2024年末の旅話 その2

2025年1月2日木曜日

#2024年末の群馬旅 #ドラクエウォーク #旅

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 旅先の朝。

 2024年の年末にしぼりだすように旅に出まして、例によっていつものごとくノーリサーチノーリターンな感じで右往左往しております。

ハナホテル伊勢崎

 泊まったのは伊勢崎市にある、ハナホテル。

 駅からはバスで一本。がんばれば歩いていけなくもない距離にある、天然温泉付きのビジネスホテルです。

ハナホテル

 ウェルカムなんちゃらって、あるでしょう。コーヒーが飲めたり、ちょっとしたお菓子とかがもらえたり。

 ああいうのっていつから浸透しだしたんですかね。旅館に泊まれば和菓子とかが置いてあるってのはあったけど、ビジネスホテルみたいなのって昔はそんなのやってたかな。

 このハナホテルはウェルカムドーナッツってのをやってて、ちょっとしたケースの中にドーナッツが飾ってあるの。

 写真を撮ってないんだけど、壁掛けのケースに帽子掛けみたいな小さい突起が出てて、そこに小さめでカラフルなトッピングがされたドーナッツが掛けてあるのね。

 写真は撮ってませんよ。前回書いた通り、凍えきってるんだもん。フロントのお姉さんの説明も七割くらい聞き逃してるくらい、寒くて寒くて仕方ないんだから。

 それで、部屋に辿り着いて。

 お部屋は正直、古さは否めないんです。平静初期とかあたりの、ユニットバスの入口がやたら高くなってる感じのビジネスホテルっていうか。

松下電工
松下電工 National

 フロント周りはそんな感じがしないので、軽くギャップがあったんですけど、まあこっちもそういう新し目でオサレなのを求めてないからまったく問題ないんです。

 あ、古い感じはしても清掃はちゃんとされてる感があって、滞在するのにまったく不自由はありませんでしたから、そこは読み違えなく。

 朝食バイキングも付いてて、温泉もあって、アメニティ類も特に不足はなくて一泊約6千円とかなら、今のご時世は破格かもしれないよね。

 もっといいところに泊まりたいならもっとお金を払えばいいし、そういうのを求めるならそれに合った宿は探せばいくらでもあるわけで。

 要はバランスなんだと思うんです。あたしはけっこう気に入りました。

歩いて行こう

 ただまぁ、ホテルの近くには目ぼしいお店、食事とかができそうなところはどうやらなさそうで。ドラッグストアが一軒あるくらい。お蕎麦屋さんみたいのはあったかな。

 そういうのがありそうなエリアは、宿からちょっと離れてるのがわかりまして。といっても、伊勢崎駅からバスで10分とかなので遠いっていうほどでもないんです。

 じゃあ、どのくらい離れてるのか。

 今回の旅のテーマが歩くですから、昨日はバスでここまできたけれど今日は歩いて回ろうということで、ホテルを出たのが午前9時くらいだったと思います。

 連泊にしてたので、着替えとかの荷物は部屋に置いて身軽な感じがすごく快適です。

 空を見上げれば快晴でね。

 今年の冬にどこかに行こうってのは、しばらく前から漠然とは思ってて。

 だけど元々計画性のある旅なんかしないし、仕事もどうなるか不透明だったから具体的に地名を挙げて考えるってことはなくて。

 でも、太陽の出てるところに行きたいなとは思ってたの。だってもう数週間とかずっと雨だったり雪なんだもん。

 だから晴れてる空を見た瞬間、目標達成っていうか。そもそもの目的は達成したなっていう。

 ホテルで朝食を食べに食事処のある一階へ降りた時も朝焼けがきれいだったので、いい天気なんだろうとは思ってたけどこれがポカポカなご陽気で。

 あったかいの。服装をどうしようかかなり迷ったけど、少なくとも昼間はパーカーで正解だったな。

 久しぶりに太陽を浴びてる感じっていう。昨日までの大雪な日々と比べると国が違うっていうか。

 で、ここぞとばかりに、ここ数年ずっとやっててブログでも時々登場するドラクエウォークっていうスマホゲームを始めまして。

 要は実際に歩くことで、ゲーム内のキャラクターもGPSとかでそれに連動してゲーム内のフィールドを歩くっていう仕組みで。

 実際に歩くことがゲーム内で目的地に辿り着くこととイコールになってて、そうやって冒険を進めていくみたいな遊びなんです。

 で、冬になると歩くこともままならないわけ。雪がすごいんだもん。あと基本が車社会だし。冬はとにかく歩かなくなるのね。歩かなくなるっていうか、歩ける場所がかなり限定されちゃう。

