ゴールデンなウィークがもう後半戦なんですけども。ちょっと旅をしてきまして。
連休はありやなしや
今の仕事は年末年始とお盆とゴールデンウィークは比較的長めに休めるんです。といっても、何日か仕事になってしまう場合もあるので、予定が立てにくくもあるんですけど。
で、カレンダー上の連休の谷間になっている4月30日〜5月2日は基本休みなんだけど、どうもその前の4月の最終週は最悪ずっと仕事になるかもと。その、かもという状態のまま決定になかなかならなくて。
連休になったらどこかへ行こうかと漠然と思っていたものの、休みがハッキリ決まらない以上、泊まるホテルの予約もままならないじゃないですか。
昨今じゃインバウンドとやらもまた勢いを取り戻しつつあるようで、元々予約も取りにくい上に料金的にも高めに設定されるのがゴールデンウィークってもので。
そうなると、はなっからホテル泊はあきらめて、車中泊でもいいや。
こっちはそもそもからして、プランの明確な、どこにいって次はこっちに行ってみたいなスケジュールのある旅なんか、やったことないんですから。そういうのが嫌で、すきなようにやりたくてひとり旅を続けてきたわけです。
妖精さんにきいてみよう
なので、ホテルがとれねぇみたいなのはそんなに苦にならないんですけど、そういう旅に自分の身体が耐えられるかが最近あやしくなってきてまして。
入院するほどの重病ではないものの、三半規管の不安定さは悪化していく一方ですし、気圧なのかなんなのかひどい頭痛にも頻繁に見舞われてる状態で。
それでも旅に出ますかっていう自問自答がよぎるんです。
運転中に発症したらどうしよう。車中泊中にきたらどうしよう。
どうしようもなにも、安全な所で安定化するのを待つくらいしかやれることがないんですけど、それもどうよって思うわけ。
旅先で体調を崩したことは何度かあるけど、救急外来とか、ましてや救急車とかは嫌だって。日常生活でそうなったって嫌なのにさ、旅先でなるのはもっと嫌じゃん。
だから迷ってたのね。
何連休になるのかわからないけど、家で大人しくしてればいいんじゃないか。体力の回復につとめてればいいんじゃないのか。
膝を抱えて。壁に向かって。見えない妖精さんとお話してれば楽しいんじゃないかと。うふふうふふってずっとやってればいいじゃないかと。
待てよ、妖精さんもゴールデンウィークでお休みだったらどうしよう。沖縄でスキューバダイビングとか満喫してたらどうしよう。泡盛ガブガブ飲んでなんくるないさーってなってる妖精さん。
え、待って。そうなると、いつもいる妖精さんは仕事であたしとしゃべってたってことになるよね。仕事だから仕方なく、あたしとしゃべってたってことになるよね。
まじかー。それは、まじかー。あーあ、気づいちゃったよ。この世の闇に気づいちゃったよ。
…えーとね。
妖精さんがいる前提でいいってことになると、これから書く話もほぼほぼ幻覚ってことになりかねないから。早く本題に行けよっていう。
そうだ、買い物に行こう
でね。
休みの日程がちゃんと決まったのが4月26日だったかそのへんで、28日から9連休ということになったんです。やったね!
でも、そこに至るまでが、まー連日忙しくて。なんとか休みになったものの、2日くらいは疲れてずっと寝てたり、とっ散らかった部屋をどうにかしてたりしてたんです。
そのうち天候のせいなのか、4月30日は朝からヒドい頭痛がきてて。ぐわんぐわんしてて。
そうやって家で横になってりゃ、スマホでネットを見るくらいしかやれることがないわけ。で、見てるとさ、連休中はこんなイベントがありますよーみたいな。キャッキャしたニュースとかが目に入ってくるの。
そういうのに背を向けてきたんだから、今さらうらやましいみたいなのもないんだけど、今手にした連休の価値みたいなものは考えさせられるっていう。
そもそも今の仕事に就く前は、そんなに連休があるような職種だったことがないのね。
それが、いざ長期連休になったら現状維持が精一杯みたいな。体力の回復と部屋の片付けとかさ。
それでいいの?
