あのね。
外出先で、もう夕方になってて。
夕陽ももうすぐ落ちちゃいそうな、これからどんどん暗くなるような時間帯で。
唐突にラーメンでも食うかってなって。
たまにはいいですよね、ラーメンくらい食ったってバチは当たんないよね。そんな日の話なんですけど。
毎度おなじみ、本文とは一切関係のない桜です |
初めて行ったラーメン屋にて
でも、その時いた場所は、生まれて初めていったとかじゃなくて。土地勘とかがなくはないけど、どんなラーメン屋があるかとかまでは知らない、みたいなところだったんです。
じゃあどうしようってなって。
とりあえずグーグルマップで、「ラーメン」で探して一番最寄りのところに行ってみようってことになりまして。
今じゃなんでもネットで調べられるじゃないですか。
だから星の数、評価とか口コミみたいなものを気にして吟味してもいいんだけど、今日は日曜だしこんな時間だし、これからどんどん混み合っていくのは目に見えてるわけ。
なので、とにかく一番近くて、変に小洒落てない感じのさ、なんかそのわかんねぇけど写真撮るためにラーメン作ってる感じの、あるじゃん。おしゃれラーメン屋じゃなきゃいいやって思って。
で、ネットで適当に探した、初めて行くラーメン屋まで車で5分くらいかな。
そこは駐車場が店からちょっと離れた場所にあるらしく、ルート的にはお店の前をいったん通り過ぎないといけないのね。
で、通りすがりにお店の中をちらっと見た限りでは、お客さんもそこそこいるけど混んでて座れないってほどじゃなかったの。
あー、よかった。ちょうどいい感じじゃんと思って。サッと決めてパッと来て正解だったなと。
で、駐車場に車を置いて。お店まで1分くらい、歩いていくんだけど。
今思えばだけど、その間めずらしくわくわくしてた気がするの。おなかすいてたってのもあったし、初めて行くっていうのもあったのかな。どんなラーメンかなぁみたいな感じで。
で、行ってみたら、「空いてる席どうぞー」なんて言われて席に案内されたんだけど。
すぐに若そうな、っていうか高校生くらいの男の子の、きっとバイトだと思うんだけど。その子が来てさ、
「あ、すいません。今日材料が切れてしまいまして」
っていうのね。
材料ってなんだろうって一瞬思ったけど、要は麺とかスープがもうないってことなんだろうと理解して、あーわかりましたぁまた今度って、お店を出てきたの。滞在30秒くらいだけどさ、仕方ないよね。
その一瞬だけ座った席から立ち上がって、ラーメン屋の玄関を抜けるまで10歩もないくらいなんだけど、そのわずかな間にその店の女将さんらしき人がさっきのバイトの子に向かって、
「チャーシューはないけど、麺はあるんだからね!」
って言ってるのが聞こえたの。小声とかじゃないよ。ハッキリ聞こえたから。あたしに向かって言ったのかなって、ちょっと振り向いたくらいだから。
でも、そうじゃないんだ。誰もこっちを見てないわけ。そのまま出るよね。振り向いたのもちょっとだし。
この違和感の正体は
出てさ。
駐車場まで歩いてる間の頭の中に、さっきの女将さんの声がずーっと残ってて。
「チャーシューはないけど、麺はあるんだからね!」
その、女将さんらしき人の言った言葉の内容的にも、バイトの子に向かって言ってるってのがわかるよね。一見の客に向かってこんな感じで言わないよね。言うとしたらどうかしてるでしょ。
えーと、その、この違和感わかりますかね。
読んでる人に伝わってんのかな。文章力がない上に、もしかするとみんなはこんなこと思わないのかもしれないんですけど。
普通さ、違うよね。
要はさ、客が来て。
まだ麺もスープもあるけど、そのお店で出してるメニューを成立させるにはトッピングに使ってる食材がないよ、っていう状態なんだと思うのね。
そこで、ここも推測だけど高校生とかでまだたぶん慣れてないであろう店員さんが、しまった思わず客を案内しちゃったけど、そういえばトッピングのチャーシューがなくなったって言われてた、ってなって。
で、客を帰そうとしてるのに女将さんが気がついたんだよね。
で、女将さんが店員さんに、チャーシューはないけど麺はあるんだよ、つまりラーメン自体は出せるんだと。
要するに、チャーシュー抜きみたいな感じになるけどラーメンは作れますがどうしますか、っていうふうな接客をしなさいよって、女将さんは言いたいんだと思うの。そこはいいよね、間違ってないよ。お客さんをただ帰すんじゃなくて、そういうのが接客ってもんでしょうよ。
でもさそれって、店員さんに言う前に、今帰ろうとしてる客のあたしに言うもんじゃないの?
