懐かしさの軽いやつと物珍しさみたいなもんがあるんです。
ラーメンでもカレーでも定食でもいいじゃない。いつもの行動範囲にはない店に入って、のんびり昼飯を食ったっていいよね。
でも、この吹雪の中、特にアテもなくよさげな店を探すのも難しいんじゃないか。そのくらいびゅーびゅーだからね。路面はそんなに白くないけど、視界は真っ白だからさ。
そして今日は日曜日なんです。
この吹雪の中、どれだけ人が外に出てるかわからないけど、そこまでして辿り着いたお店が混んでる可能性があるじゃん。
現に、駐車場のすぐ前を走ってる大通りは、適当に混み合ってるんです。このへんの人たちは、この程度の吹雪とかもう慣れっこで、普通に日曜日を謳歌してるのかもしれないよね。
あたしだって雪国に住んでますから、運転しろって言われればしますとも。タイヤも、まがりなりにもひと冬越えた冬タイヤだし、真冬の時期だって連日運転してたんてすから。
でももう、今日の目的は達成してて、他にアテなんかないわけ。帰る以外に移動する強い動機はないんです。
そりゃ萎えるって。
無理に動かなくてもいいんだもん。もっといえば、この寒さと暴風の中をがんばって食べに行きたいようなお店を知らないんだもん。
これはどうしたもんかと。
賭けに出て、この大荒れの天気なら客なんか少なかろうっていう読みで、視界の悪い中だけど車を出すべきか。
いやいや待て待て、吹雪がちょっとおさまってきたころに移動すればいいじゃんと。無理しなさんなと。
どっちにするかな。
そう思って、とりあえず考えをまとめるためにシートをちょっと倒して窓の外をふと見ると、ガラスにはりついた雪の向こうにコンビニエンスなストアが見えたんです。
そういえば、同じ敷地内にコンビニがあったなと。
あれ。
もうコンビニでよくない?
いやいや、あんたね。今日何時に起きてわざわざここまで来たと思ってんの。しかも昨日も仕事だったわけじゃん。一週間で唯一のお休みの日にだよ。
日帰り予定とはいえぷち旅のランチがさ、コンビニでいいの? たまの休みのお昼ご飯が、いつでもどこでも食べられるコンビニのやつでいいの?
悩みはつきぬ
悩んだよ。思春期の若者くらい悩んだよ。この先どうすればいいんだろう。
じゃあ聞くけど、チャーシューメンとレバニラ炒め定食とどっちにする? なんつって。
悩んだよ。
お小遣いの100円で、うまい棒とガリガリ君とどっちにする? なんつって。
えー、じゃあさぁ、吉岡里帆と浜辺美波に同時に告白されたらどうする? どっちともつきあうとかなしだぜ。そういうのダメだから。お前どっち?
オオタニサンの全力大リーグケツバットと、一番お気に入りの服を納豆まみれにしてそれを着たまま表参道を歩くのと、罰ゲームどっちにする?
それは前者だわー 一応オオタニサンに会えるじゃん。ケツは大変なことになるけど、むしろご褒美な可能性あるじゃんね。納豆を着て表参道歩くみたいな精神にくる罰ゲームのほうが嫌じゃん。
これくらい悩んだよね。悩みすぎて脳内で浜辺美波がカレ牛まみれで原宿を練り歩き始めたあたりで、吹雪で車が揺れて我に返ったけど。あと、納豆を着るってなに? 衣食住が混ざってるから。
結果ね。コンビニに行ったんです。歩くのもやっとな猛吹雪の中、行きましたよ。
そしたらさ、びっくりするぐらいお弁当の棚に何にもないんだ。そうだよ、お昼時だもんね。こんな天気なんだからさ、みんなお手頃なコンビニで済ますよ。猛吹雪なんだもん。
こっちはなんかちょっと遠出してきて今日は特別な日だと思ってるけど、このへんの人たちにとっちゃ天気の悪い普通の一日だもんね。メシなんか別にコンビニでいいよね。そりゃお弁当系は売り切れてるよ。
ないよ。
棚にはほとんど残ってないの。
唯一あったのが、サーモンのお寿司。鮭のおにぎり。そのくらい。
買う? お寿司買うの?