 だからドラクエウォークをやるのに、雪国は向いてないんです。

 それで、どうせホテル周辺とかのリサーチをしてないし、変な予備知識のない状態でウロウロしつつ、ドラクエウォークも進めようっていう感じ。

 もうひとつは、この前買ったスマホのAQUOS Sense9がメモリに余裕があるおかげで、ドラクエウォークを起動しつつ途中で見つけたなにかをカメラで撮ったり、もしくはちょっとツイートしたりしてもアプリが落ちたり発熱したりしないっていうのがあって。

 機種変する前はカメラとドラクエウォークが共存しなかったから、古いスマホをカメラ代わりに持ち歩いて対処したりしてたんだけど、それはそれで面倒でさ。

 せっかく街歩きをしてるのにゲーム画面に気を取られて、なにかを見落とすのもつまらないじゃない。

 ドラクエウォークはウォークモードっていって、スマホを見てなくても自動で敵と戦ったりアイテムを拾ってくれるようになってるんだけど、しばらくやれてないぶん色々なイベントを進めるのに信号待ちとかで色々確認もしたいんです。

 だからスマホはいつでも取り出せる状態で、知らない街を歩きはじめました。

 歩きはじめたとか美化しちゃいけないか。徘徊だよね。むしろ遭難かもしれない。

浮遊感

 最初はよかったのね。

 天気もいいし、なんだっけ、太陽を浴びるとなんか体内で作られる、ドデカミンだっけ。シドロモドロ酸だっけ。ペピロドパピピドププッピドゥ酸ナトリウムだっけ、そんなのが作られるんですよ。

 そう、セロトニン。だいたい合ってた。

 なんかそんなのが体内で生成されて、色々いいんでしょ? なんかそんなにあったよね。なんかしらないけど、ちょっといい調子になってきた気もしちゃうっていうか。

 それに加えて、旅してる感もあるわけで。

 見知らぬ街をなんにも目的なしでただただ歩くっていう、そこで偶然見たもの聞いたもの気が向いたなにかが尊いっていう、あたしの思う旅の感じそのものがぎゅっとなってて。

 ドラクエウォークもやってて、停滞気味だったイベントをここぞとばかりにクリアしてるしさ。新年からまた新しいイベントが追加されるから、これはこれで忙しいんだって。

 楽しそうでしょ。実際、楽しいんだよ。

 でも、どうも変なの。

 浮遊感があるのね。歩いてても地に足がついてない感じ。地面が揺れてるような、自分がまっすぐ歩けてないような。上手く言えないけど歩いてて手すりがほしいなっていう、この感じわかりますかね?

 多分、乗り慣れてない新幹線とか電車バスにさんざん乗る羽目になって、元々壊れ気味の三半規管がいよいよどうかなっちゃったんだと思うんです。

 それで、ちょっと休んだり。また歩いたり。いやまだちょっとダメだってなってまた休んだり。

 これがね、だんだん悪化してるなって感じになってきて。

 わかってるの。なっても不思議はないんだ。自分の身体だからね。

 で、クスリを飲んでみたりして。

 あと、歩いてると猛烈にお腹が痛くなるんです。いつからだろう。ここ数年はとくにそうなりがちで。

 近所の散歩くらいの距離ですら、お腹が痛くなって急いで帰ってきてはトイレに駆け込む、みたいなことがままあるのね。

 どうやら歩くと腸を刺激するのか詳しくは知らないけど、歩くことにそういう効果自体はあるらしいんです。かといって、あたしの場合なんか極端すぎるというか。

 でもさ、ちょっと変だと思ってちゃんとした喫茶店とかで休むのもいいんだけど、もしもハッキリダメだってなった時に迷惑をかけちゃうじゃん。ワンチャン、救急車とか呼ぶ羽目になったらさ、年の瀬に申し訳ないっていうか。