いや、いいんですよ。事実、その日はバカみたいな頭痛とずっとお友達だったし、動けますかって言ったら無理っていう感じだったんだもん。
で、ストックしてあるパスタとか茹でながらさ、賞味期限が過ぎてるレトルトのミートソースをぶっかけたりしてさ。
色々考えるわけ。
咽頭癌、だったかな。そこから復活して連休前に東京ドームでライブをやったTHE YELLOW MONKEYのライブレポとかみたりして。
行きたかったなもそうだし、ライブの中継すら仕事で見れなかったし。
それより、もう新曲は聴けないんじゃないかと思ってたところからの、復活っていう。
他にも、色々思うところはあるわけ。家にいて、さいなまれてると、考えだけが進むっていうか。
これでいいの?
それでいいの?
じゃあリスクを承知で旅に出ますかっていう話なんです。誰かに迷惑をかけるかもしれないじゃない。
いつか行けるようになるからと。その時が来るからと。
ホントに?
いつかって、いつ?
明日はくるの?
オーケー、オーケー。
じゃあ、わかったと。こうしよう。
買い物に行こう。
一応、5日分の着替えとクスリを持って、買い物に行こう。ちょうどね、買いたい物があんの。切らしてるものがあってさ。買っとかないとじゃん。あ、お風呂セットも持っていこう。一応ね。万が一ってこともあるから。
ダメだったらすぐ引き返そう。いつでも止めていいってことにしよう。
ちょっと買い物に行く、そのちょっとがちょーーーーーっとになるかもしれないっていう。それだ。それだな。
そうね、衝動的に旅に出ちゃうことをよく、「翼が生えた」っていう言い方をするんです。あたし語でそういう言い回しをするんですけど。
あれだよね、なかなか羽化しないサナギが、DIYで羽を作って飛ぼうとしてる感じ。ホームセンター行ってきて塩ビの板と骨組みになるようなのを買ってきて。鳥人間コンテスト的な。羽化とか待ってられねぇっていう。サナギのまま飛ぶぞっていうさ。
9連休だからダラダラ旅を続けるってのもヘンじゃない。だから帰ろうと一瞬でも思ったら帰ると決めて、ちょっと買い物に行こうと思ったのが、4月30日の真夜中だったと思います。
通販よりも
とりあえず、暦の上では平日なんです。
だからそれほど混んでないだろうと。去年のゴールデンウィークに東北一周の旅をしてても、そういう感じだったと記憶してて。普通の平日よりは人は多いかもだけど、そうでもなかろうと。
人の多いところとか、それだけでも具合悪くなりそうだからね。
で、着替えとかお風呂セットとかを車に積んで、買い物に出かけたんです。
買い物っていうのはウソでもなくて。買いたい物があって、かつ近所には置いてないものを手に入れたいってのはずっと思ってて。
それが東北醤油株式会社が世に送る万能つゆであるところの「味どうらくの里」。これを買いに行きたいと。
あー、通販とか言ったでしょ。今、通販とか言った人がいるでしょ。アマゾンとか楽天とか言った人がいるでしょ。いるんでしょ。
それを言ったらお終いだよ。この世の終わりですよ。
あのね、世間の皆さまが連休だ何だって浮かれてる時に、宅配屋さんに味どうらくの里の1.8L瓶を5本も配達させるような鬼畜の所業をね。
あたしゃそんな子に育てた覚えはないよ。あんたをそんな子に育てた覚えはありませんよ。かあさん、いつも言ってるよね?
ひとにやさしく。
甲本ヒロトっぽく、いつも言ってるよね。言い聞かせてるよね。リンダリンダって言いながら味噌汁作ってるのはそういうことなの。あんたを一人前の立派な人間にと思って。
ノーリサーチ・ノープラン
でね。
かあさんの事は忘れて。こっちもエプロンとかしまったから。話が先に進まねぇから。
その、味どうらくの里の製造元の東北醤油のホームページがよくできてて、取り扱いのある販売店の情報が載ってるんです。
それを見ると、一番近い販売店まで車で100kmちょい。もちろん本場の東北地方、秋田まで行けばだいたいどこのスーパーでも売ってるの。
だからとりあえずその、一番近い取扱店を目指して、あとは味どうらくの里が売ってる店を辿るようにして、気がついたら秋田にいるっていう。作戦?