遠路はるばるやってきて、握り寿司食いに行かずにコンビニのお寿司なの? 美味い回転寿司とか、このへんで探せばあるよたぶん。
また悩むんだよ。悩むって。でもさ、もう買うしかないよね。手ぶらで戻るのもなんじゃないですか。
ついでに寒いから。外は吹雪いてっから。暖まりてぇからさ。カップ麺も買っちゃうよね。お湯もらって入れちゃうよね。車の中で食べるよね。
カップ麺と、サーモンのお寿司。
なんなの。なにこの取り合わせ。売れ残っててキンキンに冷えてるサーモンと、もう温かいだけが頼りのカップ麺。それも車の中でさ。
そりゃイートインスペースもあるけどさ、いたたまれないって。店員さんとかの視線に耐えられないって。この吹雪の中、イートインは無理だって。しかもサーモンの寿司とカップ麺でしょ。見ちゃうよ。見たくなくても見ちゃうもの、そんな客。
なんなの。なんなのもう。
忘れ物を渡しに
でね。
その日はなんかこう、噛み合わないから。もう帰ろうってなって。
予感した通り、吹雪も一過性のやつで、しばらく待ってたらおさまってきたし。寄り道はしつつも普通に帰宅しまして。
その翌週。
金曜日に、いつもなら残業するんだけど今日は定時退社できそうだと。おまけに翌日の休日出勤も回避しましてね。
週の半ばくらいには今週末も休みがないかなと思ってからの、連休確保ですよ。いいじゃないの。ゆっくり休むにしろ何処かへいくにしろ、最高の週末になりそうじゃないの。
そう思ってると発生するのがトラブルってやつで。
細かいことを書いても仕方ないから端折りますけど、要はこれから高速に乗って、先行して出発している人に忘れ物を届けなきゃいけないってことになりまして。
もうちょっと説明すると、こっちは高速に乗っていって、向こうはどこかで高速を一旦降りて引き返してくる、その中間地点のサービスエリアとかパーキングエリアとかで落ち合って、その忘れ物を渡すっていう感じ。
まあまあそのくらい、いいですよ。定時退社はなくなったけど、たいしたミッションじゃないやと、ささっと身支度しましてね。走るんですけど。
真冬に比べれば日も長くなってきたとはいえ、暗くなり始めた高速を走ることに急になっちゃって。そんな予定じゃないから、不安もないといえばウソになるけど、どこかちょっと楽しくもあるんです。
もともとが、予定立ててその通りに行動するってほうが嫌なタイプなのね。まぎれがあってほしいっていうか。そりゃあ、トラブルは嫌だけどさ、気が向いたほうに行きたいの。
カッチリ決められた予定をその通りに粛々とこなすようなのは無理なんだ。アソビの部分がほしいわけ。
だから、急にそういうことになって全然思ってたのと違うシチュエーションに置かれてる自分、っていうのが客観的に面白いっていう。
で。
落ち合う相手と連絡を取りつつ、適当なSAとかPAがないから、高速の降り口にある駐車場で待ち合わせようということになり。
とある高速道路の出口まで、それでも1時間半くらいは走ったと思うんですけど。その相手とはスムースに合流できて、無事に忘れ物も渡すことができましてね。
相手が再び高速に乗ったのを見送って、あとは帰るだけなんだけど。ちょっとホッとしたのか、おなかすいちゃって。
あたりはもうすっかり夜なんです。
で、忘れ物の受け渡しに距離感とかがちょうどいいっていう理由で降りた、しかも田舎の方の高速の出口だからさ、周りになんにもないわけ。こんなところ、用事もないから初めて来たし近くに何があるかも知らないのね。
数時間前までは来るなんて思ってなかった場所に、ポツンといる自分っていうのが面白いっていうかおかしいっていうか。