 だから、なるべくのんびり歩いたり止まったり。

 で、これはいったんホテルに戻ろうってことになり。結局たいして歩かないまま、逆戻りすることとなりました。

徘徊再開

 で。

 もう日が暮れて。寝たり起きたりしてたらちょっと落ち着いてきて。

 さすがにお腹が空いたと。でもこの周辺にはなにもないのは昼間の街歩きで把握できてると。

 ホテルにも食事処はあるんだけど、ふらっといって注文できるのかは定かじゃなくて。いや、フロントで聞きゃあいいんだけど、それも面倒じゃないですか。

 こちとら、そういうのも面倒に思えるくらい、基本こっちから人と接しにいかないのね。

 不思議とスルッと話せちゃう、タイミングというか、それもまとめて縁だと勝手に思ってるんだけど、そういうのが自分に降りてこなければこっちからはいかないんです。

 そんなことするくらいなら、エサを探しに出かけちゃおうということになり。

 昼間の件もあるから、ご飯を食べられそうなお店が固まってるエリアへまっすぐ行ってみようと。

 最悪、スーパーが一軒だけあるからそこに行ければいいし、なんならホテル方面に向かうバスのルートも把握してるし、タクシーだって使えばいいんだよ。それくらいの手持ちはあるんですよ。

 それで、また歩いて街へ行ってみるんですけどね。

 夜だから。

 寒いんだ。

 でも昨日よりはあったかいはずなんだよ。街なかに設置してある温度計を見ると5度なんだから。

 …5度?

 あれ、今見たら4度になったぞ。急激に冷え込んでないか?

 そっから早歩きだよね。昨日さんざん凍えきったばかりでしょうが。寒いのにのんびり歩いてらんないよ。ドラクエウォークとかやってる場合じゃないから。

 それで、一応ネットをさらっと見た中で、ここはどうやらよさそうな感じのする居酒屋を一軒、あと焼き鳥屋も一軒、目星をつけてあって。

 こういう、ネットの情報から自分に合ってそうな店を見つけるのが、昔から下手ではないんじゃないかと思ってて。意外とそれなりに当たりと思える店を見つけられるっていう実感はあるんです。

 もちろん失敗もあるけど、旅先で店構えを見て飛び込みで入る方が上手くいかない場合が多いっていうか。そっちはセンスがないみたいで。

 ホテル探しもそうだし日帰り温泉とかさ。ネットでアタリをつけるのが、まあまあその、そんなに見る目があるとまでは思っちゃいないけどさ。

 あたしの場合は、出発するまではあまりリサーチしないんです。楽しみがなくなっちゃうもんね。行ってみてからってのが大事っていうか。

 あと、行き当たりばったりもいいとろだから。

 今回は自分にしてはかなり前にホテルを取っちゃったんですけど、基本はその日とか明日の宿を探すってパターンがほとんどなのね。

 だって、どこに行くのか、自分でもわかってないんだもん。行きたい方に行くのが旅だから。事前に計画なんか立てられないの。その日の自分が行きたいのはどっちかなんて、その日の自分にしかわかんないから。

 あたしゃね。あたしゃそうだからさ。

いいなと思った居酒屋で 

 だからその自分なりの見つけ方で、いいなと思った居酒屋に行ってみたんです。

 言葉じりだけど、いいねってなんかフィットしないよね。上からっていうかどの位置からっていうか。

 そうじゃなくて、いいなっていう感じ。ちょっと寄り添い感のある、ね。

 ナビアプリの地図を頼りに行ってみると、そんなに大きくない一軒家みたいな建物が見えてきて。裏側のほうから近寄る形になったんですけど、暗い通りに灯りがもれててさ。

 想像してみてほしいんですけどね。初めてきた住宅地っていう感じの、それほど広くもない夜の通りをヒタヒタと歩いてて。

 先を見るとその細い通りが、大きな通りにぶつかるのかちょっと広がってる感じがするの。その角に周辺の家々の窓明かりとも違う、なにかお店じゃないかなっていう灯りが辺りをぼんやり照らしてるのが、建物の裏側から見えてくるみたいな。