あの、きれいなちょうちょを追いかけてたら知らない町にいる感じ。あれと一緒だから。
で、具合が悪くなったら最寄りの販売店に寄って味どうらくの里を買って、休み休み帰ろうっていう。もう完璧な作戦ですよ。
そうなの。
今年もゴールデンウィークに東北へ行く感じなんです。
それも去年の心残りがあって。去年、東北を一周した時は福島スタートで北上して宮城、岩手、青森、秋田、山形っていう順で回ったのね。
その時のことはこのブログでもさんざん書いたんだけど、その年のゴールデンウィークは後半が仕事になってたこともあって、秋田から山形はほぼ素通りに近かったんです。
秋田は一泊したし目指してた道の駅に行ったりして、それなりに過ごしたんだけど、山形は一気に通り抜けるような感じで終わったんです。
それでいいのかと。そんなんでいいんですかと。
そういう思いもあったから、今回は山形方面から北上して秋田、もしかしたら青森。調子よかったら岩手とかさ。宮城とかさ。逆に一周したりして。なんつって。
だから、ほぼノープランですよね。調べたのはめんつゆの販売店くらいですし。今夜の宿もルートも調べてないっていう。あいかわらずな旅の始まりです。
カバンが待ってた
で、とりあえず5月1日の午前中には出発したんです。平日だったせいか下道を走ってても空いてる感じで、ひとまず順調。
でも、やっぱり連休なんだなと思った出来事があって。
信号待ちをしてて。
ふと、横を向いたら、ちょうどバス停が見えまして。ちょっとした屋根のある待合所があって、バスが行った後なのか誰もいなかったんですけど。
そのバス停の時刻表とかが貼ってある標識というか看板というか、その下にカバンが置いてあるのが見えて。それもゴロゴロ引いて歩くような、明らかに旅行用のやつがポツンと置いてあって。
カバンがバスを待ってるのかな。バスが来ると変形して人間の形になってね。普段はカバンモードで、いざとなったらヒューマノイド形態にっていう。
多分だけど、忘れ物だよね。バスを待ってて、乗り込む時に置いていったんでしょ。待ってる間に居眠り化なんかしちゃったのかな。慌てて飛び乗ったりしたのか。
バス停に誰もいないから、おそらくバスは出ていったばっかりで、あのカバンの持ち主は今ごろ車内でどうしてるだろう。
想像したらもういたたまれないっていうか。気がついた次のバス停で降りて歩いて取りに戻るしかないと思うけど、その時のやっちまった感が我がことのように想像できて。
信号待ちの、1分にも満たない間のことなんだけど。自分の後ろにも車が詰まってるから、引き返してそのカバンを誰かに届けるとかバス会社に連絡することもできないしさ。
明日は我が身なんだって、ホント。
その後も、車専用道路でビュンビュン車が走ってるような道を、日本一周してますっていうような格好したおじいちゃんが徒歩で歩いててパトカーと白バイのごやっかいになってるのを見たりして。
まだそんな距離を走ってないのに。最寄りの味どうらくの里販売店まで行ってないうちから、そんなのに出会ってさ。
んで、いつもはあまり休憩せずに一気に走っちゃうタイプなんですけど、そういうのを見たせいか余裕を持ったほうがいいなと思って。
大事を取って途中で何回か休憩したり、タイヤの空気圧が気になってガソリンスタンドへ行って見てもらったりして。
今じゃカードもそうだしQRコード決済も浸透してて、自分もaupayを使ってるんですけど、だいたいのところで通用するから便利でね。
そのaupayで支払いすると5%割引になるっていうクーポンがJAのガソリンスタンドで使えるっていうキャンペーンがあって、それも使おうということでJAのスタンドを探したりしつつ、けっこうのんびりペースで東北に向かってたんです。
夕陽にひかれて
そのあたりから雲行きがあやしくなってきて。あの、空は晴れてるの。天気いいんだ。
頭痛のほうが始まってて。
まあね、こういうのもなれたもんで、いつもの薬を飲んでおけばそのうち消えるだろうと。なんなら昨日から断続的にそうなってるけど、それもいつものことだから。そんな慌てることじゃないよと。