店員さんが客を帰しちゃった、その客ももう出て行っちゃいそうだってなってるから、もういいやってこと?
いや、そりゃあもうチャーシューもない状態、そのラーメン屋はチャーシューがウリらしいんだけど、メインの自慢のチャーシューが品切れになるくらい稼いだんなら、今日はもう客が来なくていいやってなってても全然おかしいと思わないよ。
そこはこっちも気持ちがわかるっていうか。
さぞ忙しかったんたろうし、くたびれてるんだと思うんだ。今日はもうお客さんいいやってなってもおかしくないっていうか、むしろ人間ならそういうもんだよね。
じゃあもう暖簾下げりゃいいんじゃないの? 準備中にすればいいじゃない。
もしくは、お客さんちょっともう今日は品切れでって言えばさ、こっちだって別にゴネるつもりもないわけだし、実際そう言われてそのまま帰ろうとしてたわけ。
あたしにも聞こえるような声で、まだ麺もスープもあるんだからこういうふうに言いなさいみたいな指導をするのは、それはなんなの? 完全に帰ったあとで聞こえない状況になってからでよくない?
さまよえるラーメン難民がひとり
で。
次行こうと思って。
こっちはおなかがすいてっから。そんな、なんか妙なことで腹を立てるのもつまらないじゃん。それよりラーメンが食いてぇから。こうなったらラーメンを食うってことで、すべてを浄化して昇華させるしかねぇから。
またグーグルマップでラーメン屋って検索して、一番近くのラーメン屋に向かったんです。
そこはもう、駐車場からすでに明らかにいっぱいで。ダメじゃんってことになり。
とりあえず邪魔にならなそうなところにいったん車を停めて、またグーグルマップですよ。何回開くんだっていう。
もうなんでもいいっていう気分にもちょっとなってたよね。なってた。
三件目は結構デカいショッピングモールにあるラーメン屋で。入口の脇にベンチがあらかじめ置いてあって、そこに家族連れが待ってるのが見えるのね。
この時点で、普段のあたしなら100パーお店に入らないと思います。今、冷静になってみりゃあ絶対そう。
だってさ、ラーメン屋の店の造りからして、客が行列になる前提なのね。
お店はガラス張りになってて、玄関口を抜けてすぐにけっこう広めな空間があって、そこにベンチが置いてあるのが見えるんだ。
その向こうが店内になっててそこもガラス張りで、客が大勢いるのが見えるっていう造りなんです。
もうさ、そのウェイティングスペースっていうの? 客があふれて待ってる用の場所を、店を建てる段階で作っちゃうお店ってなんかやじゃない?
いや、全国区のデカいチェーン店とかならさ、話は別だと思うの。むしろ、待ってるお客さんをちゃんとケアするって意味では必要だと思うのね。
でもさ、例えばだけどラーメンを食べてほしいから修行してやっと店を出して、そこからも地道に改良を重ねてる間に、最初は一日で客が二人とか三人とかの日もあったけど、徐々に知名度が上がっていって、って感じの店では少なくともないじゃん。
もう、如何に効率よくやれるかっていうさ。
店を出すずいぶん前の段階からコンサルとかがガッツリ噛んでそうな、資本主義の権化みてぇな店じゃんか。資本主義ラーメンですよ、そんなものは。
マルクスラーメンでしょうよ。マルクスラーメンの味玉トッピングほうれん草山盛りエンゲル係数マシマシ味濃いめでしょうよ。
ラーメンができるまで
でもさ、こっちもお腹すいちゃってるしさ、二度もハズレを引いてっから。
幸い、家族連れが一組だけっぽかったし、じゃあもう行こうってことになりまして。
入口に行ってみたら、右側に縦長の空間があってそこにベンチが置いてあるの。一応建物の中になってるけど、店内に入るにはもうひとつドアをくぐっていく感じで。
で、その店内入口のドアに張り紙がしてあって、確かにベンチで並べってなってるんだけど、その前に店に入って名簿に何人で待ってるかと代表者の名前を書けと。