 歩いてるこっちがらからは、そのお店の正面が見えない位置関係なわけ。近寄っていって、ぐるっと回り込んで見るまでの、なんていうの、期待感というかさ。

 伝わってるかな。ちょっとわくわくするっていうか、もうすでにいい雰囲気なの。

 で、正面に回って第一感。パッと見で、これはいい店なんじゃないのっていう。

 まず窓から中が見える。

 これが田舎のスナックみたいに窓もない感じのさ。小さい看板に「あざみ」って書いてあるだけの。

 普通ならカラオケできますとかさ、料金体系はこうですみたいなのがあってもよさそうなのに、あざみ以外に一切情報のないスナックとかあるじゃん。

 玄関のドアのギリまで近づくと中の話し声がちょっと聞こえてきたり、もしくはおっさんのカラオケの声がかすかに漏れてくるような店は、やっぱり入るのに勇気がいるじゃん。

 そうじゃなくて、窓があって店の中が見えるってのは雰囲気が掴めるからいいんです。

 で、店員さんが比較的若い。それもダラーっとした人じゃなくて忙しいフロアもちゃきちゃきこなせるような空気の、シュッとした若いスタッフがいると加点ですよね。

 この店もまさにそんな感じで、カウンターと小上がりだけの小さなお店なんだけど店を仕切ってると思しき男性がいて、若い男の人と女の人が常に動き回ってるのが見えたんです。

 これはいい店だ。間違いないと。

 ただね、ついでに見えるんですよね。満席なのが。

 カウンターの隅から小上がりまで、どっからどうみても満席なんだ。いい感じで盛り上がってるのが見えるよ。まだ帰りそうもないのも窓越しに見えちゃうよて。

 いいお店だと思いますよ。思うけど入れないんじゃさ。そうなると話が変わってくるわけで。

 もちろん、もう一件の焼き鳥屋も満席ですよ。いい店だったよ。パッと見はいい店だった。入りたい。いますぐ入りたい。なぜなら寒いから。気温がぐんぐん下がってるから。

 でも満席なんだよ。満席なんだもん。満席かぁ、満席だなぁ…

 そりゃぁそうだよ、夜の一番客が多そうな時間帯の流行ってる店には、客が大勢いるに決まってるよね。いくら年末だからってさ、空いてると思う方がどうかしてんだって。

未練坂はいつも下り

 さあ、どうしよう。

 気温が下がり続けてる伊勢崎の街で、メシを食うところがないの。

 確かにこっちにもちょっと色気があってさ。

 旅先で、しかも車の運転のない徒歩の旅でね。

 お酒を飲みたいじゃない。飲んでもいい環境じゃない。

 ふらっと入った居酒屋で、カウンターの片隅が空いてますと。

 お、サッポロの赤星が入ってるじゃない。お通しもちょっと地元の食材の美味そうなやつでさ。

 群馬だからもつ煮かな、なんつって。で、ひもかわうどんでシメたりして。

 待った待った、シメのことを考えるのは早すぎだろうと。とりあえず手書きのオススメから適当に見繕ってね。

 適当に客の入った店内で、うすーく流行歌が流れてて。今年の紅白は誰が出るんだっけ、みたいなさ。普段どうでもいいと思ってるようなことをぼんやり考えてると、おまちどうさまーなんつって。

 料理を運んでくる手際も見事なおねえさんが、テーブルの間を泳ぐように動き回ってる。お客さんを捌く感じも手慣れたもんで、小気味よく店を回しててね。

 そういう店で、ガブガブと飲むようなのはイキじゃないんだよ。瓶ビールから手酌でさ、のんびりやるのがいいんだ。

 それを誰ひとり顔見知りのいない、それどころか今日初めて流れ着いた街の片隅で、そこに溶け込めもせず浮きもせず木の葉みたいに漂う自分を落ち着かせるのには、そういうのがいいんだよね。

 …はい?

 …なに言ってんの?

 なにこの、孤独のグルメ劣化版みたいなのは。いつからこうなった? そもそもこんな話してた?

 満席だって言ってんだろうよ。

 店に一歩も。

 まだ一歩も入れてもいねぇのにグルメってんじゃないよ。どうすんだよこれから。

 それでもうしょうがないから、灯りがついてる通りを選んで歩いていくんだけど、空いてる店なんてないわけ。かっぱ寿司も満席。マックのドライブスルーも長蛇の列。すき家のイメージキャラクターの石原さとみがかわいい。な?