ただねぇ、そろそろ夕方になってきて帰宅ラッシュが始まりそうではあるし、ちょっと先を急いだほうがいいかなっていう。なんともないよ、全然普通のことだから。
そこから一気だったね。渋滞とまではいかないけど、混み合う気配の出てきた山形の国道7号線をとにかく突破して鶴岡〜酒田と通過して秋田県のにかほ市まで一気に行っちゃったよね。
よく考えたら、また山形をスルーしてるんだけどさ。いいよ、ほら帰りもあるじゃん。帰りに寄ればいいんだから。
それはともかく、その山形から日本海沿いをずっと走るようなかたちになったんですけど、この日は天気がよくて海がきれいだし、だんだんと日が傾いてきて夕陽がすごかったの。
日本海に落ちる夕陽なんてもう何度も見たし、その日が特別にってことはないと思うよ。思うけど、旅情ってやつなのか、それとも色んなことがあってのやつなのか。
とにかく夕陽が見たいと。
ついては車を停められるような場所を探そうということになり。
国道が海岸線沿いを走ってるといっても、ピッタリ海沿いを通る区間がずっと続いてるわけじゃなくて、途中途中で内陸側に離れたりするのね。
で、こういうパターンの道で海のそばで車を停めたいとなると、退避場所みたいな感じで道路脇に広く逃げられるスペースがある場所に停めるか、もしくは海水浴場の整備されてるところにある駐車場なんです。
落ちていく夕陽が視界を染めていく中、どこかいい場所はないかなと思いながらナビのマップをチラ見しつつ走ってると、広そうな海水浴場を見つけまして。
そっちの方にグイーンとハンドルを切っていくと、ちょっとした集落というか住宅地を抜けた先に車を停められる場所を見つけたんです。
車を降りて、落ちていく夕陽に引っ張られるようにして砂浜に降りていって、ずんずんずんずんと波打ち際まで来ると、間に合ったねって言いたげなさざ波と、夕陽がいて。
もうね。写真じゃわかんないけど。
ここ最近で見た夕陽の中で一番きれいだった。何枚か写真を撮ったらあとはもう、呆然と夕陽が沈むのを見てるしかなかったもん。
地球って回ってんだな、っていう。なんかわかんないけどそんなことを思ったりして。
道の駅にて作戦会議
日が暮れて。
ここでようやく、今夜どうしようかっていうことに向き合えて。
とりあえず、どこかのスーパーで夕ご飯を仕入れよう。いいもの見たし、ビールも飲もうじゃないかと。それを持って、道の駅で休もうと。
自分でいうのもなんですけど、知らない地域で知らない店とか道の駅を探す時に当たりとはいわないけど、ハズレを避けるカンみたいなものが出来てて。
経験からきてるのかなんなのか、一応コツらしきものはあるけど、それが合ってるかどうかは自分でもわかっちゃいないのね。
今回選んだ道の駅も、到着した時には大型車がズラッと並んでるけど、一般の明らかに車中泊しそうな車は10台ほどで。空いてる駐車場でいい環境だったんです。
適当なリサーチだったけどトイレの数も多いし、自販機も充実してるし、24時間営業のお風呂も併設だしスーパーはその隣にあるし。
今回はそのスーパーもお風呂も利用はしてないんですけど、利便性はいいのに空いてたっていう意味では間違ってなかったなと。
あーでも、ここに来る前に寄ったスーパーではQRコード決済どころかカードも不可っていうお店で、買った刺し身は美味かったけどできればaupayが使いたかったなーみたいなのはあったよね。
だから完璧じゃないけど、案外いい場所に当たるっていう感じで。
あの夕陽が浄化してくれたのか、頭痛も消えてくれて。それでもグッスリ休めたかといわれるとそうでもなく。
前回の東北旅で活躍したクッションを持ってこなかったのが敗因なんだけど、イマイチ寝る態勢が上手く決まらなくて夜中に起きたりして。
それでもこの時期の東北旅は2回目ってこともあって、夜の寒さ対策はバッチリだったし、寒暖差があってもいいように服を選んできたのも正解でした。
そんな感じで朝になって。
昨夜買った中で残しておいた、カットされたスイカを朝食にしましてね。
…なんだなんだ、あたしがフルーツを朝食にしちゃいけないってのか。ネギ味噌塗ったくったおにぎりじゃないとダメなのか。うん。そっちがいいな。