それが済んだら食券を買って、そこから外へ出て待ってろっていう仕組みなのね。
なんかいったん店に入るっていう導線もめんどくせぇなと思ったけど、後から別の家族連れも来てたしとりあえず店に入って名前書いてさ。
食券の販売機も、液晶画面があってタッチ式になってて、こんなラーメンがおすすめみたいな、ちょっとした動画が流れてるような最新式なのね。もう効率重視なんだって、絶対そうだって。
そりゃ、あたしのド偏見ですけどね。んもう、いけすかねぇ感じしかしねぇんだ。
で、あたしの後ろには並んで待ってるし、落ち着いてメニューを眺めてるような空気でもないのね。店の中も活気があってどんどんラーメン作ってギョウザ焼いてって感じでさ。お客さんもワイワイしながら食ってんだ。
で、もうなんでもいいやと、一番目立つ位置にあったタッチパネルのボタンを押してさ、突っ込むようにお札を入れてお釣りを取ってたら、店員さんがカウンターが空いてるからひとりならもう案内できるって言ってくれて。
あ、そういう気配りはするんだって。とにかく杓子定規にルールに沿ってやってますっていう感じでもないんだってなって。
ラッキーじゃないの、並ばなくていいの? ってことで、案内されたカウンター席に座ったんです。
座った位置の背中側は3、4人用のテーブル席がいくつかあるんだけど、どれも満席になっててガヤついてんだ。
お店のBGMも、なんか流行りのダンサブルなやつがたまたまなのか知らないけどかかってるし、ラーメンを食うっていう雰囲気でもない気がしてならないのね。色んな意味で全然落ち着かないわけ。
で、もう借りてきた猫が針のむしろに座らされてる感じで、ラーメンが来るまでちょっと待ってたんです。
謎の風習にまた出会う
店員さんも、忙しい感じではありながらも、どうやらちょっと私語というと感じが悪いけど、ちょっとした冗談を言い合いながらさ。やってんの。
えーと、言葉を選べよ…
そう、こういう時にいい言葉があるだろう…
えー、ほら、その、ほら…
そう、和気あいあい。これだ。和気あいあいだよ。これこれ。もうね、店員さんがみーんな和気あいあい。これだな。
で、その店のなんていえばいいのか、いい言葉が思いつかないんですけど。でも、これがあるから、あたしにしてみりゃ鬱陶しさに拍車がかかってるっていうやつがあって。
ラーメン屋とか、居酒屋さんとかのほうがそういうお店があるかな。
例えば店員さんの中でも厨房の方にいて、ラーメン作る担当の人が、ラーメンを作りながら、
「あい、味噌大盛り一丁あがりぃ!」
なんて張った感じの声を出すと、できたラーメンを運ぶ係の店員さんが、
「はい! みそ一丁あがりでぇーす! おまたせしましたー!」
的な返しをする感じの。コール&レスポンスじゃないけど、店員さんたちがなんか掛け声をかけあいながらやってる店ってあるよね。
あれがなんなのか、あたしゃサッパリ意味がわからないんだけど。威勢良さとかそういうノリのよさみたいなことなんじゃないの?
あのね。
あたしが変なんだってのはもう身にしみてんだ。こっちが悪いの。そんなのイチイチ気にせずに淡々と食って帰りゃあいいんだってのは、嫌と言うほどわかってるんです。
けど。
けど。けどってなるんです。
飲食店以外でも、コンビニでも昔はそういう感じのあったよね。最近は下火っていうか、あんまり聞かない気がするけど。
「なんとかチキン揚げたてでーす、ご一緒にいかがでしょうかぁ」
ってなったら別の店員さんが、
「いかがでしょうかぁー」
みたいにやる店あるじゃん。なにあれっていっつも思うんだけど。思うものはさ、こっちが変だって知ってても思うものはどうしようもないわけ。
謎の言葉
その店もそうだったんたけど、その掛け声的なやつがね。
盛らずに。少なくともあたしにはそう聞こえたんです。ね?