 そうなるんだって。寒いんだもん。なんで歩いてんの? そんな人いないよ。みんな車で来てるよ。

 で。

 ようやくガストなら席がありそうってなってね。

 あそこも外から中が見えるから。だからガストもいい店なんだよ。いい店なんだけど、こっちは旅先でふらっと入った居酒屋で一杯っていうのに未練があるからさ。

 そりゃあ、未練があったっていいだろうよ。いっつも車中泊の車の中とか、ホテルでスーパーのお惣菜と缶ビールとかなんだから。家で飲んでるのと変わんないんだもん。

 今なら久しぶりに居酒屋で一杯っていう、ある意味コスプレ。そういうシチュエーションに自分を放り込むという意味じゃコスプレに似ていなくもない、そういうことができるっていう未練を断ち切れないわけ。

 だって今日は12月30日なんだよ。明日は大晦日でしょ。明日には家にいたいの。去年は地震で大変だったお正月ののんびり感を今年はちゃんと味わっておきたいの。

 だから今日しかないんだって。今年2024年の最初で最後の居酒屋チャンスなんだって。

旅人の直感

 これはもう、最終手段を使おうと思って。

 えー、ひとり焼肉を解禁します。これより、ひとり焼肉を解禁いたします。

 これはいっただろう。封印を解いただろうよ。

 ひとり焼肉だよ。12月30日に。記念日でもなんでもないのに。しかも知らねぇ街で。切羽詰まった顔で。

 いやね、別にひとりディズニーランドよりは抵抗ないよ。ひとり桃鉄よりも抵抗ないよ。ひとりラウンドワンより全然OKだよ。

 別に、肉くらい焼くだろうが。わざわざやらないだけど、やろうと思えばひとり焼肉とか全然ですよ。

 そもそも、ひとり焼肉ほど、ひとり旅にピッタリな食事はないんですよ。

 そのへんのラーメン屋とか居酒屋よりも特別感があるし、ハズレに当たる可能性も低い。肉なんかたいてい焼けば美味いんだから。

 確かに値段は、普通の飯屋で食うよりはかかるけど、なんかしらないけど地元のお客さんがそんなにいねぇ気がするなっていう、B級グルメオンリーで押し通そうって腹の派手なだけの店とかよりはよっぽどいいと思うのね。

 うん。防御策は完璧に張ってあるね。展開済みだね。予防線と言い訳の準備は完璧だね。

 で。

 グーグルマップの検索窓に禁断のワードを、「焼肉」って。入力して。

 あとには戻れねぇから。こっちはもう追い詰められてますから。年末の夜の伊勢崎で寒さに震えながら入力してんだぞ、こっちは。

 それで、検索候補に出てきた歩いていける範囲で見つけたお店に行きましてね。

 まず、入口前に並んでる客がいない。これで第一関門クリアですよ。店の前まで行列が出来てたら入れるわけがないからね。

 次に、店の駐車場に車が停まっててなおかつ、数台の空きがあるのを確認。

 この寒いのに駅前でもなんでもない場所にある焼肉屋に来るには、普通に考えて車でしょう。で、客付きはあると。さらに駐車場に空きがあるってことは、店内にもまだ余裕がある可能性があがるわけ。これで第二関門をクリア。

 さすがに外から中が見えるようにはなってないから、ここはもう入ってみるしかないっていうことで、入口のドアを開けまして。

 もうね。

 あたしくらいの超一流の旅人になりますとね。わかっちゃうんだな。天才だな。

 入口のドアにちょっとしたガラス窓があって。ドアノブに手をかけて開けるまでのほんの数秒、いや一秒にも満たない間にガラス窓から見えた中にいる店員さんの表情でビビッときまして。