いや、スイカも美味かったよ。この時期にしては甘かったし。さすが熊本産のスイカっていう。
てゆーか、秋田にいるのに熊本産のスイカを食ってるってすごいよね。いいんだよ、食いたいもん食いなさいよ。
でね。
どうすんのと。これからどうすんのと。
とりあえず秋田まで来ちゃったね。よく来たよねっていうか、よく来れたよねと我ながら思うけど。
来たんだから楽しもうってことなんだけど、考えられるのは5月3日以降はカレンダー上でも休日だから、どこに行っても混んでるだろうと。
じゃあ、今日。5月2日。
ここでどう動くかっていうのが、けっこう重要だなと思って。
で、まずお風呂に行きたい。昨日、出発前にシャワーを浴びたけど、温泉がいいな。
でも、この道の駅併設のお風呂はどうなんだろうと思って調べてみると、値段は安いんだけど天然温泉ではないようだし、ロッカーとかそのへんの情報も出てこないのね。
で、実際に歩いて行ってみると、これはあたしのカンでしかないんだけど、やっぱりピンとこないわけ。
じゃあ、お風呂はどこか別の場所に行くとして、他はどうするのということになり。
そもそもが、去年そんなに滞在しなかった秋田と山形をウロウロしようというのがあるし、秋田の中でどこかないかと。
そこで思いついたのが、まだ桜が咲いてるところってないのかなって。
この時期だと、北海道でソメイヨシノが開花してちょっと経ったくらいで、青森の弘前でもとっくに終わってるような感じだとネットニュースかなんかで見た記憶があって。
ネットで色々調べてみたらそういうサイトがちゃんとあってさ。現在の桜の開花情報が載ってたんです。
それを見ていくと、秋田県内のほとんどの場所はもう葉桜になってんだけど、2ヶ所だけ満開って表記があったのね。
で、さらに調べていくと、その情報も昨日時点でっていうのがわかって、これはもう行くしかないということになり。
ひとつはダムのほとりみたいな場所で山の方にあって、もう一ヶ所はけっこう平地というか市街地の割と近くだったのね。
で、昨日の夕陽のことがあるからさ。今日もいい天気だし、あんなきれいなものをまた見れちゃうんじゃないかと思って。
そうすると山沿いより海に近いほうがいいんじゃないか、みたいな発想になって、混み合う前にと朝8時ころには出発したと思います。
さくら
着いたのは、日本国花苑。
男鹿半島の根本あたりにある井川町っていうところに巨大な公園というか施設があるんです。なんでも200種2000本の桜が植えられているそうで、5月の初旬でもまだ咲いてる桜があるらしい。
らしいというか、その手前の道沿いから緑の空間にピンクの花が咲いてるのが見えてきて。これはけっこうすごいぞと思いながら、敷地内の駐車場に車を停めたんです。
そこから見ると、ドッグランとかテニスコートとかバカでかい芝生の広場とかがあって、あちこちで桜が咲いてるんです。
入口の看板に日本国花苑じゃなくて桃源郷って書いてあっても、ああそうだねっていう感じの。どこを見ても桜だらけなんだ。
桜っていうとソメイヨシノってイメージだけど、ソメイヨシノが散った後の季節でも、まだこんなに咲いてる品種の桜があるのっていう。
気がついたら2時間いたよね。
ずっと歩き回って写真撮って、気がついたら2時間いた。そのくらい広いんだわ。ちょっとした山があったりデカい池があったりして、それでも隅々までは行ってないと思う。
あと、見たこともないデカい鳥がいる。あれなに? 小山の奥の方にある森になってる場所でぐるんぐるん飛んでんだ。
そして写真フォルダが桜だらけ。見たことのない色合いだったり、形だったりして、気に入ったのを撮りまくってて。
桜の咲く季節はたいてい写真フォルダが大変なこんとになるんだけど、それを遥かに越えて撮ったよね。
気がついたら人も増えてて。
朝からイベントかなにかの設営をしてたから、これからなにか始まるのかもしれないけど、それでも敷地の広さもあって混雑してるってほどではなくて、いい時に来たなっていう感じ。
でもさすがに出ようと思って、車を停めた方に向かって歩いてたら、ほおかむりしたおばちゃんが移動販売的な感じで立ってるの。
あれ、これってババヘラアイス屋さんじゃね?