こういうのが旅っていうかさ。
見知らぬ場所に放り込まれたぞ、さあどっちに行こうっていう。周りを見回しちゃうこの感じ。
ほんの数分前まで一応は仕事の一環で、そういうモードだったのが一気に旅モードに切り替わったような。出張先で仕事を終えて取引先とか同僚とかと別れてフリーになった瞬間の、あの感じですよね。
カレーを食べたそのあとで
それで、細かいことはちょっと忘れちゃったんだけど、近くに持ち帰り専門のカレー屋さんってのを見つけて、車の中でカレーを食った記憶があるんだよね。
それも、いわゆる日本のカレー。茶色いルーにじゃがいもとにんじんとお肉っていうやつじゃなくて、キーマカレーとも違うけどひき肉が入ってる、あとピーマンの赤いのみてぇなの。なんていう野菜か知らないけどああいうのが入った、ちょっとスパイシーなカレーだったと思う。
これじゃない |
これでもない |
てゆーか、なんで今回に限って写真が多いの? |
あと、写真がぜんぶ茶色いよね。
でね。店員さんもちょっとインパクトがあって。
なんかそういう、いわゆる昔ながらのカレーじゃないタイプのやつって、古民家を改装したようなところでさ、ベレー帽に天然素材のエプロンした細身の、腕なんか真っ白い感じで内側を刈り上げたような髪で目に光がない、SDGS大好きっ子が出してくるイメージがあるんだけど。
もうド偏見だな。そのお前のド偏見な。ひどいな。
まあでも当たらずとも遠からずっていうか。そういうタイプの人が作ってるイメージなんだけど、この店はなんかいかついおっさんが作ってるんだ。
持ち帰り専門だからか、ちょっとした小屋みてぇなところで営業してんだけど、その狭いブースにかっちりハマってるんじゃないのっていう、ガタイのいい丸刈りのおっさんがいてさ。
こっちが注文するとその場で具を炒めて、カレールーと合わせて持ち帰りの容器みたいなのに詰めてくれるんだけど。よくフライパンを振れるなっていうくらい、お店と一体化してるようなデカさのおっさんなんだよ。
でも、これも偏見がさらにもうひと転がりしてるんだけど、むしろそんなおっさんが作るから美味そうっていうか。古民家風薬膳カレー屋とか、まず行かないからこういうカレーって初めて食べたけど美味かったね。
でね。
その、なんていえばいいか。ほんの数時間前まで来ると思ってなかった場所で、ほんの数分前まで食うなんて思ってなかったカレーを食ってるこの感じ。
その前の週に猛吹雪の中、車でサーモンのお寿司とカップ麺食ってた人がだよ。
いや、逆に。むしろその流れからの今ここっていう。
旅してる感覚がものすごいんだ。
距離的には自宅からたいして離れちゃいないし、やってることだって特別なことは一切してないの。いいホテルに泊まってるわけでもないし、小ぢんまりとした居酒屋の大将とのふれあいもないし、見たこともない雄大な景色に心奪われてもいないよ。
むしろ、そっち方面にはない感覚。
なんでここにいるんだろう感。
それがこの時に、カレー食ってるこの時にぐいぐいきちゃってさ。
そこから帰ることになるんだけど、車の中がスパイシーカレーの匂いですごかった。取れないね。あれはなんだ。なにが入ってんだ。あのおっさん、なにを入れたんだよ。取れないよ。カレーの他になにが入ったらあんなに匂いが残るんだ。
あと、今となってはあのカレー屋がどこにあるのかわかんないし。どっかの高速の出口からちょっといったあたりだよ。それ以外の手がかりがない。今もまだあるのかもわからないよ。ファンタジーかな。現代のおとぎ話かな。
そんなだよ。そんな旅がね、これからもしたいよ。