「※¥℃πおまち#%%のれっしやらぁぁぁ!」
…マジで。
「※¥℃πおまち#%%のれっしやらぁぁぁ!」
って、ラーメン作り担当が声を張り上げたら、
「あぁぁーりえってぃ!」
あぁぁーりえってぃ! の部分は5、6人いる店員さん全員で唱和ね。けっこう大声。しかも義務感ゼロの感じの。みんな心からやってますって感じの。
これね、盛らずにっていうかそもそも聞き取れねぇんだよ。
日本語とも違う、英語でもタガログ語でもフランス語でも、なんでしょうペッケレスマッチャ語でもないやつですよ。聞いたことのない言葉なんだって。いや、ペッケレスマッチャ語も聞いたことないけどさ、それすらも違うなって感じの。
ただ、よくよく考えると、似た言葉を聞いたことはあるんです。
深夜のコンビニの店員さんで、近い感じのことをしゃべる人が、たまにいるんですよ。今じゃ外国人の店員さんもめすらしくもないけど、どう見ても100パーセント純正日本人。
多分読んでる方の中にも遭遇したことがあるんじゃないかと思うんですけど。
「べっしゃめどーしゃ?」
って語りかけてくることがあって。これ、お弁当はあたためかすか? なんだけど。おそらく。たぶん。
あたしも長年、コンビニの店員さんにはお世話になってるからさ。だいたい、いい人たちなんだよ。
ただね、むしろ外国人の店員さんのほうが日本語が上手なんじゃないかって思うタイプの店員さんがいるんだって。
あのさ、英語を覚えるなら日本を飛び出して英語圏に行っちゃって、まず耳から慣らしてけみたいなやつあるじゃん。あれと一緒だから。
「べっしゃめどーしゃ?」
ってこの、深夜の他に客がいないコンビニで、ちょっと目が虚ろで、くせっ毛なのか盛大な寝癖なのか判断がつきかねる感じの店員さんがこう言ってきたら、お弁当あたためますか? ってことだって、こっちもわかってくるから。慣れてくるからからさ。
あとガソリンスタンドね。
今じゃセルフばっかりになったけど、昔の有人スタンドは店員さんが入ろうとしてるこっちを見つけると手を上げて、
「おー、おー、おー、お、あいそー!」(オーライ、オーライ、はいストップ)
って車を止めて、こっちがレギュラー満タン現金でって告げると、
「あい、れぎゃまー! おー↑おおー↓ せいおー!」(レギュラー満タン入ります その後はなんなのか解読不能)
って言いながら給油口にノズルをぶっ刺してから、
「中拭き用のタオルです、吸い殻、大丈夫ですか、あひ」
って言ってきて。ここはなんかしんないけど比較的わりとちゃんと日本語をしゃべるんだけどさ。
で、給油が終わると、
「れげねー!」(レギュラー満タンOK)
「たんはいさー! がー!」(満タン入りました。(別の店員さんに向かって)私がこの車の精算に行きますから、あなたは今入ってきた車の相手をして下さい。それが終わったらお昼の休憩に入っていいですよ。冷蔵庫に社長の差し入れの缶コーヒーが入ってますから飲んでくださいね。そうそう、社長にあったらお礼を言って下さい)
的な感じだったよね。
全国的にどうかは知らないよ、あたしの知ってるところの店員さんはそんな人もいたってだけだから。
麺よりも
あのね。
ラーメンの味とか入ってこないわけ。
ありえってぃとは。
不味くはなかったよ。たぶん美味かったんじゃないかな。覚えてないって。ありえってぃのせいで覚えちゃいないって。
まさかジブリとなにかしらの縁があるような店とは思えないんだ。
そうなるとなにかの言葉が、繰り返し口に出してる間に変化して変化して、そうなってるとしか思えないんだけど。
ありがとうございます説。
いやでも、語尾がえってぃになる? ありがとうございます、いやならないって。
てゆーか、そもそものさ。ラーメン作り担当の店員さんがなんか言ったのに対しての、ありえってぃなわけじゃん。でも、そもそもの方が聞き取れないんだもん。それなのに、返事の方を推測するのなんて無理だって。
ラーメンを頼んで食ってたおそらく15分とか20分の間に、そのコール&レスポンス的なのが3回あったんだけどさ。
それがある度に、奥のカーテンが開いてドラムソロが始まるとかさ、天井ががーって開いて上からドローンの大群が降りてきてR A M E Nの形に並ぶとか、客がひとりずつ倒れていくとかなんかあればさ。こっちも理解できるんだけど。
一度も、なーんにも聞き取れなかったなぁ。あれはなんて言っていて、なんでありえってぃになるんだろう。
食券制なんだけど、麺の茹で加減とかは直接店員さんが聞いてくるシステムだったんだけど、こちらからも質問タイムは受け付けてないっていうか。ありえってぃって一体その、なんなんですか、って言っていい状況でもなけりゃ間柄でもお日柄でもないっていう。
あのね。
たった一杯ですよ。お腹がすいて、たった一杯、ラーメンが食べたいっていうさ。
こちとらラーメンと言えばお湯を注いで三分待つ、あっちの方がおなじみなんだから。お店に行ってラーメンを食うなんて年に数回もないんだよ。
確かに下調べはしてないよ。そりゃあ悪かったよ。それがいけないってんなら非は認めますとも。
でもさ、こんなことある?
一日に三軒、そのうち店に入ったのは二軒だけど、その二軒ラーメン屋で二軒ともブログのネタになる、なるっていうかネタにしないと浮かばれないようなことに出会うと思う?
一軒目は食ってねぇから味とかわかんねぇし。
二軒目は入ってもいねぇし。
三軒目に至っては味わう以前に聞きたいことのほうが多すぎて困ってんだよ。あたしだって麺の話をしたがったよ。
そんなだよ。そんなになりたかなかったけど。そんなだよ。