あの、秋田で有名な、ババアがヘラでアイスを作ってくれるでおなじみの、あれだよね。
去年も東北を旅した時に見かけたんだけど、車を停められる場所がなくて買うのを断念したっけ。
そりゃ買いますよ。QRコード決済とかいいよ。小銭出すって。
で、目の前でコーンにアイスクリームを盛ってくれるんだけど、手際よくただアイスを乗せてるだけに見えて、だんだんバラの花みたいになっていくの。なんかずっと見入っちゃう感じ。
そりゃあ、撮りますよ。あたしみたいなフォトジェニックなキャメラマンは撮りますよ。バエルってこういうやつなんだろ?
さぞ、ばえるでしょうよ。チルいでしょうよ。ナウなヤングにバカウケでしょうよ。ええええ。
またさ、アイス食ってもいいような陽気なんだわ。バカみたいにいい天気なのに暑すぎないっていう。
あのね。
来てよかったよね。そう思う。
温泉でタイ料理
この2時間でガッツリ歩いたし、さすがにちょっと汗ばんだりしたし、もう温泉に行くしかないんです。
で、ババヘラアイスを食べながらネットで近くの温泉を探して、検索結果からここじゃね? っていう感じですんなり選べたんです。もうフィーリングのみで旅してるよね。
そこがまあまあ山奥にあって、ざっと調べたらリニューアルしたらしくロッカーもあるみたいだし天然温泉で加温とかしてないっぽいし、お昼近いけどそんなに混んでないんじゃないのと。
ナビに従っていくと途中の道や温泉の入口あたりはけっこう細い道だったんだけど、無事に辿り着けました。
湯の越温泉というところでね。
駐車場はオール秋田ナンバーで、垢抜けた大きな施設じゃないけど地元の人から愛されてるんだろうなっていう感じ。
地元の人が集まってるところに、上手く入り込めないなと思っちゃう時とするっと入ってしまえる時があって、この時は比較的後者に近い感じだったと思います。
入口のすぐ脇に券売機があって、もちろん現金オンリー。QR決済とかもういいよね。
受付で券を渡せばもう入ってよしっていう。無料のロッカーもあって、旅してると防犯とかそういうのも気になるのでありがたいんです。
脱衣所にロッカーはないけど、パッと見で入浴中のお客さんは数人しかいないっぽいし、用意されてるカゴに服を入れてお風呂場へ。
お湯は白っぽくて濁りのある感じ。温度は熱すぎないので長湯できそう。ゆっくり、のんびりできてここで正解っていうか。混み合う時間帯もありそうだけど、とにかくいいタイミングで来たっぽいなという感じで居心地良く過ごせました。
湯上がりに休憩してると、遠くの別の休憩場所で風呂上がりのばあちゃんたちが談笑してるわけ。
さっきの日本国花苑でもそうだったけど、知らない人たちが朝の散歩とかしてんだ。しながら、多分このあたりの言葉でなんか楽しそうにしゃべってるの。
こちとら旅人だからさ。部外者だから。
だけど、その土地の日常が見えて、みんなここで生きてるんだなって、いまさらながらそう思って。
混ざれるんじゃないかな。
混ざれないな。
それを肌で感じにきてるところはあるよね。旅する意味のどこかに、そういうのを探してるって部分はあるんだと思う。
今いる人たちを退けてまでとは思わない。混ざれないなら違う街へ行くだけのこと。それだけ。
でね。
温泉の受付の時点でも気がついてたんだけど、タイ料理500円って張り紙があって。
タイ料理? って思ってると、受付の脇にお弁当がズラッと並んでるのを見つけて。
これがね、どう見ても美味そうなの。
買うよ。
だって朝食がスイカだぜ?