 それを言葉にするなら、そうね。

 おいおい、また客が来たよ…

 ん? ってなるわけ。

 あの店員さん、今確かに、おいおいまた客が来たよって顔、したよね。

 ドアを開ける手は止まらないよ。止めようもないよ。

 もうね。わかってる。わかってるけど一応聞いたら、お時間がかかりますって。

 今、7組待ちだって。

 あたしの前に7組待ってるんだって。

 仮にね、1組あたり10分で。

 もう、ぼうんぼうんに炭を起こしといてさ。網の上にガサーって上カルビをぶちまけて。

 なんなら網じゃなくてサラダ油しいたフライパンでいいよ。特上も頼みゃあいいよ。それでガツガツガツガツって食って出れば、10分で1組消化できるから。

 それでも1時間以上かかるんだよ。

 もしかしたら、最近じゃそういうのもあるときくから、グループ以外のおひとり様用の席が上手く空いてくれれば。

 あたし以外に、どうしてもひとり焼肉がしたいのですっていう、脳が牧場でできてるような客がいてさ、エバラ焼肉のタレをドバドバかけて食い終わりさえすれば、あたしの番が早めに回ってくるかもしれないけどさ。

 ないよね。

 年末の大掃除も終えてパパの仕事もようやく一段落ついた家族連れが、専門学校に行ってて帰省してきた長男も揃ったし、たまには肉でも焼こうじゃないかっていうのが7組いる可能性が高いよね。

 そこからまた真冬の街に戻ってさ。

 行くあてもないんだ。居場所もないんだ。

 正確には、とぼとぼと焼肉屋から戻る途中で見かけたイタリア料理の店が一軒、おいおいどうしたっていうくらい空いてるのが外から見える店はあったよ。

 他は満席だらけなんだぜ?

 ワナだよね。絶対ワナだって。ピザに生ビールでもいいかなって一瞬思ったけど。あんなのワナに決まってるって。寒いし。きっと幻覚だよ。そんな幻覚も見えるって。

浮かばれない話

 まずいよ。

 このままじゃ夕ご飯がガストになるから。いやガストも悪くないよ。悪くないけど、今日じゃなくていいよね。いいですよね。

 それも別に空いてるわけでもないしさ。わざわざ行って、待ってる他の客がぜんぶ三人以上で空いたのが二人掛けの席だから、っていう理由で店内に通されでもしたら、もういたたまれないしさ。

 で。

 そういえばスーパーが一軒あったなってのを思い出して。閉店時間を調べたらあと30分というのがわかり。

 とりあえず行ってみようと。閉店間際だし食えるものはもうなんにもない可能性が高いけど、このまま夜の街をさまようよりはいいだろうってことで。

 で、行ったら7割引のお寿司とかが置いてあるの。半額のお惣菜もまだけっこう残ってるんだ。

 もうこれでよくね?

 居酒屋の片隅で手酌にビールでもつ煮なんてのは、バカが作り出した幻想だと。

 地酒の熱燗を、板さんが黙って出してきた下仁田ネギと豚バラを甘辛く煮たので飲み干すなんてのは、大悪魔ゲロドリアがあたしにかけた黒魔術だと。

 そんなものは隻眼の群馬大魔王ダルマーが生み出した偽りの、ひとり旅に来てよかった感満載の夕ご飯像なんだと。

 そうなんだよ。そうに違いないよ。目が覚めたね。そんな上手いこといくわきゃあないんだよ。

 7割引のお寿司と他にもお惣菜を買い物かごに入れましてね。

 缶ビールも入れまして。あ、夜中にお腹が空くかもしれないしってんで、カップヌードルも買いまして。やっぱビジネスホテルで食うカップヌードルは最高だよな! なんつって。

枝豆とビール

 帰ったよ。歩いてホテルに帰ったよ。

 てゆーか、まだ3日目があるのに、また9千文字とかになってるんだけど。なんでなの。

 これでもけっこう端折ってんだよ。

 こっちが新幹線の改札手前でSuicaにチャージしてる最中に「すいません新幹線の乗り場はここですか」って聞いてきたおっさんの話もあるんだよ。

 あんたの目の前に新幹線改札って書いてあるだろうが。あたしの他にも、もっと目立つ位置に立ってる客がいるだろうがよ。なんでわざわざこっちにくるのさ。

 そして新幹線の改札に行かずに去っていくっていう。なんなの? 下見なの? なんの確認なの?

 そんなことも全部書いてるから長くなるんだって。知ってるよ。でも書いとかないと浮かばれないじゃない。この旅が浮かばれないじゃない。

 そんなだよ。そんな。

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