その後、桜につられて小山を登ったり下りたりしながら2時間歩いてんだから。アイスは食ったよ。食ったけど腹はへったっての。
当然、現金オンリーですよ。QRってなんですか。入館料が500円だから、千円札で支払うとちょうどお釣りでお弁当が食えるんだよ。よくできてんだ。
そしたらなんか、その温泉が作ってるってわけじゃなくて、多分近隣にあるんでしょう。タイ料理のお店かなんかがここに持ってきて売ってるみたいなのね。
だからレジが別で。別っていうか受付のカウンターに置いてある貯金箱に500円入れてくれっていうの。
そんなことある? ってゆーか、その感じなの?
なんかその、QR云々ってずっと書いてるけどさ、最新のシステムに慣れちゃった自分からすると、この感じでなんとかやれてるってのもすごいなと思っちゃうよね。
久しぶりだったな。小銭を貯金箱に入れるっていう。お賽銭とも募金箱とも違うじゃん。しかも自分の貯金箱じゃないからね。
またさ、ガパオライスが美味いんだ。けっこう辛めなんだけど、もういっこ食えそうな感じで嫌な辛さじゃないわけ。ちょっとカリッとした目玉焼きが乗ってたりして。
あのね。
昨日はこんなふうになるとか、まったく予想もしてないんです。
味どうらくの里を買いに行きたいな。できれば秋田まで行けたらな。そりゃお風呂もどっかで入りたいな。飯もなんか食うだろうな。
このくらいまでしか予定してないわけ。予定っていうか予想、どっちかっていうと空想だよね。
まさか桜満開の場所でババヘラアイス食ってるとは思わないからさ。
秋田の山奥の温泉でガパオライスが売ってるとは思わないから。その代金を貯金箱に入れる時が来るとは思ってないから。
こういうのがいいの。
リサーチして予約して当然そうなるよねっていうアトラクションを体験してなるほどね、っていう旅より、こういうのがいいの。
もちろんトラブルはやだよ。嫌だからまったくリサーチしないわけじゃないけど、その場所に行ってその時の感覚で決めたいっていう。今行きたいところに行って、ガッカリなり大喜びなりしたいっていう。
約束の言葉
もう、1万文字をとっくに越えてるので、ちょっと端折りますけど。
じゃあ冒頭の暗い話いる? いやでも、あれがあってのこの旅の楽しさなんだもん。ぐずぐずうだうだがあっての、その裏返しなんだもん。
でね。
そのガパオライスは温泉を出る時に買ったので、どっかで食べようってことで最寄りの道の駅まで行ったんです。
食べ終わったあとで、ひとしきりその道の駅を散策してさ。
ちょうどいい風が吹いてて。ベンチで腰掛けたりして。
もうこのまま夜までいていいよねっていう。夜は夜でどっかでご飯買ってきて、そうすればいいよね。
じゃあ、明日からどうするのと。
もっと北へ行っちゃおうか。青森とか。
それとも山の方に来ちゃったし、そのまま山を越えて横手とか岩手県の方へ行ってもいいな。だってまだ休みなんだもん。5月3日から…
あれ。暦の上でも明日から4連休か。
今思えばここで、なんかヘンなことになってきたんだよね。体調面じゃなく。
思えば、今日が楽しすぎると。今日っていうか昨日見た夕陽以降、ちょっと不思議なくらい上手くいってて楽しすぎると。
これは明日以降も続くのか?
浮かれちゃってる自分に気がついたっていうか。明日から激混みだよね。どう考えても、どこに行ったって混雑してるよね。
今日の楽しさは、基本、人の少なさで成り立ってるっていうか。なんか自分のカンでいい所ばかりいってるふうだけど、ただ混雑してないっていうだけでさ、一歩間違うとこの旅の印象がガラッと変わるんじゃないの?
もうね、情緒が不安定。なんなの。ちょっと前にババヘラアイスと桜の写真撮ってたとは思えない、テンションの下りっぷりというか。
ぶっちゃけ、明日以降は居場所がないなって。そんなに予感が当たるなら、この予感も当たるよねって。
だったら、今日が良すぎたからいい気分のまま、帰ってもいいんじゃないの、って思っちゃったんだよね。
…今、思ったよね。
帰ろうと思ったら帰るっていうルールだったよね。
どこへ帰ろう
反故にすりゃいいんだよ。自分で決めたルールなんだから。でも決めたよね。そう決めたからそもそも出発できたんだもんね。
それを楽しくなったからあれはナシでってズルくないか。
ズルくないんだよ。別に誰にも言ってないやつなんだから。ズルくも悪くもないんだけど、その、道の駅のベンチでさ。フラットに色々考えて、自分の中のなにかに一番寄り添った答えが、この旅はここまでかなっていうことだったんだよね。
帰るっていったって、かなりの距離があるんです。ルート案内で調べると、スムースに走って明け方に着くっていうくらいの距離感なのね。
じゃあ、途中にいくつも道の駅があるから、今夜なら車が停まれないほど混んでないだろうし、そこで休もう。出発と同じ、行けるところまで行こうということで、秋田を後に…
いや待って、味どうらくの里を買ってないって。
あと、なんかちょっとしたお土産もなにかしら欲しいじゃない。それくらいはいいよね。いいよね。
誰に確認してるの。あたしだよ。自問自答がすぎる。
その時点でもう夜だったから、行きたいと思ってたスーパーに寄って、とりあえず晩ごはんになるようなものと味どうらくの里の大瓶をふたつ買いまして。輸入です。完全に輸入業者です。
あとお土産代わりに秋田のお菓子のバター餅とかを手にとって、今度こそ秋田を後にしたんです。
その後もどうかしてたんだと思うけど、なぜか立ち止まりたくなくて。よっぽど楽しい思い出を汚したくなかったみたいで。ある意味、逃げるように。もう延々と走りまして。
また思った通り、道も空いてたんだ。その思った通りっていうのも、続きすぎると後が怖いみたいな根拠の一切ない謎の気持ちになってくるっていう。
で、また山形はスルーだよね。信号待ち以外で止まってないよね。なんなの、また来ればいいの? なんか前回もそんなこと書いた気がするけど。
前回の旅つながりでいうと、ここからはもう蛇足ね。蛇足ってわかってんなら書くなっていうのもあるよ。あるけどしょうがないじゃん。なにがかはしらないよ。
前回の東北旅の話の中で、道を間違えて行った先にあったデイリーヤマザキで、目の前に建ってるパン工場で作ったパンを売っててそれが美味かったっていうのがあったのね。
お土産に買ったバター餅が、そのパン工場の会社が作ってるやつでさ。こんな偶然ある?
そりゃ、あり得るよ。秋田のパン屋が作ったものが秋田のスーパーで売ってんだから、あっても別におかしくはないよ。
でも前回の旅で道を間違えなかったら、そもそもこのパン屋を知らないわけだし、今回だって急に風に吹かれたみたいに帰るって言い出さなかったら、それこそ道の駅とかのお土産売り場で別のものを買ってた可能性だって充分あるじゃない。
しかもパンを買ったんなら前回のことを思い出すかもだけど、バター餅も作ってるとは思わないから。家について食べてる時にパッケージを見てて、なんか見覚えのある名前だよなと思って調べたらそうだったんだから。
バター餅も美味かったな。クセになる感じ。もうひとつ買ってくればよかった。
なんですかね。なんなんですかね。
こんなのばっかりだよ。こんな旅ばっかり。
そんな。そんなだよ。また行くよ。